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あたらしい商人の教科書 「生活を、そして生活する人を、いちばん大切に想う総合商社」でありたい伊藤忠商事。商いは世の中を良くするためにある。世界の様相が変わり時代が動く今、「商いに何ができるのか?」「これからの商人はどうあるべきか?」がより強く問われています。三方よしの考えを胸に、あらゆる人と共有したい「新時代の商いをつくるヒント」を、発信していきます。
「生活を、そして生活する人を、いちばん大切に想う総合商社」でありたい伊藤忠商事。商いは世の中を良くするためにある。世界の様相が変わり時代が動く今、「商いに何ができるのか?」「これからの商人はどうあるべきか?」がより強く問われています。三方よしの考えを胸に、あらゆる人と共有したい「新時代の商いをつくるヒント」を、発信していきます。

第5講|ビジネスか、環境か

あらゆるビジネスパーソンへ
新時代の商いを作るヒントを発信する
「あたらしい商人の教科書」。
第5講第2弾は、
ユーグレナの取締役副社長・永田暁彦氏と
伊藤忠のプロジェクトから
脱炭素時代の成長戦略を探る。

環境を無視できない時代の「ユーグレナ」の可能性

「あたらしい商人の教科書」を作ろう

商いをする上で、地球環境への影響をどう考慮すればいいのか。
長年、私たちは商人=ビジネスパーソンとしてこの問いに悩まされてきた。しかし、SDGsの急激な浸透もあり、カーボンニュートラルな社会への転換は世界の共通課題。その課題解決に向けた取り組みが新たなビジネスとなり、逆に、地球環境に対する取り組みをしなければビジネスに支障が出るほどの時代になっている。
では、この問いに対して商社はどんな答えを出したのか。2月27日、伊藤忠商事は共同プロジェクトを行う、株式会社ユーグレナの取締役副社長・永田暁彦氏をゲストに迎え、「サステナビリティとビジネスは両立するのか」と題したイベントを開催した。「あたらしい商人の教科書」プロジェクト第5講は、ユーグレナ社と伊藤忠のプロジェクトから、脱炭素時代の成長戦略を探る。

現代の経済成長は、持続可能な環境維持への取り組みの先にある

経済成長か、地球環境維持か。長年、世界はこの相反する重要事項の選択を迫られてきた。

持続可能な社会のために、環境維持の取り組みが欠かせないのはわかっている。しかし、従来のやり方で環境維持を優先すると、経済活動が鈍化してしまう。

「特にこの数十年、多くの人が『経済成長を優先する』という判断をしてきました」とは、バイオ燃料などのエネルギー・環境事業を展開するユーグレナ社の取締役副社長・永田暁彦氏だ。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長COO 永田暁彦氏

永田氏:「家を建てるために木を切ったり、作物を育てるために山を切り拓いたりすれば、それは環境破壊です。

24時間いつでも電気がついて、お湯が出て、スマホで注文すれば何でもすぐに手に入る。私たちの生活の裏に必ず環境への負荷がある、というのは受け止めなければいけない大前提です。

しかし、近代になって環境破壊が猛烈な勢いで進行したのは、私たちが普通に生活する以上の豊かさを求めて、経済成長を優先しすぎた結果、経済成長と地球環境とのバランスが完全に崩れたのです」

貨幣が誕生する以前の原初の取り引き(ビジネス)のかたちは、「物々交換」だったという。その場合、取り引き範囲も量も限られるため、環境への影響もわずかだ。

ところが、産業革命をきっかけとするビジネスの進化によって、国を超えた大量の取り引きが可能になり、環境への負荷も高まった。経済成長を優先したために、地球温暖化などの問題が取り返しのつかないほど深刻なものになってしまったのだ。

日本のCO2排出量の推移

永田氏:「しかし、経済か、環境かは、もう二律背反ではありません。SDGsの急激な浸透もあり、経済成長よりも環境を優先するカーボンニュートラルな社会への転換は世界の共通課題です。その課題解決に向けた取り組みが新たなビジネスを生み出している。

逆に、環境に対する取り組みをしなければ消費者からも選ばれず、ビジネスパートナーとしても、投資先としても選ばれない。もし、経済か環境かで悩むシーンがあれば、答えは環境一択。これは、エネルギー・環境事業に携わる私だけの意見ではありません」

今や、経済成長のために環境を疎かにする時代ではない。現代の経済成長は、持続可能な地球環境維持への取り組みの先にあるのだ。

環境ビジネスで求められる商社の知見

永田氏の指摘する「新たなビジネス」の好例が、ユーグレナ社と伊藤忠商事の共同事業だ。

実は伊藤忠は、ユーグレナ社にとっての初の出資者であり、提携先だ。ユーグレナ社長・出雲充氏の微細藻類ユーグレナに懸ける想いに共感するとともに、その可能性に勝機を見出し、研究開発費の出資を行ったのだ。

ユーグレナ社はそれにより、倒産の危機から脱しただけでなく、ファミリーマート向け商品を含め、伊藤忠の流通ネットワークを活用した食品原料販売が拡大した。

そんな縁のある2社は、2019年からインドネシア共和国でバイオ燃料用・飼料用に微細藻類ユーグレナの大規模培養実証試験をスタートさせている。

永田氏:「大量のCO2を排出するからと言って、たとえば現在稼働している石炭火力発電をすぐにストップするのは現実的じゃない。それでは、電力が足りなくなって経済成長どころか生活も激変してしまいます。

この場合、石炭火力発電由来のCO2を削減するのが、求められる『新たなビジネス』です。

私たちが培養しているユーグレナは、光合成能力が高く、かつ、普通の生物が生きられない高濃度のCO2環境下でも培養することができます。

石炭火力発電所から出る高濃度のCO2を含んだ排ガスによって大量のユーグレナを培養すれば、CO2排出量の削減が可能な『新たなビジネス』がはじめられるのです」

ユーグレナの培養槽
コロンビアではユーグレナの大規模培養実証試験が行われている。

ユーグレナが体内につくる油を絞ればカーボンニュートラルなバイオ燃料の原料にもなる。

動物と植物の両方の性質を備えるユーグレナは、人間が生きるのに必要な栄養素の大半を含んでおり、将来の爆発的な人口増に貴重な栄養源として備えることもできる。

また、原料不足が危惧される飼料としての用途としても有望で、一石三鳥、もしくはそれ以上の存在なのだ。

栗原氏:「ユーグレナの培養に知見があるのはユーグレナ社ですが、伊藤忠には商社としての知見があります」と語るのは、伊藤忠商事金属カンパニーの栗原健氏だ。2社がタッグを組んだ理由のひとつはここにある。

伊藤忠商おじ金属カンパニー 栗原健

ユーグレナ社は石垣島にユーグレナの培養施設を持っていますが、将来的に大量のバイオ燃料や飼料を製造していくためには、もっと大規模な培養を成功させなくてはいけません。

そこで私たちは、ユーグレナの大規模培養に最適な環境、かつ生産コスト面で優れた地域での用地の選定、原料調達などをサポートし、現地で培養するための実施体制を構築しました」

伊藤忠が商社として築いてきた世界中のネットワークを活用したことで、プロジェクトが実現したのだ。

プラントの外観

2020年には、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が行うバイオジェット燃料生産技術開発事業における公募事業にも採択され、これにより、大規模培養実証プラントの建設・運転費用、商業化に向けた事業検討費用に対して、助成金による支援が受けられる。

現地のパートナーや有力大学との提携により、海外企業単独では取得困難な、現地株などの研究許可が得られ、インドネシア国内検討で可能となった。

「儲かる」からできるサステナブルな環境維持

経済か、環境か。伊藤忠はこの問いに明確な答えを出している。2021年度からの中期経営計画における基本方針の中で「『SDGs』への貢献・取組強化」を表明しているのだ。

環境に重きを置いて、ビジネスの優先度を下げるのではなく、あくまでビジネスを通じて、環境の維持・改善に取り組む。その具体的な行動のひとつが、今回のユーグレナ社とのプロジェクトだ。

意外にも、この「ビジネスとして」という部分に期待を寄せるのが、15歳のユーグレナCFO・川﨑レナ氏だ。

この場合のCFOとは、Chief Future Officer=「最高未来責任者」の意。ユーグレナ社は、会社として未来を変えていくためには、未来を生きる当事者である若者の意見を取り入れるべきだと感じ、2019年から18歳以下のCFOの募集をしている。

株式会社ユーグレナ CFO川﨑レナさん
伊藤忠・ユーグレナ社・NewsPicksが共同で、高校生に向けた環境イベントを実施。イベント当日は、ユーグレナ社の経営変革を通してサステナブルな社会づくりに挑む2代目CFO川﨑レナさんも登壇した。

川﨑氏:「実は、サステナブルな活動をする企業が苦手だったんです。もっと言えば、サステナブルな活動をしていると宣言する企業、ですね。広告でエコなイメージを植え付ける『グリーンウォッシュ』のようなものだなと思っていました。

でも、実際にユーグレナ社でCFOになってみると、本当に意思を持ってサステナブルな活動をしている企業もあると知ることができました。

ビジネスって、政治よりも私たちにとってもっと身近なので、ビジネスをツールとして使えば世界を変える近道になると気づいたんです」

現場担当の伊藤忠商事金属カンパニー渡辺頌也氏も、「ビジネスとして取り組むことが重要です」と強調する。

伊藤忠商おじ金属カンパニー 渡辺頌也

渡辺氏:「ユーグレナ社との環境維持に対する取り組みには、商社パーソンとして非常にやりがいを感じています。

情熱も大事であるが情熱だけでは環境問題を解決することはできない。『ビジネス』だからこそ、きちんと『儲かる』仕組みが作れれば、環境問題に対してもサステナブルな解を提供することができる。

『ビジネス』として一つ一つの案件を現場で仕立てていくことが、サステナブルな社会の実現につながると思っています」

情熱だけを頼りに環境維持はできない

環境維持のために情熱を傾けるプレイヤーは多数存在する。しかし、それ自体が「儲からない」場合、誰かの犠牲の上に成り立つプロジェクトになってしまう。そうなれば、「情熱」といういつ燃え尽きるかわからないものを頼りにすることになる。

永田氏も、環境維持で結果を出すためには「ビジネス」としてのベネフィットがカギになると語る。

永田氏:「残念ながら、本当の意味で地球環境維持やサステナビリティを判断軸にしている経営者は、世界を見回しても多くありません。それでも彼らが環境に対する取り組みをするのは、そうでなければビジネスに支障が出る、今の世の中の風潮を感じているからです。

でも、ある意味それでいいと思うんですよ。環境維持に取り組めば、ESG投資が進む。優秀な人材も集まりやすい。自社にもベネフィットがあるし、環境にもベネフィットがある。経済か、環境かの二律背反ではないと言ったのは、そのバランスが大切だという意味でもあります」

「人を動かす力がビジネスにはある。ビジネスとサステナビリティは切っても切れない関係です」と川﨑氏。

ユーグレナ社のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントに導入した技術は、昨年、国際規格ASTMの新規格に登録され、今年3月には、この技術を活用したユーグレナ社が製造するバイオジェット燃料の品質も外部機関より同規格に適合することが確認された。(注1)

微細藻類ユーグレナの環境に対する好影響はわかった。ビジネスとしての実現可能性も感じられる。では、ユーグレナのビジネスは儲かるのか。渡辺氏は「ビジネスとして」という部分を強調する。

渡辺氏:「将来的に、バイオジェット燃料が既存の飛行機の燃料から置き換えられれば、ライフサイクルでのCO2排出量を最大80%減らせると言われています。(注2)

カーボンニュートラルな社会の実現のために、拡大していく市場であり、これを確実にビジネスとして育てていきたいというユーグレナ社の思いに共感しています。また、飼料としてのビジネスチャンスも大きい。それらを実現するため、まず第一歩として、大規模培養を実現したいと思っています」

栗原氏が意識するのは、伊藤忠の経営理念でもある「三方よし」だ。

栗原氏:「結局のところ、私たちが考えるのは『儲かるかどうか』だけではなく、『環境にいいか』だけでもなく、『三方よし』が成立するかどうかなんですよね。ユーグレナ社との取り組みには、『三方よし』を強く感じています」

売り手よし、買い手よし、世間よし。伊藤忠としてベネフィットのあるビジネスになり、環境意識の高い消費者や、カーボンニュートラルを目指す企業に求められる製品・サービスであり、環境維持の役割も果たす。

すべてが成り立てば、ユーグレナのプロジェクトは現代の「三方よし」だ。

これをビジネスとして育てあげられるのか。商社の手腕に期待がかかる。



(注1)

出典)株式会社ユーグレナプレスリリース
https://www.euglena.jp/news/20210315/

制作:NewsPicks Brand Design

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高校生に向けた環境イベントを実施

2021年2月27日に行われたNewsPicks for Education特別オンライン授業「地球課題を解決せよ〜サスティナブルな考えが経済に求められる理由」

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