CEOメッセージ

CEOメッセージ

伊藤忠商事は、時代の大波にも動じることはありません。「新たな商社像」に向けた進化で立ち向かい、波を確実に捉えチャンスに変えていきます。

経営環境が激変する中、当社は2018年度も「有言実行」を貫き、史上最高益の更新を目指した期初計画の大幅超過を達成し、着実に進化を遂げました。中期経営計画「Brand-new Deal 2020」の2年目となる2019年度は、5,000億円の大台に到達した収益力を真の実力とすべく、商いの基本である「稼ぐ・削る・防ぐ」を徹底し、「新たな商社像」に向けた進化を加速することで、かつてない時代の変化を大きな商機に変えていきます。

岡藤 正広
代表取締役会長CEO

消えた家電量販店

車窓から何気なく外を眺めていると、私はとある変化に気づきました。新橋のガード下を過ぎた頃、利便性の高いその地で象徴的に建っていたはずの家電量販店が突如姿を消し、ドラッグストアが取って代わっていたのです。どこにでもありそうなそのシーンは、頭の片隅に眠っていた半世紀近く前の記憶を鮮明に呼び起こさせました。

1974年に伊藤忠商事に入社した私は、主に英国から紳士服の毛織物を輸入し、販売する大阪の課に配属されました。当時、ほぼ毎週のように始発便で羽田空港に降り立ち、服地の卸問屋街があった神田を訪ね、毛織物を売り歩いていました。当時、紳士服はオーダーメイド全盛であり、テーラーに生地を卸していた問屋は大いに繁盛していましたが、既製服の登場以降、オーダースーツは徐々に押され、多くの問屋が店を畳んでいきました。一方、神田川の対岸の秋葉原では、当時の新興勢力だった家電量販店が、次々と立ち並んでいき、多くの人で賑わっていたのを記憶しています。そして現在、車窓から見た光景に過去の記憶を重ね合わせた私は、ある自然律のようなものを感じました。

絶滅の危機に瀕している動植物等、我々人類が「守るべき生態系」は、人類が協力し合い、全力を尽くせば必ずや保全できると信じています。一方、「産業界の生態系」は自然淘汰の力に逆らうことは容易ではありません。社会の要請という必然性があるが故に、ある企業は「絶滅危惧種入り」し、ある企業は繁栄し続けるのでしょう。ビルの一角の宿主の交代は、進みつつある抗いようのない「産業界の生態系」の変化を象徴しているようでした。いうまでもなく、総合商社も大きな時代のうねりの真っただ中にいます。冒頭の光景を前に、私は改めて、進化し続けねばならないという想いを強くしました。

私がCEOとして経営を司る上で特に強調したい点は、当社は株主・投資家の皆様にお約束したことは必ず守るという強い信念を持って経営を行っているということです。

会議室に答えはない

現在、私は、会議等においては、細かい数字や体裁ばかりに気を遣った資料に沿って説明するのではなく、聞いている人に対して「全体の流れ」がはっきりと分かるように説明することをお願いしています。例えば、イタリア製のスーツはボタンが取れたり、裏地が出てきたりすることもありますが、一目見てすぐにイタリア製と分かります。全体の高級感を醸し出す「オーラ」が日本製とは全く違うからです。一方、日本製は、部分、部分では大変きっちりと縫製されていますが、全体にするとそのような「オーラ」が出ません。今後、当社が商売を拡げていく上でも同様のことがいえます。急速な「産業界の生態系」の変化の中で進化し続けるためには、個々の細かな事象ではなく、全体の大きな変化の兆候をいち早く掴み、素早く行動に移すことが肝心だと考えています。

大きな変化に対する答えを本やニュースは教えてはくれません。自分の五感で感じ取る必要があります。経営陣も会議にばかり時間を費やすのではなく、率先して考え行動する時間を捻出せねばなりません。例えば、毎年4月に開催するその年度の経営方針を定める特別経営会議では、資料の頁数を10年前の約500頁から徐々に、5分の1となる約100頁にまで削減し、会期も3日から1日に短縮しています。単なる削減ではなく、同時に中身は濃いものとしました。会議開催日までにテーマを絞り込み、十分な意見交換を行った上で会議に臨み、本会議は重ねてきた議論内容の確認の場とすることにしました。かつては特別経営会議後も議論を継続し、実行までに半年を要するケースもありましたが、今では会議の直後からすぐに行動に移しています。このように当社は、現状に甘んじることなく進化し続けています。そして、当社が「新たな商社像」への進化を掲げ、取組んでいるのが中期経営計画「Brand-new Deal 2020」です。

「有言実行」

私は、毎年6月の株主総会を終えた翌週、京都大谷本廟の初代及び二代目伊藤忠兵衛の墓前に1年間の経営について報告をしています。「Brand-new Deal 2020」の初年度にあたる2018年度の連結純利益は、5,005億円となり一気に5,000億円のステージに突入、キャッシュ創出力や主要な財務指標も過去のレコードを更新しました。これまでの弛まぬ収益力の強化や財務体質の改善によって、主要4格付機関すべての格上げを2017年から2018年の1年間で実現することができました。特にムーディーズでは、「負の遺産」の一括処理により1998年度に投資不適格のBa格となって以降、実に20年ぶりにA格への復帰を果たすことができました。(→CFOインタビュー)

絶えず悪い事態を想定しながら良い時に先手を打ち、常に低重心で経営していくことが大切というのが私の考えであり、社員にも徹底を図っておりますが、こうしたスタンスが現在の好業績にも繋がっていると分析しています。

私がCEOとして経営を司る上で特に強調したい点は、当社は株主・投資家の皆様にお約束したことは必ず守るという強い信念を持って経営を行っているということです。2018年度の決算では、連結純利益の期初計画4,500億円を期中に5,000億円に上方修正した上で、その修正値も達成しました。社長就任後の9年間を振り返っても期初計画の達成と未達を繰り返す企業が多い中で、当社は、将来的な成長をより確実なものとするために政策的な資産の低重心化、早目の手当を行った2015年度を除き、すべての年度において期初計画を確実に達成してきました。中長期を含めた目標を掲げることは、勿論、大切ですが、それが達成できないのでは全く意味がなく、株主・投資家の皆様にも無責任であると考えています。「稼ぐ、削る、防ぐ」の浸透と、景気変動への耐性が高い強固な収益基盤の真価、そして当社の「有言実行」を貫く姿勢をご評価いただければと思います。

また、当社は、株主・投資家の皆様との対話を大変重視しており、いただいたご意見を経営判断に活かすことを心掛けています。昨年10月に「中長期的な株主還元方針」を公表したのも、昨年5月に公表した「Brand-new Deal 2020」に対する市場の反応を受けてのことでした。期初計画の「必達」へのこだわりは、毎期の業績に対する株主・投資家の皆様の信頼を勝ち得ることが、結果的に長期的な視座に立った経営を可能にすると考えるためです。他のどの総合商社も株価の最高値は資源ブームの最中である2007年〜2008年頃に記録され、その後更新に至っておりませんが、当社は資源ブームが終焉して以降も、大別すると4回にわたり最高値を更新しています。私はこれを当社の経営に対する信頼の証だと認識しています。

2019年度の連結純利益の計画は、2018年度と同水準の5,000億円としました。経営は毎年一本調子で、右肩上がりを続けることを目指すのではなく、意識的に踊り場をつくることも必要だというのが私の考えです。業績好調時に大きな目標を設定し、それを境に凋落していった例は枚挙にいとまがありません。事実、当社の連結純利益は2011年度に3,000億円の大台を達成した後、2015年度までは3,000億円規模の収益力を真の実力とすべく足場固めを徹底しました。それがあったからこそ、2016年度から3年間の力強い成長を実現できたのです。2019年度も、まずは5,000億円規模の実力を確実に蓄えた上で、次のステップを目指したいと考えています。(→2019年度 短期経営計画)

このように2018年度は、一見、順調な1年に見えたかもしれません。しかしながら、私の本心は、晴れ晴れとした気持ちにはなれません。鬱々とした心持ちの理由は、激しい危機感です。

繊維カンパニー主催製品展示会
繊維カンパニー主催製品展示会
伊藤忠グループ社長会
伊藤忠グループ社長会
事業会社訪問
事業会社訪問

巨大戦艦の末路から得た教訓

先の大戦で日本は、過去の成功体験を踏まえた大艦巨砲主義を志向した結果、航空兵力が主役となる時代への変化に気づかず、対応することができませんでした。私は現在の経営環境を当時の状況に重ね合わせ、憂慮を抱いています。

例えば、プラスチックを製造している化学メーカーであれば、ストローの需要がプラスチックから紙に変われば、売上高が減少することで時代の変化がすぐに分かります。自動車メーカーも同様に、電気自動車の販売台数が増加しガソリン自動車が減少すれば、すぐに市場の変化を感じることができます。一方、生活消費関連に強みを持つ総合商社である当社は、例えば「デパート」から「ネット」へと商売ルートが多少変化していたとしても、「食品」「衣類」等の取扱商品そのものはさほど変わらないため、知らず知らずのうちに市場の大きな変化を見落としているのではないかと懸念しています。日本を代表する大手自動車メーカーであっても、大手IT企業と手を組み、「所有から利用へ」の車社会の変化を見据えながら、モビリティサービスへの参入に踏み切っています。当社も、既存のビジネスモデルを守り続けることで生き残る時代は、終わったと認識せねばなりません。当社の子会社である㈱ファミリーマートも例外ではありません。コンビニエンスストア業界は店舗数が6万店近くに達し、飽和状態にあります。その中で、店舗同士で商圏の奪い合いをしている間に、ドラッグストアや先端テクノロジーを駆使した新手が「空から」攻勢を仕掛けてきています。近い将来、移動型店舗も脅威となることは疑いありません。進化を止めた瞬間に、巨大戦艦の末路の二の舞になりかねません。

当社グループは今、「第4次産業革命」とも評される荒波の中におりますが、今後は「新しい技術・素材」の商品・サービスをただ取扱うだけでなく、それを活かして当社グループの「既存ビジネスのバージョンアップ」を図る、更には伝統的な産業の秩序や構造も変えるような大きな「ゲームチェンジ」を起こしていきたいと考えています。すなわち、飲まれることを恐れる波ではなく、上手に乗って従来は想像すらできなかった領域で、より大きなスケールでイニシアチブを握る可能性がある波として捉えております。(→「ビジネスの次世代化」に向けて)

このような考えを実現するために、当社が目指す、「新たな商社像」に向けた考え方をお話ししたいと思います。私の目には今、その姿が鮮明に見えています。

「ほけんの窓口」の成功と「マーケットインの発想」

「女性の外交員がオフィスに訪れ、世間話をしたり、チラシや飴を置いていったりすることで、人間関係を築き販売する」これがかつての生命保険の一般的な営業スタイルでした。部外者のオフィスへの立ち入り禁止が常識になった後、従来の売り手側が「売りたい商品」を「訪問」で販売する手法に代わり、来店するお客様の「ニーズに合った商品」を中立的な立場で「紹介」するというお客様の視点に立った手法で、業界における新たな「関係性」を構築したのが、当社が筆頭株主として出資する「ほけんの窓口」です。これは一例に過ぎず、伝統的な企業も変革を急いでいるため、当社が取扱う様々な分野で、かつては接点を持つことができなかった企業との商売が拡がり始めています。このような「波」に乗っていくためには、これまでとは全く異なる「新たな商社像」を創り上げていかねばなりません。私に鮮明に見えている姿は、その進化の方向性です。

「ほけんの窓口」を含む、台頭著しいプレイヤーに共通する点は、「消費者接点」を掴むことです。そのために、今後は「商品に頼った商売」から、より消費者の視点、すなわち「マーケットインの発想」に大きく切り替えていかねばなりません。これが「新たな商社像」に向けた一つ目のテーマになりますが、生活消費関連で強みを持つ当社だからこそ可能な進化といえると思います。その重要なプラットフォームとなるのが、㈱ファミリーマートや富裕層を中心に高級輸入車の販売を行う㈱ヤナセ、全国約1,800ヵ所のカーライフ・ステーションを傘下に収め石油製品・LPガスから電力販売まで総合的に手掛ける伊藤忠エネクス㈱といった消費者接点を有する当社グループの事業会社です。

特に㈱ファミリーマートにおける店舗網は、物流や商品開発、調達等の様々な点でその規模を活かすことができると同時に、今後の大きな武器となる「データ」の源泉になり得ます。これが「新たな商社像」に向けた二つ目のテーマになります。

在宅勤務者と会社を視覚・音声で繋ぐロボット
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取締役会
取締役会
アナリスト説明会
アナリスト説明会

勝者と敗者の差は紙一重

5月の大型連休のある日、軽井沢に滞在していた私は、日頃ファミリーマートで購入している商品を他のコンビニエンスストアで買ってみようと自転車のペダルを踏んでいました。よくコンビニエンスストアごとに「おにぎりやお弁当等はここが一番」、「スイーツ類はここが一番」等の意見を聞きます。なるほど、各社の商品は確かに美味しい。しかしながら、「ファミリーマート」で販売されている商品との大きな差を実感することができず、中には美味しいものもあるくらいです。目を閉じて食べたら分からないのではないかと感じたのも事実でした。私は、上述の世論となっている要因を味の違いではなく、意識しなければ気がつかないような「紙一重の差」の部分に感じ取りました。例えば、サラダには盛り付け方法や色合いのバランスに工夫を感じますし、菓子や加工食品等も包装に工夫が施され、思わず手に取りたくなる商品となっています。こうした「紙一重の差」が、結果として多くの消費者の選択にも影響を与えているように感じたのです。日本の大企業が製造する商品でも機能や性能自体は大きな差がないのに「売れる、売れない」の違いが出てくるのは、「紙一重の差」であったりすることが多いのだと思います。従って、当社グループが今後も「勝ち組」として在り続けるためには、㈱ファミリーマートをはじめとする当社グループの事業会社の顧客接点から得られる「データ」から、お客様が求める「紙一重の差」を掴んでいくことが極めて重要になります。顧客データを活用すれば、小商圏ごとのお客様にきめ細やかな商品やサービスを提供することが可能となり、金融サービス等の周辺ビジネス、バリューチェーン全体の最適化等の可能性は無限に広がります。但し、このように商売を拡げていくためには、「総合」商社であるが故の課題を克服する必要があります。

「タテ割り」の打破

総合商社は「商品基軸」でビジネスを拡げてきたため、例えば、当社では食料や繊維といった大きな商品別の括りでカンパニー制を敷き、その中で更に細かい商品やサービス別の組織に細分化されています。関連性の高い商品の枠組みの中で、個別の商品を調達・販売したり、サービスを提供したりするには最適化された組織です。しかしながら、現在、そうした「タテ割り」の組織が時に弊害になっています。例えば、スーパーマーケットから売り場全体の相談があったとしても現行の「商品別の担当者」では、精肉、コーヒー、お菓子等で各々担当者が分かれているために、お客様の要望に対して総合的な商品やサービスの話がしづらい状況となっております。伝統的な企業も産業の垣根を越えた変革を進めており、単一のカンパニーでは対応がままならないケースが多々あります。伸長著しいEC企業等と、どのように商売を拡げていくかも考えていかねばなりません。彼らは、膨大なデータで顧客の嗜好を細かく分析し、一人ひとりの顧客が求めるものをいかに的確に提供していくかを追求し、個別の商品ではなく全体として商売の拡大を図っています。このように様々な企業が、当社に従来型の「商品の専門知識」のみならず、当社にしかできない機能や、ワンストップサービスを求めています。当社が、「点」ではなく「面」で商売を拡げていくためには、「マーケットイン」の発想を持ち、お客様のニーズに的確に対応できる組織が必要です。そのためには、「タテ割り」の文化と組織を変えていく必要があります。これが「新たな商社像」に向けた三つ目のテーマです。

その第一歩として、本年7月1日付で第8カンパニーを新設しました。既存の7つのカンパニーからB to Cの人材40名程度と関連する資産を結集し、「マーケットイン」の発想にマインドを変え、顧客基盤を活用しながら成功例を積み上げていき、今後それを既存の7つのカンパニーにも展開していきます。当社全体の「マーケットイン」への変革の先兵です。草木はしっかり根付く前に、頻繁に別の鉢に植え替えていたら、きちんと育ちません。人を育てるのも同様に、特定の分野で一定の時間をかけて「その道のプロ」に鍛え上げていくという考えは、これからも不変です。これに加えて、第8カンパニーでは、「マーケティングのプロ」を育成していくことになります。「新たな商社像」を創り上げていくため、人材戦略にも見直しをかけ、「タテ割り」文化の打破に繋がる「根付いた後」の組織間の異動も活発化していく方針です。労働市場の流動化の高まりや、IT技術の急速な進化等に対応できるよう、若い優秀な社員の抜擢登用をはじめ、社員の意欲・成長を促す制度も導入していく考えです。(→第8カンパニー新設)[PDF]

これまで当社は、お客様のご要望にお応えすべく、熱い情熱を持ち、コミュニケーション力が高い人材を中心に採用してきましたが、ビジネスそのものに感性が必要になるこれからの時代は、例えば、多少人付き合いは苦手でも、イノベーションに繋がるような芸術肌の人材や特定の分野に特化した知見がある人材も採用していく必要があると思います。また、女性の感性が求められる商売も益々増加していく中で、女性の採用も更に積極化していく必要があると思います。女性の社外取締役を1名増員し、2名としたことに加え、女性の執行役員についても初の生え抜きとなる1名を増員し、2名としたのはこうした考えによります。(→取締役会の変遷)

創業者が大切にしてきた「世間よし」と同様に、持続的な企業価値向上に資する形で、社会課題の解決を図っていくというのが、当社が目指す「新たな商社像」の最後の解です。

東京ディズニーリゾートのこだわり

東京ディズニーリゾートの清掃へのこだわりは有名です。その基準は「赤ちゃんがハイハイできるかどうか」というシンプルな言葉で表現され、具体的なやり方は個人の判断に委ねられているそうです。実は、当社のコーポレートメッセージ「ひとりの商人、無数の使命」にも、同様の想いを込めています。当社の社員は、社会に何が提供できるかを自身で考え、実行する主体的な使命感を持って商いを行っていくという決意表明をシンプルに表現したものであり、そのような心掛けで商いを続けていけば、自ずと当社の持続可能性も高まっていくと確信しています。このメッセージの原点は、初代伊藤忠兵衛をはじめとする近江商人の経営哲学「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」にあります。「世間よし」は、商いを続けていくためには、社会に価値を提供し続けねばならないという教えです。遥か160年前に現代の経営にも通用する考え方を、創業者が商売の原則の一つにしていたことを誇らしく思います。

現在の気候変動や貧困等の社会が抱える様々な課題は、当社のビジネスモデルに影響を与える要因として大変重要だと考えます。例えば、プラスチック製品の使用規制や脱炭素に向けた要請の高まり等を踏まえて、当社は、プラスチック代替製品の取扱いやセルロースファイバー工場の設立等を進め、石炭火力発電事業や一般炭炭鉱事業への取組方針も公表しました。このような社会課題の解決を図る上で大切なことは、企業自体も持続的な価値向上を図る必要があるため、収益力向上を担保しつつ、課題解決に向けた対応を着実に実践するということです。また、環境と社会性の両面に配慮する必要もあります。お客様の視点に立つ「マーケットイン」の視点を社会の視点へと拡げ、社会課題を敏感に察知した上で、国や地域ごとの社会ニーズに対して最適なソリューションを提供していけば、自ずと解決に向かうことも多いと考えており、これはSDGs(持続的な開発目標)の理念にも通じる考え方でもあると思います。創業者が大切にしてきた「世間よし」と同様に、持続的な企業価値向上に資する形で、社会課題の解決を図っていくというのが、当社が目指す「新たな商社像」の最後の解です。(→サステナビリティ)

「社員よし」

当社はこれまで、「朝型勤務」をはじめ、日本企業の中でも率先して様々な人事施策を打ち出してきました。2018年度は、様々な人気就職先ランキングにおいて評価をいただいており、主要調査機関7社のうち、3社において全企業で第1位、6社において総合商社で第1位に選ばれました。これは当社が働き方の面でも、常に新しいことに挑戦し進化し続けていることを、学生にも感じていただいている証左だと思います。そして、こうした施策がすべて、経営戦略の一環であることは、繰り返し申し上げてきた通りです。例えば、「脱スーツ・デー」も、毎週水曜日と金曜日にコーディネーションを考えることで、「新たな商社像」への進化に求められる柔軟な発想力やビジネスのコーディネーションの目を養っていくことを狙いとしています。私は近頃、「社員よし」を強く意識するようになりました。世の中から評価されることで、社員が誇りを持って働くことができ、社員の家族も誇りを持てるような会社こそが、持続的に発展していくと確信しているためです。どの総合商社よりも少ない単体人員で多くの仕事をするわけですから、社員を家族のように大切にするのは当然のことでしょう。「がんとの両立支援施策」にも、こうした私の想いを込めています。社員をがんにさせない、がんになっても失望させない、居場所を周りの全員で守るという基本姿勢が多くの方々から賛同や共感をいただきました。新たに社員の業績評価に、がんの治療と仕事の両立を目標として設定する制度も導入しています。「達成すべき目標」としてがんに向き合い、優れた能力を闘病にもぶつけてもらうことが、社員にとっても、会社にとっても最善の結果をもたらすことは明らかです。「今日はちょっと治療に行ってきます」と平気でいうことができ、周りもそれを自然のこととして受け入れる、そんな家族のような会社こそが、真に強い会社ではないでしょうか。(→ 人的資産)[PDF]

「商人の原点」に立ち返る

今年は、創業者の墓前でグループ一人ひとりの努力によって、当社が収益面のみならず財務面においても業界のトップクラスとなったことを報告しました。私が毎年、墓参りを欠かさない理由は、いかに業界における地位が高まろうとも、「商人」の自覚を忘れないよう、自らを律するためでもあります。現在、かつてないビジネス環境の変化が訪れています。しかし私に迷いはありません。商いの基本である「稼ぐ、削る、防ぐ」を忠実に実行すると共に、かつて、初代伊藤忠兵衛がそうしたように、常に謙虚に頭を下げながら「求められるものを、求める人に、求められる形で」お届けしていけば良いのです。

初代伊藤忠兵衛が天秤棒一本を担ぎ、麻布の持ち下りの旅を始めたのは1858年、15歳の頃でした。それから161年目を迎えた今、当社は「商人の原点」に立ち返り、息づくDNAを発揮して新たな進化に挑戦すべき時を迎えています。目の前の大きな波に飲まれるのではなく、波を捉えチャンスに変えるのが伊藤忠商事です。