CFOインタビュー

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いかなる経営環境下でも首尾一貫して3つのバランスを遵守していくことが、私の使命です。

代表取締役 専務執行役員CFO
鉢村 剛

Q.1 2018年度の財務・資本戦略の総評をお聞かせください。

A.1 市場に対してお約束した以上の成果を示すことができました。

中期経営計画「Brand-new Deal 2020」の初年度となる2018年度は、連結純利益5,000億円レベルという新たな高みに立つことができ、私が昨年この頁で掲げた「4つのコミットメント」についてもお約束した以上に果たすことができたと評価しております。

まず「株主還元の充実」ですが、1株当たりの配当金は、前年度比では13円増額、期初公表計画比でも9円増額となる83円まで引上げ、過去最高を更新しました。更に、自己株式取得も昨年10月に公表した「中長期的な株主還元方針」に基づき680億円を実施、2018年度における総還元性向は概ね40%となる高水準の株主還元を実施することができました。なお、2017年の株主総会において、最終的に否決となったものの、自己株式消却に関する株主提案に一定の賛同票があったことも勘案し、78百万株の自己株式消却を実施しました。

次に「実質営業キャッシュ・フロー」は、2年連続で過去最高であった前年度実績から更に550億円を積み上げ、期初計画の5,000億円を超える5,150億円となりました。継続的な資産入替に加え、非資源分野を中心に「キャッシュ」を伴う基礎収益力が着実に向上している成果と考えています。

「NET DER」は、0.87倍であった前年度末から改善し、期初の見込み通り0.82 倍となりました。連結純利益の積み上げ等により3兆円が手に届くところまできた株主資本の拡充に加え、個々の取引における資産効率の向上をきめ細かく推進、更に大型かつ複数の連結子会社化の影響を正確に見極め、有利子負債のコントロールを適切に実践した結果と考えています。

最後に「ROE」は、15.8%であった前年度末より更に向上し、期初目標の15.9%を大きく上回る17.9%となりました。5年連続で総合商社トップとなる高水準を安定的に維持しており、マーケットが期待する資本コストも引続きクリアしたと認識しています。

こうした当社の首尾一貫した財務・資本戦略の成果は、格付機関の格上げという形でも表れております。2017年11月の約20年ぶりのムーディーズA格取得に始まり、その後もS&P、R&I(格付投資情報センター)、JCR(日本格付研究所)の格上げを2018年8月までに立て続けに達成し、主要4格付機関すべてのA格取得と格上げを1年以内に達成しました。これにより格付面では、「総合商社のリーディングカンパニー」という国内外の第三者評価を得られたと考えています。

Q.2 昨年10月公表の「中長期的な株主還元方針」のポイントをお聞かせください。

A.2 最も重視する点は、持続的なEPS成長と企業価値向上です。

A.1において私が「お約束した『以上に』果たすことができた」と説明したのは、この「中長期的な株主還元方針」を公表し、当社の考え方をお示しした点を踏まえてのことです。

中長期(当該還元方針の公表以降3〜4年程度)における株主配当と自己株式取得の2つの株主還元策の考え方を明示すると共に、EPS(1株当たり連結純利益)を重視する方針を打ち出しました。EPS計算式の分母を自己株式取得で減らすだけではなく、分子である利益成長を図ることで持続的なEPS成長、更には持続的な企業価値向上を目指す方針です。なお、「Brand-new Deal 2020」期間中の1株当たりの配当金につきましては、2019年度は85円を「下限」、2020年度も「累進配当」とすることをお約束しております。

従い、今後の連結純利益の上乗せ状況や成長投資の進捗、キャッシュ・フローの状況等を勘案しながら、常に増配の可能性について検討したいと思います。また、配当性向のみならず、総還元性向についても重視していく所存です。

このような方針のもと、当社は2019年度においてもキャッシュ創出の確度や当社の株価水準等も勘案した上で、自己株式取得を前倒しで実施しています。依然として総合商社の株価のバリュエーションが低いことは大変残念ではありますが、コミットしたことはスピード感を持って実施する当社経営の姿勢をご評価いただきたいと考えます。

中長期的な企業価値向上への考え方

Q.3 「Brand-new Deal 2020」の初年度で連結純利益5,000億円のステージに到達しましたが、財務・資本戦略に変更はありますか?

A.3 基本的に変更はありません。

3つのバランスを意識し高ROEを実現

引続き3つのバランス(成長投資、株主還元、有利子負債コントロール)を意識し、高ROEを実現していく方針、更には、原則として、株主還元後実質フリー・キャッシュ・フローの黒字を継続する方針に変更はありません。但し、2019年度は下記の点に留意する必要があると考えています。

前中期経営計画「Brand-new Deal 2017」を振り返りますと、その基本方針で、「4,000億円に向けた収益基盤の構築」、すなわち連結純利益を3,000億円から4,000億円のステージに引上げることを掲げ、達成しました。「Brand-new Deal 2020」においては、その初年度となる2018年度で一気に連結純利益5,000億円を達成しましたが、基礎収益では4,720億円と5,000億円に届いていないため、まずは5,000億円を基礎収益で安定的に稼ぐ収益基盤を構築した上で、更なる成長を図っていく必要があります。この5,000億円という数字は、総合商社全体を見渡しても非常に高水準の利益規模になりますが、一度達成したからには守るべき大切な数字になります。

当社はこれまで、景気変動耐性の高い非資源分野を中心に強みを発揮し、収益力やキャッシュ創出力に磨きをかけ、財務体質を更に強化してきました。その中でCITIC投資以降、今後の更なる成長を考えると投資実績が少ないとの反省が経営陣にあったのも事実です。ここ数年を振り返ると総じて安定的に世界経済は推移していたため、M&Aの対象となる優良な投資案件数は少なく、買収価格も高い状況が続いておりました。今後は強弱が入り混じる景況感が予想され、M&A対象となる優良な投資案件数が増えることが予想されます。2019年度の「実質営業キャッシュ・フロー」が更に伸長する見込みであることや2018年度の「株主還元後実質フリー・キャッシュ・フロー」約3,000億円がバックストップとしてあることを踏まえ、2019年度は、むやみにのれんを積み上げないように投資の高掴みに留意する等、私が委員長を務める投融資協議委員会でも十分な精査を実施する一方で、タイミング良く成長投資を実行していく所存です。すなわち、前述の株主還元と成長投資の双方を上手くバランスを取りながら実施していく方針です。なお、先般の格上げの実績が示す通り、財務体質強化には一定の目途が立っていることから、現状のレベル感を意識しながら有利子負債のコントロールを図っていきたいと考えております。

Q.4 成長投資の検討を行う場合に意識する資本コストについての考えを教えてください。

A.4 資本効率向上と持続的な企業価値向上に繋がる重要な指標と考えております。

私が、3つのバランスを意識し高ROEを実現することにこだわりを持っていることは、A.3で述べた通りですが、ROEが資本コストをどれだけ上回るか、すなわち資本効率向上の観点に加え、持続的な企業価値向上の観点から資本コストを低減していく意識が大切だと考えています。当社が「資源のスーパーサイクル」が終焉する前から、より安定的な非資源分野に大きく舵を切り、収益力とキャッシュ創出力の強化に努めていることや積極的に低効率あるいはピークアウトした資産の入替を推進していること等は、当社が資本コストを意識した経営を実践していることの証左です。振り返れば、当社は経営改善が急務であった1999年度にリスクキャピタル・マネジメントを導入し、株主資本コストを8%と設定しました。その後、投資時にクリアすべきハードルレートは進化を遂げ、現在は、約40の業種別のハードルレート(国別)を設定し、きめの細かい管理を実施しています。更に、非財務資本の資本コストに対する影響にも十分に留意する必要があると考えています。特にESGにおける環境(E)や社会(S)は勿論、ガバナンス(G)の更なる強化は、将来的な成長阻害要因の軽減、そして資本コストの低減に繋がる重要な議論です。例えば、当社が、社外取締役比率を常に3分の1以上とし、取締役会を「モニタリング重視型」へ移行した点や女性の社外取締役を1名増員して2名とし取締役会の多様性を推進している点は、資本コストの低減、更には持続的な企業価値向上に繋がると考えております。