COOメッセージ

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難局のその先を見据え、先手先手の「備え」を講じることで、
持続的な企業価値向上を目指していきます。

当社は、新型コロナウイルス等に伴う新たな経営フェーズにおいても動じることなく、不断の努力を継続し、掲げた目標を達成していきます。また、「マーケットインの発想」で客先や産業構造の変化を敏感に感じ取り、着実に好機を掴んでまいります。

鈴木 善久
代表取締役社長COO

2019年度:潮目が変わった年

2019年4月、史上初の連結純利益5,000億円の達成がほぼ見えてきた中、2019年度の経営計画を議論する特別経営会議が開催されました。5,000億円という大台を達成する高揚感より、ポスト5,000億円をにらみ、いかにして着実に成長していくか、それに対応する組織体制や人材をいかにすべきかが議論の焦点でした。浮き沈みの多い当社の過去を振り返り、そこから教訓を学ぶことから会議はスタートしました。教訓は3つ、①あるべき論の長期経営計画は策定しない(裏付けのない数値目標は口にせず、経営はコミットメントを重視すべし)。②過度な「選択と集中」による経営は行わない。そして、③経営環境は必ず変化する。過信・慢心は禁物。「山高ければ谷深し」。

これらの教訓も踏まえ、2019年度の連結純利益計画は2018年度実績と同水準の5,000億円とし、一方、配当は2円増配の85円として累進配当を継続しました。景気の先行きが不透明な中、まずは着実に足元を固め、約束した数字をしっかり守ることを重視した結果でした。そして、目まぐるしく変わる経営環境への対応とオールドビジネスからの脱却を目指し、新たな組織として第8カンパニーの設立を行うことにしました。2018年度に子会社化したファミリーマートの企業価値向上と、伊藤忠グループとしてのバリューチェーン強化を、これまでのプロダクトアウトの発想ではなく、消費者目線の「マーケットインの発想」で実現することを目的とした新組織です。過度な選択や集中はしないという教訓から既存の収益の柱であるカンパニーはそのままとしました。

そして、2019年夏、それまで順調に推移してきた株式市場に変調が現れます。米中貿易摩擦の悪化に端を発し、「魔の8月」の再来かと言われる下落でした。長く続いてきた世界的な景気拡大もいつかは崩壊すると警戒を強めていた中、この変調を機に、岡藤会長CEOの指示のもと、伊藤忠はその経営の基本である「稼ぐ、削る、防ぐ(か・け・ふ)」の再徹底、特に、懸念案件を洗い出し「防ぐ」の徹底を図り、景気の更なる悪化に備えた「削る」による低重心経営に舵を切り替えることにしました。

例年10月初旬に行われていた経営計画の中間レビューも9月9日に早め、夏休み気分も早々に切り上げ、他社に先駆けて対策を打ち始めます。10年に亘って成長してきた伊藤忠が、約束した5,000億円をコミットメント通り達成できるかの重大局面と判断したためでした。その後、幸いにも株式市場は復調し、伊藤忠の株価も22回にわたって上場来高値を更新することになりますが、この時の準備が後のコロナショックへの備えとなって現れます。決して慢心しないという過去からの教訓が生きたと言えます。

2020年の年が明けた1月にWHOは武漢での新型コロナウイルス流行に関する声明を出し、3月にはパンデミックを宣言、世界中にコロナショックが走りました。リーマンショックが金融システムの崩壊であったのに対して、今回は、ワクチンも未だ開発されていないウイルスの世界的な蔓延です。治療薬と予防ワクチンが開発されるまでには時間がかかり、また、仮に蔓延が止まったとしても、世界がすぐにコロナ前の状態に戻るとは考えられません。2019年度は、油価は大幅に下落し、消費意欲は減退、自動車等の基幹産業が大きく落ち込む中、商社業界を取巻く「潮目が変わった年」ともいえます。生活消費分野を中心に分野分散された当社の事業ポートフォリオが安定感を示す一方で、資源分野や基礎産業分野に資産が集中する他商社にとって厳しい環境となり、商社業界の業績にも大きな差が出た1年となりました。 (→新型コロナウイルスによる当社への影響と対応状況)

2020年度:コミットメント経営の継続

新型コロナウイルスの影響が日増しに高まる中、2020年3月31日、2020年度の特別経営会議が開催されました。例年であれば、海外駐在の役員も帰国し経営陣が一堂に集まる会議となりますが、感染リスクに配慮し、今回は、取締役と各カンパニープレジデントに限り、少人数、短時間での開催となりました。

コロナショックが、①医療と経済が複合した予測が難しい危機であること、②リーマンショックの後に11年にわたり続いてきた景気拡大の反動であり簡単には戻らないと予想されること、③原油下落によるオイルマネーの枯渇やシェール企業等の信用不安の拡大が懸念されること等、景気に敏感な商社にとって大変難しい時代になったとの認識のもと、2020年度をいかにして乗り越えるか、果たして、2020年度計画を公表するか、未定とすべきかがテーマとなり、これまでの考え方を抜本的に見直し、リスクへの対応を徹底すること、当社のコミットメント経営は変えないことを確認しました。

2020年度の経営計画については、現状考え得るリスクを織り込んだ上で市場にお示しできるものは積極的に開示するとの姿勢で、連結純利益4,000億円、配当は引続き累進配当を継続し88円として公表することとしました。また、経営環境が激変、これから数年続くであろう「世界同時不況」に備える局面として、新たな経営フェーズに入ったとの認識のもと、足元を固める1年と位置付け、中期経営計画に属さない単年度の危機対応の経営計画としました。

誰も先を見通せない中、2020年度は、これまでの景気拡大期の延長で考えてはいけない、一度立ち止まる必要がある年と位置付けています。そして、それを実践する上で当社がとるべき道は、岡藤会長CEOの言う「より厳しく、より小さな」低重心経営を徹底することと考えています。すべての分野において、原点回帰「稼ぐ、削る、防ぐ」の再徹底を掲げ、その中でも「削る」「防ぐ」が計画達成の鍵になります。グループ全体で、成約・売上動向、物流、与信先の状況等をつぶさに把握し、保険付保・サイト短縮・売掛債権の早期回収等、先手先手で対策を打ち、損失発生を未然に「防ぐ」ことで利益の目減りを回避すると共に、「削る」では、単なる経費削減にとどまらず、より効果的な資金の使い方を常に考え、不断の努力を継続していきます。2020年度も、公表した連結純利益4,000億円、88円の配当をしっかりと実現し、皆様のご期待に応えたいと思います。 (→2020年度経営計画)[PDF]

難局のその先を見据えて

経営環境が極めて不透明な中、新規投資は従来以上に厳しく審査し、EXITは早期に実行すると共に、戦略性なき投資は一切控える等のリスク管理を徹底する一方で、アフターコロナを見据えた成長戦略は着実に実行していかねばなりません。特に、当社が強みを有する生活消費分野を中心に優良な投資案件を厳選・実行していく考えです。

2019年7月にスタートした第8カンパニーでは、全国に広がる店舗網と1日約1,500万人の来店客数を持つファミリーマートと共同で、購買情報や顧客接点を活用した広告・マーケティング、金融サービス等の展開を図ると共に、ファミリーマートや㈱日本アクセスとのデータ活用体制を整備、発注・在庫・物流のバリューチェーン最適化、ファミリーマート実店舗で新規取組を実験できる体制の構築等を進めています。また、DMP(Data Management Platform)の構築を進め、伊藤忠グループ全体での顧客データの管理や活用を進め、デジタル広告事業、データマネジメント事業、データ分析事業、金融サービス等の新たなビジネスの創出を目指します。
(→第8カンパニー)[PDF]

ベンチャー投資や新技術を活用したビジネスモデルの進化については、先行布石と注力分野の見極めは一巡し、2020年度からは、「モビリティ」「電力」「リテール」を中心に、カンパニーが主体となり事業拡大を図るフェーズに移ります。中でも、「電力」の領域では、次世代電力・蓄電池等の川下分野を統合し、「電力・環境ソリューション部門」を新設しました。AI機能を搭載した自社ブランドの蓄電池は、2020年3月末現在で累計約3万台を日本全国で販売(容量ベース国内シェア1位)しており、10年以上の年月をかけて進化させてきた事業基盤や販売ネットワークが強みです。これにSunnova、24M、PAND等、実行してきた次世代化投資を掛け合わせ、「面」での事業展開を着実に推進していきます。 (→国内最大の「面」展開を通じた「三方よし」)

戦後最大の危機とも称される現在の状況ですが、キューバ危機に際し、ジョン・F・ケネディが言ったように「危機という中国語は2つの漢字でできている。一つは危険、もう一つは好機」です。例えば、新型コロナウイルスを機に物販のオンラインシフト加速はもとより、サービスでもオンライン接客の機運が高まる中、当社グループでも、「ほけんの窓口」がオンライン相談会を開始する等、新しい取組みを始めています。新型コロナウイルスという危機の中においても、客先や産業構造の変化を敏感に感じ取り、変化の芽にアンテナを張り、好機を掴んでまいります。

海外についても、新型コロナウイルスの影響を注視し、リスクマネジメントの徹底、既存事業の磨きによる「稼ぐ、削る、防ぐ」がベースになりますが、「稼ぐ」では、有力パートナーとの連携を通じた事業拡大を図ります。例えば、2019年度に着工したセルビアの廃棄物処理発電事業は、水・環境インフラ大手の仏国スエズ社との共同取組で、セルビア・ベオグラード市で排出される廃棄物の66%に相当する年間約34万トンの廃棄物を焼却処理しその余熱で発電及び熱供給を行うものです。本案件はセルビア初のプロジェクトファイナンスを活用した大型PPP(官民連携事業)で、EU廃棄物処理基準を満たしEU加盟を目指すセルビア政府にとって最重要案件です。伊藤忠は英国でも同様の廃棄物発電施設を運営しており、培ってきた事業開発・運営ノウハウを活用すると共に、各地域・事業領域における優良パートナーと協業することで案件の質を高めながら、着実に歩みを進めていく考えです。 (→環境問題を商機として捉える)

持続的な企業価値向上に向けて

当社は、他商社比で圧倒的に少ない単体人員数で大きな成果を上げるべく、RPA等のIT活用や会議・申請書のペーパーレス化推進による業務効率化、朝型勤務や脱スーツ・デーを通じた働き方改革、がんとの両立支援等による健康経営を進め、社員一人ひとりの生産性向上のため、伊藤忠らしい先進的施策を展開してきました。

今後も、「厳しくとも働きがいのある会社」として活躍機会を提供することで、社員が成長を実感し、自分自身の手で客先・ビジネスモデルを開拓し、作り上げていく醍醐味を感じられる会社であり続けたいと思います。

2020年4月には、対面業界の急激な経営環境の変化に対応し更なる成長を果たすため、より分かりやすく「伊藤忠らしさ」を共感できる価値観を打ち出すべく、当社グループは、商いの原点であり、SDGsの理念にも通じる経営哲学である「三方よし」に企業理念を改訂しました。グループ全体の結束力を更に高め、企業価値向上を目指していきます。

これからも、コロナ禍においても懸命に働いておられる事業会社やお客様に寄り添い、本業の着実な遂行を通じて各分野におけるサプライチェーンを維持し、社会全体の生活の安定に貢献していきたいと考えています。

本業の着実な遂行を通じて各分野におけるサプライチェーンを維持し、社会全体の生活の安定に貢献していきたいと考えています。