COOメッセージ

COOメッセージ

2019年度は、「変わる年」。
「新たな商社像」に向け、「峠」越えを目指します。

「Brand-new Deal 2020」の2年目となる2019年度は、連結純利益5,000億円の2年連続達成を目指し、まずは、「か・け・ふ(稼ぐ・削る・防ぐ)」を徹底し、不透明なマクロ経済への備えを万全に致します。そして、第4次産業革命が進行する中、「新たな商社像」の創造と5,000億円のその先を見据えた成長戦略を加速します。当社のDNAは「挑戦」です。

鈴木 善久
代表取締役社長COO

まずは「足場固め」、そして「変わる年」

2018年度の当社は、連結純利益5,005億円をはじめ、数々の定量項目で過去最高の更新を実現する等、創業160周年という節目にふさわしい実績を上げることができました。中期経営計画「Brand-new Deal 2020」のもと、「ビジネスの次世代化」に向けた取組みも着実に進め、ユニー・ファミリーマートホールディングス㈱やポケットカード㈱の連結子会社化等、「生活消費分野」を中心とした「非資源分野」の戦略的ビジネス基盤を強化すると共に、数多くの戦略投資とスタートアップ企業への出資も実行しました。

2019年度の経営環境は、資源価格の急激な騰落や米中貿易摩擦の長期化等も懸念される中、より不透明な状況となっています。このような時こそ、当社の景気変動耐性の強い「非資源分野」を中心とした収益基盤が強みを発揮します。マラソンで例えるならば、苦しい上り坂でこそ強みを発揮するような経営が必要です。そのためにも、まずは、当社の経営の基本である「か・け・ふ(稼ぐ・削る・防ぐ)」を再徹底し、足場をしっかりと固めてまいります。特に、「け・ふ(削る・防ぐ)」の実践で不確実性への備えを万全にし、同時に、「か(稼ぐ)」を更に進化させるため、「第4次産業革命」と評されるデジタル革命への対応や様々な産業界の構造転換を先取りする施策を着実に実行してまいります。

2019年度は、5,000億円のその先を見据えて「変わる年」となります。(→2019年度 短期経営計画)[PDF]

進化の胎動

『新鮮で安全な食材で溢れ返るスーパーの店内。あちこちでスタッフがタブレット端末を凝視し、注文を受けて手際良く商品をピッキング。要望があれば調理も施された生鮮食料品が詰まったバッグは、天井のレールを伝って自動的にバックヤードの配送スタッフに引き渡される。消費者がアプリから注文して10分以内に発送し、配送用の電動バイクで30分以内に自宅へ配達完了。』これはショッピングの「未来像」ではありません。現実そのものです。

社長COO就任の初年度となった2018年度、私はCOOとして、岡藤会長CEOの指針である「Brand-new Deal 2020」戦略の実行と、多くのお客様や社員との対話を進めました。国内外の約30拠点を訪れ、海外出張は計10回、うち、中国への訪問は計5回に及びました。冒頭のシーンは、上海で視察した中国ネット通販最大手が出資するスーパーマーケットです。日本にいるだけでは感じづらい中国のスピード感とダイナミズムは、「第4次産業革命」「デジタル革命」を実感させるものでした。

私は社長COO就任後、当社が「動きの悪い巨象」になっていないかと心配しましたが、この1年、社員一人ひとりが日々、新しいものを求めてもがき、デジタル技術の活用法等に懸命に知恵を絞っているのを目の当たりにし、伊藤忠の持つ挑戦のDNAがふつふつと燃え始めるのを感じています。

もはや、自分が所属する組織が、5年後も現在と同じ姿をとどめていると考えている当社の社員はいないでしょう。各事業会社も同じ危機感を共有し変わろうとしています。今、私は、当社グループの中に、進化に向けた挑戦という力強い胎動を感じています。

「ごはん」と「ふりかけ」

一橋大学の楠木教授は、当社の野田CDO・CIOとの対談において、リアルのオペレーションを「ごはん」だとすると、データやテクノロジーは「ふりかけ」であると例えました。すなわち、当社の「生活消費分野」を中心とする「今ある」バリューチェーンや資産は大盛の「ごはん」で、ちょっとした「新しい」デジタルの「ふりかけ」をかけるだけで大きく成長し得るということです。新興のネット企業に、この「ごはん」はありません。

2018年度の当社の「生活消費分野」に属する、繊維、食料、住生活、情報・金融等からの利益貢献は約2,860億円。デジタルという「ふりかけ」を上手く使うことが、5,000億円レベルの連結純利益を維持し、その先を狙う「カギ」となります。データを活用した商品開発、店舗の効率化、デジタル戦略の推進、卸や物流機能のIT化等、事業会社と一体となった取組みを2019年度、更に加速させてまいります。

また、2018年度の「基礎産業分野」に属する、機械、化学品、エネルギー・トレード、鉄鋼製品からの利益貢献は約920億円、「資源分野」に属する、金属資源、エネルギー開発からの利益貢献は約1,155億円で、合計すると2,000億円を優に超えます。これらの分野もまた、しっかりと成長してくれなければ、「総合商社」としてのダイナミズムも、5,000億円からの更なる成長も望めません。「基礎産業分野」においては、モビリティ、再生可能エネルギー、新電力をはじめとする新分野の収益化と、積極的な資産入替を実施してまいります。また、「資源分野」においては、世界のエネルギー事情の変化を見据えつつ、豪州、サハリン、アゼルバイジャンに次ぐ優良な資源案件を今一度、掘り起こしているところです。

成長投資は「点」から「面」へ
「生活消費分野」は新たなステージへ
「基礎産業分野」は産業構造の変化へ対応
「資源分野」、「海外事業」は更なる成長を目指す

成長投資は「点」から「面」へ

2019年度は、成長投資に大きく舵を切る方針ですが、既存事業の進化・変革に繋がる投資と、産業構造の変化によって生まれる新しい領域への新規成長投資を、バランス良く行ってまいります。

2018年度は、「ビジネスの次世代化投資」として約300億円の投資を実行しました。「生活消費バリューチェーン」に約190億円。当社の持つバリューチェーンに新しい価値を生み出すフィンテック、広告・マーケティング、データ活用、越境EC等、新しいビジネスモデルを持つベンチャー企業への投資が中心でした。「次世代モビリティ・電力」には約60億円。EVで先行する中国におけるEVベンチャーへの投資、ライドシェア事業、蓄電池やAIを活用した新しい電力サービス事業等、今後、産業構造を劇的に変えていく可能性がある領域への投資を行いました。「その他新技術活用」として、新素材・脱プラスチック、再生医療、IoT・デジタル化等への投資も約50億円行いました。

これらの2018年度に実行した投資は、いわば「点」への投資でしたが、2019年度は、これらを当社の既存バリューチェーンに展開する、あるいは、これらの投資を踏み台に新しい商流を組み上げる「面」への展開に焦点を移していくことになります。

例えば、中国の新興EVメーカーやEV商用車レンタル、欧米のライドシェア・カーシェア、蓄電池や次世代型電池等の投資は、勿論、個々の投資としても成立していますが、産業の構造転換に備えた先行布石でもあります。中国という、人口が多く、成長率が高い、しかも政府の後押しのある国において、地場のベンチャーと組んでバッテリーのリサイクルも含めたEVビジネスモデルを組み上げる。そして、それを先行事例として日本やアジアに展開する。すなわち、産業構造の変化を先取りした「面」への展開を目指してまいります。(→「ビジネスの次世代化」に向けて)

マーケットインと第8カンパニー、「売る」から「生み出す」へ

「新たな商社像」の創造を目指す上で、次世代投資のような成長投資の枠組みに加え、「組織」と「人」の次世代化が必要です。この一つの回答が「第8カンパニー」です。

商品基軸の「タテ」が強い従来の組織体制では、今や消費者接点を基盤とするプラットフォーマーに伍していくのは難しい状況です。今は目に見えなくても、従来型の商品中心の卸売モデルは、ネットを介して顧客とメーカーが直接繋がることで、その機能は徐々に失われていく可能性があります。プラットフォーマーから見れば、当社グループの広範な商品の仕入やルートも、一つひとつは小さな出店業者の集まりのようなものかもしれません。

これからの総合商社に必要不可欠なものは、個別の商品を「売る」ことではなく、市場や消費者が必要とする商品やサービスを「生み出す力」です。当社には長年培ってきた既存7カンパニーの知見に加え、物流、金融、財務・経理、人事・法務といった優れた機能と、何より大事な信用と人材があります。これに消費者目線の「生み出す力」が加わればプラットフォーマーの機能を超える「新たな商社像」が見えてくるでしょう。

そのためにはどうするのか?新しい開発組織をつくる?それでは過去の失敗事例のように開発のための開発で終わりかねません。並び替えだけの組織改編や、横串を強化しただけの組織も機能しないでしょう。商社マンはコンサルタントでもなければベンチャー起業家でもありません。伊藤忠らしく、日々の商いという「魂」を持つ、地に足のついた商人でなければなりません。

すなわち、「稼ぐ」ことを常に意識して、消費者目線での新しいビジネスモデルを創造するのが、この第8カンパニーです。消費者や市場が求めるものを「マーケットイン」の視点で生み出すビジネスですので、商品ありきではありません。商品名のない、第8という数字だけのカンパニー名としたのもそのためです。

第8カンパニーは、1997年のディビジョンカンパニー制の導入以来、最大の組織改編です。全社から多様な知見、経験を有する人材も選抜しました。部や課もなく、商品開発、デジタル戦略、物流等、4人のGMのみのアメーバ的な組織となっています。第8カンパニーが、今後の進展に合わせてどんどん形を変え、「新たな商社像」のモデルとなることを期待しています。(→第8カンパニー新設)[PDF]

中国地場ビジネスの拡大に向けて

中国国際輸入博覧会にて
中国国際輸入博覧会にて

米中貿易摩擦は益々深刻化する恐れがありますが、この約14億人の巨大な市場なくしては世界経済の発展も難しいでしょう。日中国交正常化前より中国に進出し、また、米国においても長い歴史を誇る当社としては、今後も国際関係に配慮しつつ、トレードや投資等の事業展開を積極的に進めていきます。国際情勢にかかわらず、中国の内需は確実に成長していくと思われ、中国におけるビジネスの本格的な拡大は、当社の更なる海外収益拡大に向けた重要な要素です。

例えば、既に世界最大規模に拡大し、これからも急拡大が確実視されている中国EV市場は、有望な地場ビジネスの一つです。当社が出資した「奇点汽車」は、車版のスマートフォン。新しいアプリケーションを随時追加できる「スマートカー」という新しいコンセプトを立ち上げたEVベンチャーです。同じく昨年出資した「地上鉄」は、世界最大規模のEV商用車のレンタルに加え、車両運行管理及び充電インフラの整備も手掛けています。

こうした中国が先行する分野においてビジネスモデルやノウハウを蓄積し、それを日本やアジアに展開する。更には、日本が得意とする分野、例えば、日本の質の高いサービスやCVS事業等を日本から中国に展開する等、市場としての中国は大きな魅力に溢れています。

この展開において心強いパートナーとなるのが、CITICとCPグループです。国営企業であるCITICの良質な情報網や傘下の事業会社群が、当社グループにとって貴重な価値を生み出し、中国の消費者に対して商品やサービスを提供する様々なパイプラインとなります。

2019年度も引続き、しっかりとリスクを見極めミニマイズした上で、中国での協業案件の更なる加速を図ってまいります。

海外展開について

当社は、各カンパニーと海外拠点との連携を強化していますが、これにより海外展開の一貫性が強化されてきています。「生活消費分野」の海外展開はもとより、前述の2,000億円を稼ぎ出す「基礎産業分野」や「資源分野」の成長には海外が「カギ」となります。海外における「生活消費分野」を中心とした地場事業の拡充に加え、インフラやプラント・プロジェクトの組成、新たな資源権益の獲得等、「基礎産業分野」や「資源分野」における海外事業の拡大は、今後の利益成長に大変重要な要素です。

このため、社長COO就任後、中国や北米に加え、豪州、ロシア・中東欧、中南米、アフリカをこの1年で訪問しました。

豪州:

遡ること数十年、かつて豪州においては鉄鉱石の輸出が禁止されていましたが、1961年に解禁された時から、当社の新たな歴史が始まります。当初は、西豪州Mt.Newman鉱山における対日トレードビジネスの獲得を目指していましたが、当時の越後社長はじめ諸先輩方の尽力で、1967年、当社として初の鉄鉱石の権益そのものの獲得に成功します。その後も、Yandi、Mt.Goldsworthy鉱山の権益を追加取得、他商社を上回る権益シェアの実現に成功しました。2013年にはJimblebar鉱山の権益も取得し、優良パートナーかつ世界最大の資源会社であるBHP社との良好な関係を維持しながら、西豪州鉄鉱石事業を強化しています。

これらの西豪州4鉱山からなる鉄鉱石権益と石炭権益を統括するホールディング会社がIMEA社ですが、その取込利益の累計額は過去15年間だけを見ても6,700億円を超えており、当社の業績に大きく貢献してきました。

これからも鉄鉱石や石炭に加え、原油、LNG等、世界各地の資源ビジネスを築いた先人たちへの感謝を忘れずに、「資源分野」を引続き当社における重要な事業領域として、更に成長させてまいります。

ロシア・中東欧:

サハリン-1プロジェクトをはじめ、東シベリアでの石油・ガス開発事業、エチレンプラント建設も順調ですが、資源大国であるロシアとは、引続きLNGや原油を中心とした事業機会を探っていくことになります。また、モスクワではロシア版Uberのサービスも普及し始め、今後、ロシアにおける新規の地場事業の機会も拡大していくと期待されます。ベオグラードでは、廃棄物処理発電事業が立ち上がりつつあり、セルビア首相からも当社の貢献に高い評価をいただいています。既に稼働している4基の英国の廃棄物処理発電事業やドイツの洋上風力発電等、再生可能エネルギー分野は、今後、当社のインフラ事業のコアとして推進してまいります。また、東欧諸国におけるこれまでの当社の活動はインフラや自動車関連が主体でしたが、今後は、食料等の「生活消費分野」、「ICT(情報通信技術)や金融」といった分野にも注目してまいります。

中南米:

ここ数年マイナスの成長率と高失業率に苦しんだブラジルにも、ようやく大きな変化の兆しが見え始めています。長期間のインフレに苦しむ国民の声とボルソナロ大統領の登場で、年金改革、政治改革、財政改革等にもようやく進展の兆しが見え始め、経済も徐々に明るさを増してきました。当社のブラジル事業は、これまで、1970年代から続くユーカリ材を使ったパルプ事業であるCENIBRA社、2008年に始まった鉄鉱石事業(旧NAMISA、現CSN Mineração)が主体でしたが、2018年には携帯電話関連事業への出資も実行しました。ブラジル経済の回復と国営企業の民営化等を含むブラジル政府の産業構造改革は、当社にとっても新たなビジネスのチャンスであり、今後、その動きに注目してまいります。

アフリカ:

今夏にはアフリカ開発会議(TICAD)が横浜にて開催され、今後、アフリカへの注目が高まることが想定されますが、当社も「インフラ」や「生活消費分野」を中心に現地企業と様々な取組みを進めていく方針です。人口も多く、成長著しいアフリカですが、一口にアフリカといっても国ごとに経済状況も大きく異なるため、当社は国ごとに最適なパートナーと事業を推進していく方針です。機械カンパニーでは既にアフリカ全土で自動車の取扱いがありますが、アフリカにおける携帯電話の普及率等を見ると、この先、ICTやフィンテック事業が一挙に開花していく可能性を秘めていると考えており、今後も注目していきます。

2019年度は、連結純利益5,000億円の約半分を海外収益が占める計画です。引続き、各カンパニーと連動し地に足のついた海外展開を図り、収益の更なる拡大を目指します。

オーストラリアWhaleback鉱山視察
オーストラリアWhaleback鉱山視察
ブラジル・イパンチンガの空港にて
ブラジル・イパンチンガの空港にて
ブラジルCENIBRA社の苗床視察
ブラジルCENIBRA社の苗床視察

峠越えの道

初代伊藤忠兵衛が、故郷の峠を越えて麻布の持ち下りに出立してからこれまで、当社は、環境の変化や時代の流れに沿って常に新しいことに挑戦してきました。多くの失敗も経験してきましたが、伊藤忠のDNAは「一歩でも先を行く」、「失敗しないことより、失敗しても起き上がることを良しとする」企業風土です。

2019年度もまた、伊藤忠商事は、新しい「峠」を乗り越えるべく、挑戦してまいります。