アフターコロナを勝ち抜く、繊維カンパニーのビジネス戦略

[出席者]伊藤忠商事株式会社
執行役員 繊維カンパニー プレジデント 武内秀人 ファッションアパレル部門長 中西英雄
執行役員 ブランドマーケティング部門長 福垣 学 准執行役員 繊維経営企画部長(兼)CP・CITIC戦略室 大室良磨
[出席者]伊藤忠商事株式会社
執行役員 繊維カンパニー プレジデント 武内秀人
ファッションアパレル部門長 中西英雄
執行役員 ブランドマーケティング部門長 福垣 学
准執行役員 繊維経営企画部長(兼)CP・CITIC戦略室 大室良磨

2019年末以降のコロナ禍によって、繊維業界が苦況に追い込まれる中、カンパニー内の部門統合や事業会社の再編などさまざまな改革に踏み切る一方、新規ブランドを積極的に導入するなど、アフターコロナを見据えてビジネスの立て直しを図ってきた伊藤忠商事 繊維カンパニー。この4月には、ブランドマーケティング部門長を務めてきた武内秀人氏が新プレジデントに就任し、後任となる福垣学ブランドマーケティング新部門長、2021年度から現職を務める中西英雄ファッションアパレル部門長による新体制がスタートした。これからの繊維カンパニーを牽引する面々に、コロナ禍の3年間における取り組みやアフターコロナを見据えた今後のビジネス戦略を聞いた。

コロナ禍のさまざまな取り組みが花開くときが到来(1)

執行役員 繊維カンパニー プレジデント 武内秀人

武内秀人

執行役員 繊維カンパニー プレジデント

1988年入社。1990年に研修生としてフランス、ベルギーへ。2007年ブランドマーケティング第八課長、2010年ブランドマーケティング第三部長代行(兼)ブランドマーケティング第八課長などを経て、2014年ブランドマーケティング第三部長。2016年(株)ジョイックスコーポレーションに出向し、2017年に代表取締役社長就任。2020年ブランドマーケティング第一部門長、2021年ブランドマーケティング第二部門長、2022年7月ブランドマーケティング部門長を経て、2023年4月より現職。

生産や販売におけるコーディネーションこそ商社の得意とするところ (武内)

執行役員 繊維カンパニー プレジデント 武内秀人(以下、武内)本日はコロナ禍のビジネスを振り返りつつ、アフターコロナを見据えた次なる戦略についてお話しできたらと思います。まずは、進行役の大室部長にコロナ禍と現状についてお話しいただきます。

准執行役員 繊維経営企画部長(兼)CP・CITIC戦略室 大室良磨(以下、大室)コロナ禍を経て、ビジネスを取り巻く環境は大きく変化しました。在宅勤務が浸透したことによって巣ごもり需要関連の消費が加速し、EC市場も大きく成長しました。また、百貨店の外商や高級自動車など富裕層の消費も堅調に推移しましたが、一方でコロナ禍によるグローバル・サプライチェーンの分断が物流の混乱を招きました。新疆ウイグル自治区の人権問題による米中間の対立、ロシアのウクライナ侵攻やそれに伴う資源価格の高騰、急激な円安の進行など不安定な国際情勢も世界経済に大きな影響を与えています。まさにVUCA時代が加速しているような様相です。

コロナ禍において繊維カンパニーでは、「低重心」をキーワードに「削る」、「防ぐ」を徹底し、アフターコロナを見据えたさまざまな施策を行いました。まずは、この3年間の取り組みについて両部門長にお話しいただきたいと思います。

ファッションアパレル部門長 中西英雄(以下、中西)2021年度に部門長に着任して以来、サステナブル素材を起点としたバリューチェーンの強化、マーケットイン発想によるビジネスモデルの構築、スポーツ分野の強化の3つを戦略の柱に掲げてきました。

まず、サステナブル素材に関しては、循環型経済の実現を目指して2019年に立ち上げた、再生ポリエステルのプロジェクト「RENU(レニュー)」をさまざまな形で広げてきました。また、2022年春にはエコミット社と業務提携し、繊維製品の回収サービス「WEAR TO FASHION(ウェア・トゥ・ファッション)」を立ち上げました。さまざまな拠点で排出される繊維製品をエコミット社のノウハウを活用して回収・選別のうえ、リユース可能な製品はリユースし、リサイクル可能なポリエステル製品は 「RENU」の原材料に使用する取り組みを始めました。2022年末にはポリエステルのケミカルリサイクル技術のライセンスを目的に、帝人、日揮ホールディングス、伊藤忠による合弁会社「RePEaT(リピート)」を設立し、「RENU」の取り組みを世界各地に広げていくことを目指しています。

直近では、2023年3月よりレゾナック社の協力のもと、使用済みプラスチックや繊維製品を固形化し、低炭素アンモニアなどの化学製品に再生する「ARChemia(アルケミア)プロジェクト」もスタートしています。

大室マーケットイン発想によるビジネスの構築、スポーツ分野に関してはいかがでしょうか。

中西原料から小売まで繊維産業のバリューチェーン全体を押さえていることが当部門の強みです。いわゆる川下にあたるマーケットとの接点も多く、消費者の情報を得やすいことから、これらを活用しながらビジネスを組み立てるということを継続しています。このマーケットインの発想は、我々のグローバル・サプライチェーンを強化する上で欠かせない要素になっています。

スポーツに関しては、事業会社である株式会社デサントや「UNDER ARMOUR(アンダーアーマー)」の日本総代理店である株式会社ドームが軸になっています。デサントに関しては日中韓各国で安定した利益が出る体質になってきています。昨年買収したドームは基盤づくりを終えた段階にあり、2023年度以降はさらに成長を加速させていきたいと考えています。

大室良磨、福垣 学、武内秀人、中西英雄
左から、大室良磨、福垣 学、武内秀人、中西英雄