メタバースが切り拓くファッションビジネスの未来

【COLUMN】

メタバース普及のカギは生活の延長線上にある「接点」づくり

コロナ禍の行動制限によって急速に注目されるようになったメタバース。すでにファッション領域においてもさまざまな取り組みが行われているが、乗り越えるべき障壁や課題も少なくないのが現状だ。2022年3月まで『ZOZO FashionTechNews』の編集長を務め、現在もファッションとテクノロジーの関係性を研究と実践の両面から探求している藤嶋陽子氏に、メタバースやバーチャルファッション領域の最新動向、今後の可能性などを聞いた。

明治大学商学部 特任講師/Synflux株式会社 リサーチリード/理研AIP 客員研究員 藤嶋陽子氏

明治大学商学部 特任講師/Synflux株式会社 リサーチリード/理研AIP 客員研究員

藤嶋陽子

模索が続くリアル/デジタルの関係性

昨今注目されているメタバースですが、コンセプト自体は目新しいものではなく、過去にも米国企業による「セカンドライフ(Second Life)」などの事例がありました。メタバースにおけるファッションに関しても、「アメーバピグ」などアバターの着せ替えができるコミュニティサービスが過去にもありましたが、コロナ禍に人気を集めた任天堂株式会社の「あつまれ どうぶつの森」は、多くのブランドがユーザーとのエンゲージメントのために活用した点で大きな契機になりました。

他方、「一度SNSで着た服は着たくない」というニーズに対し、北欧のファッションEC「カーリングス(Carlings)」などがサステナビリティの観点から自分の写真に合成できるデジタル上の洋服の販売を始めたことも、話題になりました。最近では、デジタルなファッションアイテムがNFT作品として販売されることも多く、「Dolce&Gabbana」が現物のオートクチュール作品と連動したNFTコレクションを販売するなど、リアル/デジタルの関係性を探る試みも見られます。

バーチャルファッションは普及するか

メタバースやバーチャルファッションが消費者にもたらす価値についても考慮する必要があります。例えば、NFTで購入したバーチャルファッションは、デジタルデータとして保有はできても、十分なデータの設計なしではそれを着て多様なメタバース空間を歩けるわけではなく、現状でそこまでできている事例は少数であるということは理解しておくべきでしょう。

国内ブランドの「クロマ(chloma)」が実践しているように、すでにメタバースを楽しんでいるプレイヤーたちと交流し、バーチャルファッションを楽しむユーザーのコミュニティを形成していく取り組みにも意義があります。しかし、メタバースに日常的にアクセスする層はまだ限られていることも事実です。デバイスや操作性などの課題も多く、消費という観点からもECを上回る利便性があるとはいえない中で、いかにメタバースやバーチャルファッションの「使いどころ」を生活の延長線上に設けていけるかがカギになるのではないでしょうか。

アパレル企業がメタバースでできること

デバイスなど、メディア環境が更新されることで、メタバースがより身近で、便利で、心地良いものになり、仮想空間上でのショッピングやファッションが一般的になる未来も考えられます。そうなったときには、肌の色や性別、体型など現実世界の制約にとらわれない多様なアバターの選択肢が生まれているはずです。こういったメタバースでの実践からファッションの役割が再定義されていくとも考えられ、個人的に探求していきたいテーマです。

アパレル企業がメタバースに参入する際には、単にアバターをつくったり、既存の商品をデジタル化するだけではなく、ブランドの価値やアパレル産業が果たしてきた役割の延長線上に、どのような新しい事業やビジネスモデルをつくるかまで踏み込んで考えていくことが大切だと感じています。また、技術的な障壁もあるため、領域を越えた協業も求められるはずです。現在私が所属するSynflux株式会社もバーチャルファッション領域での活動を開始しており、自社の技術基盤を活かしたコラボレーションなどにも取り組んでいきたいと考えています。

「WORTH- ダイエジェティック・コレクション- 撤退線 β」
Synfluxは「2121年 Futures In-Sight」展に出展。ここで初披露された「WORTH- ダイエジェティック・コレクション- 撤退線 β」は、バーチャルファッションと現実世界に存在する服を両立させた作品で、ティザームービーがNFT作品として公開されている。