ダイバーシティ&インクルージョン 2023~多様な「個」が自分らしく働くために~

【COLUMN】桃山学院大学

多様な人材を受け入れ、企業の価値を高めるダイバーシティ・マネジメントの重要性

国籍や人種の同質性が高く、ジェンダーギャップの大きさも指摘される日本において、企業がダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進していく上での障壁は少なくない。複数の企業で組織の人材開発やダイバーシティ推進に携わった後、現在はD&Iやリーダーシップ開発をテーマに研究や教育活動を行う酒井之子氏に、日本企業におけるD&I推進の現状や課題などを聞いた。

桃山学院大学 ビジネスデザイン学部ビジネスデザイン学科 特任准教授 酒井之子氏

酒井之子

桃山学院大学 ビジネスデザイン学部ビジネスデザイン学科 特任准教授

企業がD&I推進に取り組む背景

現在、日本企業がD&Iを推進している背景には、大きく2つの要因が考えられます。まず、長期雇用、フルタイム勤務、残業や転勤が可能という特徴を持つ人材が中心だった企業の人材構成が、時間や場所に制約がある人材の増加などで変化していることです。もう一つの理由としては、グローバル化、技術革新、先行き不透明なビジネス環境などがある中で、新たな経営価値やイノベーションを創出するために多様なスキルや経験、価値観を持つ人材が求められていることが挙げられます。ダイバーシティ・マネジメントとしては、前者を「守り」、後者を「攻め」と捉えることもできますが、どちらに重きを置いているかは、企業あるいは組織内の立場によって異なるのが現状です。

多様な組織を支える管理職の重要性

日本企業のD&I推進の取り組みは、多様な人材を支援・活用する職場風土の形成、多様な働き方を実現する人事制度改革に大別できます。前者では、経営トップのもとで理念や行動指針をダイバーシティ・マネジメントと関連付け、内外に発信する取り組みが増えています。後者では、時間や場所に縛られない働き方をあらゆる社員が選択できる環境の整備や、年齢、性別、国籍などにとらわれない評価制度の導入などが進んでいます。

トップが打ち出したダイバーシティ・マネジメントや新しい人事制度を現場で機能させることが多くの企業における目下の課題となっており、現在の管理職の意識改革を行うだけではなく、多様な社員一人ひとりと対話ができる人材を管理職として育成・登用していく重要性も高まっています。

相互理解を促すオープンな対話

日本におけるダイバーシティは、「女性」、「障がい者」、「外国人」などの属性にフォーカスされがちですが、誰のためのD&I推進なのかを改めて考えることも大切です。仮に育児や介護は女性の役割という認識が職場にあると、本来全従業員のためにある制度が女性を優遇する施策だと捉えられ、組織が分断しかねません。こうした状況を避けるためにも、ITツールなどを有効活用しながら理念や行動指針の共有を徹底し、誰もが情報にアクセスできるようにオープンなコミュニケーションを設計することで、疎外感を覚えることなくお互いが理解し合える環境をつくっていくことが重要です。

広範かつ複合的であるD&Iを推進していくためには時間と手間がかかります。成果が現れるまでに時間を要することを前提とした上で、経営トップから現場の従業員まであらゆる立場の人たちが、組織を構成する多様な人材の一員として主体的に対話を重ね、自分たちなりの取り組みを継続していくことが大切なのではないでしょうか。

お互いを理解し合える環境づくりがD&Iには欠かせない
オープンなコミュニケーションでお互いを理解し合える環境づくりがD&Iには欠かせない。