CEOメッセージ

CEOメッセージ
CEOメッセージ

伊藤忠商事は、変化に対して「守り」に入ることはありません。
「次世代商人」への進化を果たすべく、先駆けて挑戦する企業文化の真価を存分に発揮していきます。

当社は、2017年度決算において、2年連続で連結純利益の過去最高益を更新し、中期経営計画「Brand-new Deal 2017」でコミットした「4,000億円に向けた収益基盤構築」を達成しました。
創業160周年となる2018年度は、新たな中期経営計画「Brand-new Deal 2020」をスタートさせ、伊藤忠グループ一丸となって新たな挑戦に踏み出していきます。
当社は、目指す姿である「次世代商人」に向け、商売の基本「稼ぐ・削る・防ぐ」を更に進化させていきます。
(→BND2017総括レビュー)[PDF](→新中計経営計画)[PDF]

代表取締役会長CEO
岡藤 正広

所信表明を読み返す

2010年の4月某日、私は重い足取りで大阪から上京しました。それに先立つ2月11日、当時の小林社長から次期社長への就任を告げられていました。冷たい雨が降りしきる中、150年を超える歴史、連結60,000人以上の社員とその家族の生活を担う責任の重みを肩に感じたのを今でも鮮明に覚えています。それまで当社の歴代社長の多くは、東京本社の経営企画畑が就任しており、繊維カンパニーからの就任は実に36年ぶりのことでした。当時の足取りの重さは、東京から遠く離れ、規模も小さくなった大阪に本拠を置くカンパニー出身という、傍流意識のようなものがあったからかもしれません。

最初の数年間は孤独感を抱え、一人で当社の将来像とそこに至るまでの道のりを考え抜きました。そして立てた目標が、「大手財閥系商社に比肩する会社にする」というものでした。無論、そうした想いを語っても、業界4位が定位置だった当時の当社で共感する人はほとんどいなかったでしょう。夢は心にとどめ、全社員がついてくるよう確実に達成できる目標を掲げると共に、繊維カンパニー時代の成功体験の原点となった「商人としての基本」を忠実に実行していく決意を固めました。そうした覚悟を凝縮した所信表明を常に懐に抱き、立ち止まっては読み返してきた8年間でした。「業界3位」「非資源No.1商社」「商社2強」と一歩一歩着実なステップを踏みながら、夢を現実のものとしてきた現在、伊藤忠グループ全体は一枚岩のように結束しています。就任時の孤独感は消え失せ、当社の社員も事業会社の社員もまるで家族のように思えています。

傍から見ると、当社のこれまでの道のりは順風満帆に見えたかもしれません。しかしながら、私はいかに前進しようとも、常に危機感に駆り立てられながら歩んできました。企業経営者には楽観主義の人間が多いようですが、どうやら私は悲観主義の人間のようです。そして今、大きな危機感を胸に「初心に立ち返らねば」と、再び所信表明を読み返しています。

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かつてない大きな脅威に直面する総合商社

市況、あるいは、今後のテクノロジーの進化や脱炭素社会への取組み次第では「単なる石ころ」にもなり得る資源をはじめ、今もなおオールドエコノミーにどっぷりと浸かっている総合商社そのものに対して、大きな危機感を抱いています。

私は2017年11月に渡米し、現地ビジネスの現状を視察しました。そこで、巨大EC企業がリアル店舗に進出する足掛かりとして買収したスーパーに赴き、世界で進む「ネットとリアルの融合」を目の当たりにしてきました。創業から間もない企業が、ちょっとしたアイデアとIT技術を結び付け、短期間で巨大企業に躍進する勢いも肌で感じてきました。米国や中国では、過去10年間で株式市場の時価総額上位5社は、重厚長大型企業からIT企業にとって代わられています。一方、日本ではその顔ぶれに大きな変化はありません。規制によって変化が緩慢な日本にいると、世界中のあらゆる産業分野で、驚異的なスピードで進んでいる産業革命以来の地殻変動を、「一部の国の特定の業界で起こっている変化」と錯覚しかねません。鎖国時代のように外界に目を背けていては、「日本全体が危うくなるのでは」という懸念すら抱いているところです。

過去を振り返ると、総合商社は幾多の「冬の時代」と呼ばれる難局に直面してきました。そのたびに商流の上・下流に投資したり、機能を高度化したりして、「中抜き」と呼ばれる脅威を必死に乗り越えてきました。しかし、「第4次産業革命」に伴う脅威は、それまでとはまるで様相が異なります。これまで接点を持ってきた重厚長大型企業の影響力が低下する一方で、革命をリードしている企業との接点が限られているのが、今の総合商社の実態です。そしてそれらの企業は、総合商社の中核的な機能である「中間流通」を必要としないビジネスモデルで様々な商流に進出しています。大手総合商社は、各社とも業績が好調で、2017年度には合わせて約2兆円もの利益を叩き出しています。しかし、これまでの延長線上を歩むとすれば、そう遠くない時期にビジネスモデルが行き詰まる可能性があるとすら考えています。

人も企業も「今後も上手くいく」と楽観視した途端に、
足元から崩れ落ちていきます。そして当社も絶好調だからこそ、
「慢心を戒めなければ」と危機感を抱いているのです。

今こそ慢心を戒める時

二つ目の危機感は、伊藤忠商事に対するものです。

「Brand-new Deal 2017」の最終年度である2017年度は、多くの目標を達成できた一年でした。連結純利益は、2期連続で史上最高益を達成し、売上総利益、営業利益、持分法投資損益も過去最高を更新しました。資源価格に左右されない収益基盤を創り上げてきた結果、基本方針の一つとして掲げた「4,000億円に向けた収益基盤構築」を達成することができました。伊藤忠グループが一体となった「稼ぐ・削る・防ぐ」の推進が奏功し、事業会社損益、黒字会社比率、黒字会社利益は、いずれも過去最高を更新し、当社の連結純利益の史上最高益の更新に大きく貢献しました。懸念案件に対する早めの手当によって連結純利益では業界3位となりましたが、一過性損益を除いた基礎収益では初めて4,000億円を突破する等、着実に「稼ぐ力」の強化が図られてきた証をお見せすることができました。実質的なフリー・キャッシュ・フローはコミットした「1,000億円以上+α」の1,750億円を確保し、NET DERは過去最も良好な0.87倍になる等、もう一つの基本方針である「財務体質強化」も十分に達成できました。約20年越しの悲願だったムーディーズのA格を取得することができたのは、非常に大きな成果です。(→CFOインタビュー)

快進撃を続けている時こそ、往々にして危機が目前に迫っているものです。バブル景気を謳歌し、その崩壊に伴う負の遺産の処理で、当社が存亡の危機に立たされた時代を私は鮮明に記憶しています。記憶に新しいところでは、資源価格高騰の恩恵を受け、総合商社各社が空前の好業績を記録した後、世界金融危機で岐路に立たされたように、歴史の中で幾度となく繰り返されてきました。人も企業も「今後も上手くいく」と楽観視した途端に、足元から崩れ落ちていきます。そして当社も絶好調だからこそ、「慢心を戒めなければ」と危機感を抱いているのです。

第二の創業ー「いざ、次世代商人へ」

私は、経済三団体共催の新年祝賀パーティーの囲み取材は、いつも気が進みません。大勢の人の前で、即興で真面目な話をするのがあまり得意ではないからです。今年も事前に回答案を自分で準備して臨みましたが、「2018年のキーワード」としてお話ししたのが「イノベーション」でした。

2018年5月に開催した任意参加の早朝勉強会では、収容人数400人の会場が立錐の余地がないほどの社員で埋め尽くされました。テーマは「新技術のトレンド」です。これまで様々な危機感を吐露してきましたが、当社グループの社員がまさに一枚岩となって危機感を共有していること、本来の「他に先駆けて挑戦する企業文化」が、今も確実に息づいていることを頼もしく思います。

当社は、脅威に対して立ちすくむことはおろか、「守り」に入ることも決してありません。私、そして伊藤忠グループは、これまで以上の「闘争心」を燃やしながら、新たな競争環境に対峙していきます。新中期経営計画「Brand-new Deal 2020」では、「第二の創業」という心構えで、変化を先取りしながら「商いの次世代化」を強力に推し進めていきます。

当社には、幅広い産業分野で創業以来160年もの長い年月をかけて磨き上げてきた「資産」があります。そうした資産には、技術やノウハウ、顧客基盤等、様々な強みが埋もれています。例えば、(株)ファミリーマートは全国に約17,000店舗を展開し、一日当たり約1,500万人のお客様が来店されています。EC化が進んだとはいえ、個人消費の9割以上は未だにリアル店舗で行われているわけですので、立地条件に恵まれた店舗網と、この貴重な消費者接点から得られる購買情報は、大きな強みであることは疑いありません。また、(株)ヤナセは、高級車を購入する富裕層の固定客を数多く抱えています。(株)日本アクセスは、全国に550拠点、約10,000台のトラックを有し、他の追随を許さない低温度帯物流網を日本全国に張り巡らせています。今後、デジタルとリアルの融合を図る上でカギを握る物流を押さえているのも、優位性といえましょう。

繊維業界では、デパートやGMS(総合小売)といった従来型の小売が苦心する一方、EC企業が極めて合理化されたビジネスモデルを構築しており、例えば、「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営する(株)スタートトゥデイは、時価総額1兆円を超えるまでに成長しています。消費者が「モノを買う方法」と「場所」の変化に着眼した「売り方」の工夫次第で、成熟市場でも成長が実現できることを証明しています。

「商いの次世代化」においてEC企業やIT企業等に対する大規模な投資は不要であり、必ずしも全く異なる分野に進出する必要もありません。当社の既存ビジネスの有形・無形の資産と新技術を組み合わせ、ビジネスモデルを新しい時代に沿ったものにバージョンアップさせていくことが、当社が考える「商いの次世代化」です。(→「商いの次世代化」に向けて)

総合商社は、各社とも手探り状態でビジネスモデルの進化を進めていますが、非資源分野、特に衣食住を中心とする生活消費関連に強みを持つ当社は、変革をリードできる絶好のポジションにあると考えています。

常識を否定するところからスタートし、
先ずは行動を起こし、問題があれば引き返し、
修正してまた前進するアプローチこそが
イノベーションを生み出します。

次世代化に向けた課題

「一度やってみて、ダメならやめてもいいじゃないか」と私は最近ことあるごとに社員にいっています。実は「朝型勤務」もこうしたアプローチで導入したのです。「次世代化」を進めていく上では、ビジネスのアプローチに見直しをかけていく必要があります。常識を否定するところからスタートし、先ずは行動を起こし、問題があれば引き返し、修正してまた前進するアプローチこそがイノベーションを生み出します。アイデアを安易に潰すことがないよう、「挑戦する企業文化」と併せ、当社の特徴である「再挑戦できる文化」の本領も発揮していきたいと考えています。

「次世代化」の大きな柱の一つになるのは、ユニー・ファミリーマートホールディングス(株)です。(→機能事例で見るビジネスモデル)[PDF]伊藤忠グループやアライアンス先等の新技術、新サービスを導入することで、同社を起点とするバリューチェーンの次世代化を推し進めていきます。こうした取組みを進めていく上では、ロジスティクスを担う(株)日本アクセス、業務効率化を支える伊藤忠テクノソリューションズ(株)、金融サービス機能を提供するポケットカード(株)、その他様々な事業会社との更なる連携と全体最適を追求する必要があります。当社は2018年4月、TOBによるユニー・ファミリーマートホールディングス(株)の子会社化の方針を表明しました。リアル店舗が持つ大きな価値に着眼し、買収の意図を持っていた企業からの防衛的な意味合いもありますが、子会社化の最大の目的は、当社が主導することで、それらのバリューチェーンが強化され、変貌を遂げていくことです。(株)ファミリーマートに関しては、主に中国・アジアにおける有力パートナーとの連携等を通じて、海外事業展開も視野に入れております。

EC企業は、ITを活用した「売り方のプロ」であり、極論すれば「商品のプロ」は不要です。一方、当社は7つのカンパニーが、異なる対面業界に接しています。更に、食料カンパニーを例にとると、コーヒーや鮪、バナナといった商品ごとに専門分野が細分化しているため、業界横断的な枠組づくりが課題になります。最初のステップとして、CSO(Chief Strategy Officer)の配下に、各カンパニーにおけるテクノロジー活用や、事業会社、パートナー、ベンチャー企業との連携を支援する横断的組織を新設しました。縦割りの組織は横断的取組みの弊害になりかねませんので、引続き課題として捉えていく考えです。

「次世代化」を進めていく過程では、EC企業やIT企業等の異業種との協業も必要になります。「いいとこどり」されないよう脇を締め、当社の企業価値向上に十分なメリットがあるかどうかを慎重に見極めながら、幅広いパートナーとの協業の可能性を検討していく考えです。

「新しい頭脳」と「経営の連続性」を両立

走り続けてきた会社人生を振り返り、「自分の人生がこれで良いのか」と考えることもしばしばありました。老後に家族とゆっくり過ごしたい希望もあります。事業領域が幅広い総合商社の社長を続けていくのは、本当に大変なことだというのが偽らざる本心です。ユニー・ファミリーマートホールディングス(株)が、(株)ドンキホーテホールディングスと資本・業務提携を行ったことで、懸案の一つだったGMS事業に明るさが見え、更に当社では異例の8年間に亘り、社長職に就いてきた私がこれ以上続投すれば、退任の際の影響が一層大きくなり得ます。次の時代に向けて経営陣が交代していくことを示し、社員の意識も変えていかねばなりません。そのため私は、「これ以上の続投はない」という意思を、当社の指名委員会に伝えてきました。

一方、CITIC/CPグループとの提携効果の創出といった課題も残されています。中国人経営者との関係性を維持していかねばなりませんが、中国では肩書がとても重視されます。また、グループ一体経営を一層強化していく上では、経験豊富で私の世代も多い事業会社の社長達に対するグリップを、引続き効かせていく必要もあります。このような現状を指摘した指名委員会から、強い続投要請がありました。こうした「経営の連続性」という課題と共に、これからビジネスモデルを進化させていくためには、「新しい頭脳」も必要です。悩みに悩んだ末に、当社として初めて会長兼最高経営責任者(CEO)を設け、私が引続き最高経営責任を担い、情報・金融カンパニープレジデントであった鈴木善久が、社長兼最高執行責任者(COO)に就く新経営体制を指名委員会に提案し、鈴木と面談を重ねた同委員会がそれを承諾しました。当面は、私が伊藤忠グループ全体の経営戦略策定、主要事業会社の戦略や重要取引先との関係維持を担当し、社長COOは伊藤忠商事の執行全般を統括すると共に、世の中の動きを先取りし、新たに「稼ぐ」ビジネス創造を検討・推進していきます。これまでの良い流れを維持しながら、徐々に次の世代に譲っていきたいと考えています。(→次世代の経営体制)

鈴木は理系出身で、新しい技術への関心が高く造詣が深い人物です。40代で執行役員になり華々しいキャリアを積んだ一方で、米国現地法人の社長時代にはリーマンショックを経験し、挑戦が成果に結びつかなかった過去もあります。しかし、そこで腐ることなく、55歳の若さで移った航空機内装メーカーの(株)ジャムコの社長として、東日本大震災で被災した同社を立て直し、東京証券取引所第一部指定に導きました。彼もまた、成功だけではなく挫折も経験しながら「再挑戦」で這い上がってきた人物といえましょう。

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社員が「真の居場所」と思えるように

「人間は中身がすべてであり、外見ではない」という考えもありますが、侍が鎧兜を付けるようなもので、コーディネートをあれこれと考えるのは柔軟な発想力の向上にも繋がると考えています。2017年度の決算公表の場には、薄紫のジャケットとデニムで臨みました。ちょうどその日は、2018年5月から導入した「脱スーツ」の初日だったためです。常に刺激を与えることで、これからの時代に求められるビジネスにも繋がる創造力を鍛えていくことを目的として導入した制度ですが、これに限らず当社はすべての人事施策を「経営戦略」と位置付けてきたことは、常々申し上げている通りです。

大手総合商社では最少の単体従業員数で、他の総合商社と伍して戦っていくためには、労働生産性を追求していかねばなりません。また、世間では人手不足が叫ばれ、優秀な人材確保も困難になりつつあります。これまで「朝型勤務」の導入をはじめ、業界等に先駆けて働き方改革に着手し、様々な人事施策を打ち出してきた結果、働き方改革の先進企業として経済産業省及び東京証券取引所が選定する「健康経営銘柄」等に選定され、厚生労働省からも様々な表彰をいただいています。いくつかの就職先ランキングでは、総合商社でトップとなる等、学生にも好意的に受け止められています。会社側のエゴで一方的に改革を押し付けるのではなく、例えば、朝型勤務における朝食の提供や早朝勤務の時間外勤務手当の割増等、働く社員の立場にも立って「活きた経営」を徹底してきたからこそ、制度を定着することができたと考えています。

「Brand-new Deal 2020」でも、「商いの次世代化」と並び、「スマート経営」「健康経営No.1企業」といった人事戦略を柱に据え、業界No.1の労働生産性を追求することとしています。(→新時代「三方よし」)[PDF]そこで目指す企業像として掲げた「社員がやりがいを持って存分に働き、家族にとっても一番いい会社」には、特別な想いがあります。

2017年の春、ある社員ががんで亡くなりました。亡くなる前、とある雑誌の社員が「幸せな会社」ランキングで、当社が全体の2位に選ばれたという記事を見て、「私にとって伊藤忠こそ日本一いい会社です」という、それまでの支援に対する謝意を示すメッセージを私宛てに送ってくれました。私は、故人が残してくれた言葉によってある誓いを立てました。元気な人でも闘病中の人でも、「自分の真の居場所はここだ」と確信した時にこそ、大きな力を発揮すると信じています。そう信頼してもらえるよう、「自分の家族」が闘病しているつもりで、重い病気に罹患している社員を、物心共に皆で支えていく伊藤忠商事にするという誓いです。これが「がんとの両立支援施策」(→「がんとの両立支援施策」)[PDF]を導入した背景でもあります。

現在もがん等の重い病気と闘いながら、一生懸命に働いている社員が少なからずいます。闘病後の職場復帰によって、素晴らしい業績を上げた社員が数多くいることには勇気付けられます。当社は、頑張る人が誰でも「再挑戦できる」会社なのです。

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反省と教訓

「心配性」ともいえる慎重な性格の私は、一歩進んで立ち止まっては自省し、更に前進することをこれまで繰り返してきました。そして、2017年度決算・新中期経営計画の説明会の場でも、反省を通してある教訓を得ました。

私は、企業価値向上を自身の最重要責務と位置付け、株主・投資家の皆様と同じ視点に立った経営を心掛け、経営者の通知表ともいえる株価を常に意識しています。総合商社の株価は、利益水準の割に低い評価にとどまってきましたが、その理由の一つは、資源価格の変動の影響等により、業績のブレ幅が大きいためであると理解しています。当社は、資源価格に依らない安定的な利益を創出する収益基盤の構築に努めると共に、株主・投資家の皆様の信頼を勝ち得るために、期初計画の「必達」にもこだわってきました。年間配当額も過去最高額を毎期更新してきました。2017年度の1株当たりの配当金は、配当フォーミュラから計算される年64円よりも6円上乗せした年70円とさせていただきましたが、これは2010年度対比では約3.9倍の水準であり、総合商社ではトップの増加率となります。2018年度の1株当たりの配当金は、3年連続で史上最高益更新となる4,500億円の連結純利益を前提とし、前年度比4円増額の年74円(下限)を予定させていただいています。

2017年4月からの一年間を見てみると、資源価格の上昇を背景に他の総合商社が決算見通しを幾度となく上方修正する中でも、当社の株価伸長率が最も高く、2010年4月以降で見ても、他の総合商社とは異なり毎年上昇してきました。当社の株主・投資家の皆様を向いた経営が、高く評価された証であると考えています。

2018年5月に開催した決算説明会で、新中期経営計画「Brand-new Deal 2020」をご説明した翌日、株価が急落したことから、直ちに要因分析を行いました。従来の配当フォーミュラを据え置いたことや、前中期経営計画とは異なり、2年目以降の連結純利益目標と1株当たりの下限配当額を定量的に明示せずに定性的な表現にとどまったことで、これまでの「有言実行」の姿勢が変化したという誤解を与えてしまったようです。更に、新中期経営計画そのものも「抽象的で分かりにくい」という印象であったようです。

経営環境が加速度的に変化する時代に、3年先を正確に見通すことは難しくなっています。一方で、「企業の経営者は、いかなる状況であろうとも1年先の状況を見極め、コミットした予算は必ず達成する」という信条に基づき、これまで同様に単年度の定量目標については、具体的に設定しました。また、常に伊藤忠グループの成長や企業価値の向上を念頭に置き、2年目以降の業績についても着実に伸長させていくことを目指しています。その目標に向けて、既存ビジネスの更なる「磨き」を中心にして「有言実行」を果たしていく考えです。こうした短期的な視点と併せ、「Brand-new Deal 2020」の3年間は、「新たなビジネスを具現化し、ノウハウを蓄積する時期」と位置付け、中長期的な視点で将来に向けた備えを進めていく考えです。大きな飛躍は、足場を十分に固め、呼吸をしっかり整えてこそ実現できると考えております。

こうした背景はありながらも、若干慎重になりすぎて、市場の要請に十分対応できていなかったことを反省しています。今後は、これを教訓とし、これまで以上に市場の声に耳を傾けていきたいと考えています。

長期的、持続的な企業価値向上に向けた打ち手

より長期的な視座に立ち、当社の持続的な企業価値向上に向けて大きく育てていきたいビジネスが、CITIC/CPグループとの戦略的資本・業務提携です。無論、「Brand-new Deal 2020」でも全力を挙げて取組んでいく考えです。

中国の反腐敗運動の影響等により投資案件を進めにくい状況であったことから、シナジーの創出が当初想定していた規模とスピードでは実現できていないことは認識しています。中国共産党大会で国有企業強化の方針が示される等、協業推進の環境は改善しており、両社と今後の協業事業について議論を進めているところです。中国におけるコンビニエンスストア事業は、協業の有力な選択肢の一つです。中国は米国を上回るペースで、モバイル決済やドローン、EV/PHV等の先進ビジネスが台頭しています。更に、CITIC/CPグループをはじめ中国でのネットワークを活かして、日本で行うよりも先に技術革新を取込んだビジネスへの参画についても模索していきたいと思います。こうした個々の施策の積み上げが、CITIC/CPグループの企業価値の向上、更には低迷する株価の上昇等にも繋がることを期待しています。

中国において中長期的にビジネスを拡大していくための基盤づくりとして、2015年度より中国語人材を当時の約300人から1,000人に増大するプロジェクトを立ち上げ、2017年度末にその目標を達成しました。1,000人は全総合職の約3分の1に相当し、日本中の企業を見渡しても、例を見ない規模だと自負しています。2018年4月には目標達成の記念として、「中国1,000人集会」を開催しました。当日は、程中国大使、CP楊上級副会長、CITIC蒲副総経理をご来賓としてお招きしましたが、後日、大使から中国共産党の最高指導部に当社の取組みをお伝えいただいたとのことでした。

こうした長期を見据えた戦略的打ち手に加え、グローバル社会からの要請に応え続けていくことも、長期持続的に企業価値を高めていくためには欠かせない取組みだと認識しています。戦略的打ち手と並行して、本業を通じた社会的課題の解決への貢献に取組んでいくことで、「Brand-new Deal 2020」で目指す「新時代“三方よし”による持続的成長」を実現していきたいと考えています。(→サステナビリティ)[PDF]

初心に返り、再び前へ

ある朝メールを開いた時、先にお話ししたがんで闘病中の社員から送られてきたメッセージを見て、思わず涙がこぼれたことを一生忘れることはできません。企業である限り、利益成長を志向し実現していくのは宿命です。各会計年度の予算達成は、商人としての当然の責務です。こうした厳しさがある一方で、社員はもとより、家族、そして世の中から「いい会社」と評価され、誇りを持って仕事に打ち込める、そのような企業像が本来あるべき姿だと考えています。近頃、様々な方から「伊藤忠商事の社員は元気がいい」という声をいただきます。当社は、あるべき姿に向けて確かな歩みを進めているという想いを強めています。しかし、感慨に耽るいとまはありません。

私は、所信表明に書き記した就任時の決意を読み返しながら、再び情熱に火をつけています。伊藤忠グループも、「ゼロからスタートを切る」という決意で、「次世代商人」に向けて日々進化を遂げています。

改めて、当社の「向う傷を恐れずに挑戦する風土」の真価を、必ずご覧に入れたいと思います。

当社の「向う傷を恐れずに挑戦する風土」の真価を、
必ずご覧に入れたいと思います。