CSOインタビュー

経営環境の変化を新たな成長機会と捉え、「攻め」と「守り」が両立する戦略を武器に、ステークホルダーの期待値の最大化に繋げていきます。

代表取締役 執行役員 CSO
(兼)グループCEOオフィス長

中 宏之

現在の伊藤忠商事を取り巻く経営環境と2023年度の期初計画について教えてください。

不透明かつ不確実な経営環境下、景気変動耐性の高い安定的な収益力を示す計画としています。

この数年間の経営環境を振り返りますと、新型コロナウイルスの感染拡大に端を発した世界経済の混乱は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻とその長期化により、極めて不透明かつ不確実な状況が継続しています。それらに付随する形で、サプライチェーンの分断や資源価格等の高騰が深刻化、この資源価格等の高騰が招いた原材料高はインフレへと発展し、更にインフレを抑制するための利上げが極端な為替の円安を誘導するといった、複数の可変要因が複雑に連鎖している状況です。また、実質GDP成長率は、世界中がコロナ禍にあった2020年のマイナス成長から2021年は大幅に反転し、2022年についても先進国、新興国・発展途上国共に一定の成長率を維持していましたが、2023年度計画の公表直前となった4月時点の国際通貨基金(IMF)の見通しでは、2023年は経済の回復は二極化し、米国とユーロ圏を中心とする先進国の大幅な減速と、中国とインドを中心とする新興国・発展途上国の堅調な推移というシナリオが示されました。(→PEST分析(2030年までのマクロ環境要因))

また、日本経済の2023年見通しは、新型コロナウイルスによる行動制限の解除に伴い、本格的なリベンジ消費が期待されることに加え、インバウンド需要の下支え、金融緩和策の継続が企業の資金調達や設備投資拡大を後押しする等、賃金上昇や政府のインフレ抑止策とも相まって、緩やかに景気回復力を強めていく見通しとなっています。

このような経営環境下、2023年度の期初計画については、資源価格と為替水準は徐々に平準化に向かう保守的な前提を用いた上で、当社の強みである非資源分野の利益伸長と成長投資の実行に伴う一定程度のリターンを織り込み、「稼ぐ」力を表す基礎収益の期初計画は、3年連続で過去最高を更新する8,000億円としました。この基礎収益に一過性利益(300億円)と例年以上に保守的に設定したバッファー(▲500億円)をネットした連結純利益の期初計画は、7,800億円としています。資源価格が徐々に落ち着きを取り戻しつつある中で、当社の景気変動耐性の高い安定的な収益力を示す、「8,000億円の収益ステージ」にふさわしい計画としています。(→2023年度 短期経営計画)[PDF]

2023年度業績につきましては、当社ビジネスが下期偏重型である点を考慮すれば、非常に順調な滑り出しを見せています。引続き、経営環境の急激な変化を注視しつつ、CSOとして先手先手の戦略と対応策を講じることで、まずは期初計画の確実な達成を図り、財務・非財務を両輪とする持続的な企業価値の向上に努めていく所存です。

成長投資を行う際の留意点とCITIC業績の2023年度見通しについて教えてください。

成長投資は「投資の4つの教訓」を意識すること、CITIC業績は堅調な推移を想定しています。

2023年度は、「8,000億円の収益ステージ」の次の収益ステージを見据え、成長投資に舵を切る年と位置付けています。当社のエクスポージャーは、非資源分野が約8~9割を占めており、現時点では今後もこの割合を維持する考えです。ステークホルダー、特に投資家の皆様からは、「選択と集中」を行って、強みである非資源分野に特化すべきといったご意見をいただくこともありますが、上述の経営環境下においては、分散されたポートフォリオはエクスポージャー全体のリスク低減に繋がると考えており、資源分野のビジネスを直接行うことで得られる知見が非資源分野のビジネスに活かされているのも事実です。総合商社の「総合力」は、「コングロマリット・プレミアム」の要因になっていると判断しています。

成長投資の実行に際しては、昨年のこの場で詳細に説明しました「投資の4つの教訓」、すなわち① 高値掴み、② 取込利益狙い、③ パートナーへの依存・過信、④ ハンズオン不足の4点を防止すべく、当社内での徹底を図っています。特に、投資実行前における事業計画の精査とデューデリジェンスの徹底による高買い防止、実効性のあるEXIT策の確保、更には経営体制の確認といった基本動作を徹底すると共に、投資実行後においても一律の対応でなく、責任者が自ら現場に赴き、実情に即した課題解決策を早期に実施することが、重要であると考えています。(→投資の4つの教訓)[PDF]

また、CITIC業績は、2015年の当社の出資以降、8年連続で過去最高益を更新する等、極めて順調に推移しており、2023年度につきましても傘下のCITIC Bankと共に堅調な出だしとなっています。米中貿易摩擦や台湾情勢、中国国内の景気下振れ圧力や米国発の金融不安、低バリュエーションの株価等といった注視すべき要因はあるものの、引続き政府の国有企業強化方針が示されていることから、CITIC自体の経営基盤は底堅いと判断しており、2023年度も2022年度と同様の堅調な業績を想定しています。

グループCEOオフィス新設の背景について教えてください。

既存の枠組みにとらわれず、経営環境の変化に対応すべく、組織のアップグレードを図りました。

今年4月より発足したグループCEOオフィスは会長CEOの直轄組織になりますが、私、CSOを組織長とするバーチャルな組織として、業務部長、人事・総務部長、統合RM部長、再開発プロジェクト室長が本組織を兼務した上で、案件毎に必要な役員・社員を招集することにしています。グループCEOオフィスは、グループ経営を従来以上に強化させるべく、経営人材の育成や選定、当社グループ内における資産・経費・人員等の適正配分を立案し、グループ全体の合理化策を推進すると共に、評価や表彰を通したグループエンゲージメントの強化といった実務を担う組織になります。当社が連結経営を推進する上で、グループ会社は非常に重要な存在ですが、グループ会社の社長は当社で実績を上げた、いわば「大物」であることが多く、当社のカンパニープレジデントよりも年齢が上で、元上司にあたるケースも少なくありません。カンパニープレジデントからすれば、時に遠慮が生じ、グループ会社の社長からすれば元部下に相談しづらい、そのような状況が生じ得ないように、会長CEOの直接的な指導に基づき、グループCEOオフィスがカンパニーとグループ会社の双方を側面支援していく方針です。

また、今般の組織改編に伴い、2019年7月に設立した第8カンパニーをグループCEOオフィスの管下に配置しました。第8カンパニーの役割自体に変更はありませんが、こちらも従来以上に会長CEOがグループ会社への指導や統轄を直接的に担うことで、グループ会社間の関係強化と利害調整、待遇の不平等の解消を図ることを目的としています。コンビニエンスストア事業は巨大なサプライチェーンを有効に機能させることが極めて重要ですが、グループ会社がより一層ファミリーマートを支え、当社グループ全体がより早く同じ方向を向くことで、総合商社の「総合力」を更に発揮していく考えです。