COOメッセージ

COOメッセージ

自身に課せられた使命である「商いの次世代化」を確実に推進し、次世代の伊藤忠商事を創り上げていきます。

2018年4月1日より、社長COOに就任いたしました鈴木善久でございます。
先輩方が築き上げてこられた伊藤忠商事の歴史の重みを肝に銘じ、日々精進を怠らず、企業価値の向上にまい進していく所存です。
この場をお借りして、株主、投資家の皆様をはじめ、すべてのステークホルダーの皆様にご挨拶申し上げます。

代表取締役社長COO
鈴木 善久

謙虚、勉強、挑戦

大学時代に航空工学を学び、航空機を扱う仕事への憧れを抱いていた私が、就職先に選んだのが伊藤忠商事でした。念願かなって配属された航空機部門では、宇宙関連ビジネスに携わる機会をいただきました。

1980年代のヨーロッパでは、通信衛星打ち上げの民営化が進んでいました。日本でのビジネス化を予想する人は、ほとんどいませんでしたが、当社はその可能性を信じ、宇宙関連ビジネスに乗り出していました。数年後、国内でも民営化され、当社は通信衛星打ち上げサービスの代理店契約を獲得することになります。このプロジェクトを通じ、日本の経済成長の先兵役となり、国内外で常に新領域に挑戦し続けるのが総合商社であることを、身をもって痛切に感じました。最先端の領域に踏み出すには、その道に長じた人に謙虚な姿勢で教えを請わねばなりません。当社の高い環境適応能力の源泉は、「謙虚な姿勢で、勉強を怠らず、失敗を恐れず挑戦し続ける」ことであるという考えを自身の信条とし、これまで常に心がけてきました。

居安思危

挑戦が大きな失敗に終わったこともあります。2007年4月に当社の米国現地法人である伊藤忠インターナショナル会社(III)の社長に就任しましたが、その頃の米国金融業界は空前の好況に沸いており、IIIの業績も好調でした。私は、当時の当社には存在しなかった投資銀行モデルに挑戦していましたが、そうした矢先、リーマンショックが到来し、投資先の企業価値は瞬く間に下落、IIIの業績は大幅に悪化しました。この経験を通じて多くのことを学びました。一つは、当社のあるべき投資は、現業に付加する形でトレード等のビジネスを拡げていくことを目的としたものであり、キャピタルゲインを追求する投資銀行モデルではないということです。また、好調な時にこそ、最悪の事態を想定して備えを怠るべきではないという教訓も得ました。それ以来、「居安思危(安きに居りて危うきを思う)」を胸に刻んできました。

2011年3月に当社の常務執行役員を退任し、航空機内装メーカーである(株)ジャムコに移りました。超円高と東日本大震災による工場の被災等の難題に直面する中、全社一丸となって、メーカーとして大切にするべき品質と納期、そしてお客様との信頼関係を追求した結果、収益力は大きく改善していき、2015年3月には東京証券取引所第一部への指定を実現しました。共に励まし合いながら乗り越えてきた社員をはじめ、ご支援いただいた方々には、今でも感謝の念に堪えません。

「次世代化」の使命を担う

2016年4月には、情報・金融カンパニープレジデントとして、伊藤忠商事本体に復帰しました。出向や転籍した傘下企業から親会社への復帰は、世の中ではあまり一般的ではないのではないかと思います。一方の当社は、成果を上げれば伊藤忠商事本体であろうと事業会社であろうと公平に評価される企業文化があり、このような復帰も特別なことではありません。2017年度の当社の史上最高益更新は、事業会社の利益貢献を含めた当社の連結経営の成果であり、それは絶えず臨機応変に適材適所を模索するといった戦略の成果といっても過言ではありません。

2018年1月、岡藤社長(現会長CEO)から社長就任についてのお話をいただきました。大変驚きましたが、4月以降は岡藤会長CEOが伊藤忠グループ全体の将来戦略を策定し、私が社長COOとして、各カンパニーと共に実行に移していくという役割分担をお聞きし、これなら自信を持って取組むことができると考え、お受けしました。その中でも特に重要なのは、当社ビジネスの次世代化を推進していくことだと認識しており、また、これまで岡藤会長CEOが一人で背負ってきた業務をきめ細かく分担することで、1+1=2以上の推進力を発揮していきたいと考えています。

動きの悪い巨象

2年前から岡藤会長CEOは、デジタル革命に対応して当社のビジネスを進化させていく必要性を強く認識していました。私も危機感や課題を共有しながら、「次世代商人」のあり方を考えてきました。

海外では、極めて速いスピードでデジタル革命が進展しています。特に、規制面でのハードルが低い中国は、世界経済における先端技術の大規模な実験場的な機能も担っています。例えば、当社が強みを持つ非資源分野、特に生活消費関連では、既にメーカーと小売を直接繋ぐビジネスモデルの形成が進んでいます。中国で生まれた画期的なビジネスモデルが、アジア・中近東・アフリカに伝播するという流れは、遅かれ早かれ日本にも到来することでしょう。従い、当社も旧態依然としたビジネスモデルは早急に「進化」させていく必要があります。しかし、既存事業が好調であればあるほど、「動きの悪い巨象」になっているのではないかという危機感を募らせています。社員一人ひとりに変革の必要性を心の底から意識させ、本来の「ハングリー精神」を呼び覚ますことが、私にとっての最初の課題と捉え、全力で取組みを進めていきます。

先端技術でビジネスを「バージョンアップ」

新中期経営計画「Brand-new Deal 2020」では、「次世代“商い”」と「次世代“働き方”」を両輪とし、当社を「次世代商人」に進化させていきます。社員の働きがいを向上させ、更なる利益成長を達成することで社会からの評価も高め、優秀な社員や新たなお客様が集まる好循環ー新時代「三方よし」ーを実現し、持続的な成長を実現していく考えです。(→新中計経営計画)[PDF]

基本方針の一つである「商いの次世代化」では、CSO傘下の「次世代ビジネス推進ユニット」が中心となって、すべての領域で次世代ビジネスの創造を進めています。

「商いの次世代化」は、全く異なる「飛び地」のような事業分野で、大規模な投資を行うものではありません。当社が長い時間をかけて磨いてきた幅広いリアルビジネスに、これまでとは異なる視点、あるいはパートナーシップを通じて先端技術を付加し、効率的に「バージョンアップ」していくというのがコンセプトです。(→「商いの次世代化」に向けて)例えば、伊藤忠飼料(株)がNTTテクノクロス(株)と共同で開発した「デジタル目勘(めかん)」は、熟練者が外見で判断していた豚の体重をAIが推定する技術をアプリ化し、出荷時の体重の違いで豚の販売価格が変わることに悩む養豚業界に大きな効率性をもたらす技術であり「バージョンアップ」の好例です。また、英国Moixa社のAIを蓄電池に活用したプラットフォーム技術ソフトウェアを、当社の蓄電システムに搭載した蓄電最適サービスも、先端テクノロジーで既存ビジネスを進化させた一例です。

こうした新しいビジネスの種をモビリティやアグリテック、再生医療、先進物流、新素材、フィンテック等の様々な領域で蒔いていきます。今は小さな芽が徐々に育っていき、いずれは大木として当社のビジネスを担っていく、そのような案件を着実に増やすことを考えています。

業界に先駆けたベンチャー投資

「次世代化」を進めていく上では、ベンチャー投資も一つの有力な手段としていきます。当社のベンチャー投資の歴史は、インターネット黎明期に差し掛かったばかりの1990年代前半まで遡り、米国や国内でファンドや直接投資等による数々の実績を上げてきました。2000年代にインターネットが急速に普及する中、米国の先端テクノロジーを日本で展開する「タイムマシンモデル」で、インターネット証券や検索ポータルサイト等の新ビジネスを生み出しました。現在もAIやフィンテック、デジタルマーケティング他、様々なジャンルで豊富なベンチャー投資ポートフォリオを構築しています。

こうした実績や歴史を背景に、シリコンバレー等で構築する有力ファンド等とのネットワークやベンチャー投資のノウハウがあるからこそ、決して大きな投資枠を設けなくても効率的なベンチャー投資が可能であるというのが当社の判断です。中国向け越境EC取引市場への参入を目的とした、Inagora(株)への戦略的投資に代表されるように、ベンチャー投資もプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)のようにキャピタルゲインや配当のみを目的とするものではなく、現業に新技術を付加する投資や、その先に様々な「商い」を拡げていく投資が基本です。(→一般的なプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)と当社との相違点)[PDF]

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忘れてはならない「源流」

先に少し触れた「謙虚さ」に関しては、「商人」という立場での格別なこだわりがあります。総合商社は「ミドルマン」と呼ばれることもある通り、商流の川中を源流とし、トレードを生業としてきました。これが意味することは、「川上」と「川下」のどちらを向いてもお客様だということです。いかに事業投資を絡めながらビジネスモデルを進化させようとも、いかに業績が好調であろうとも、当社、すなわち「商人」は、生まれ持った血筋を忘れることなく、常に謙虚であり続けるべきだと考えています。そしてこれは、当社が受け継いできた近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の経営哲学と一致する考え方だと思います。

「売り手」「買い手」に加え「世間」がある通り、160年以上も前から、商いを続けていく上では社会の利益を重んじることが大切であるという精神が、「三方よし」に埋め込まれていました。当社は現在、世界中の様々な産業にバリューチェーンを拡げています。ビジネスを永続的に発展させていくためには、川上・川下「両側」のお客様にとどまらず、お客様の先にいる消費者、更には自社のバリューチェーンから視野を広げ、事業を展開する地域社会、そして地球環境等、幅広いステークホルダーへの配慮が求められます。まさにコーポレートメッセージに謳われている「無数の使命」が、当社にはあるのです。

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失敗を恐れず、挑戦すべき時

ダーウィンが「適者生存」で、生き残ることができるのは、最も優れた生体能力を持つものではなく、環境の変化に順応できる種族であると主張していますが、これは総合商社にも当てはまります。今後、勝ち残るためには、今ある資産規模や財閥のような体力ではなく、刻一刻と変化する経営環境にいかに順応していくかが重要になります。そのような柔軟かつスピーディーな環境適応能力が、伊藤忠商事にはあると確信しています。それは、「失敗しないことより、失敗しても起き上がることを良しとする」という企業風土が礎になっているのです。事実、近江商人の初代伊藤忠兵衛が、麻布の持ち下りを開始した創業期、冒頭でお話しした民間初の通信衛星を打ち上げた1980年代、(株)ファミリーマートへの投資を通じてコンビニエンスストア(CVS)事業に進出した1990年代、そして近年のDole事業やCITIC/CPグループへの大型投資等は、すべて総合商社として初めての挑戦でした。

そうした「挑み続けるDNA」の潜在力を解き放ち、私の使命である「稼ぐ・削る・防ぐ」の更なる進化を確実に遂行し、次世代の伊藤忠商事を創り上げていく所存です。株主、投資家並びにすべてのステークホルダーの皆様におかれましては、引続き当社をご支援賜りますようお願い申し上げます。