伊藤忠商事のクリーンテックビジネス
基本方針・戦略
伊藤忠商事は、中期経営計画「Brand-new Deal 2023」において、気候変動を含む『「SDGs」への貢献・取組強化』を基本方針の一つとしました。本基本方針は2024年策定の経営方針「The Brand-new Deal」にも引き継がれています。脱炭素社会を業界に先駆けて実現することで、日本政府目標から10年前倒した2040年までにクリーンテックビジネスによる削減貢献量の創出が当社GHG排出量を上回る「オフセットゼロ」を目指します。
気候変動を含む環境リスクは、同時にクリーンテックビジネスの機会でもあります。当社は、中長期的視野に立ち、最先端技術を取り入れ、将来的に持続可能な成長が予測される、かつ、脱炭素社会・循環型社会に向けた社会構造転換に資する具体策を先手で推進します。
目標(移行計画)
クリーンテックビジネス等排出量削減に貢献するビジネスの積極推進を通じ、2040年までに当社GHG排出量の「オフセットゼロ※」を目指す。
- オフセットゼロ: 削減貢献量が当社GHG排出量を上回る状態
ビジネスセグメント | 個別目標 |
再生可能エネルギー事業 |
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アンモニア燃料関連事業 |
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蓄電システム事業 |
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水インフラ関連事業 |
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廃棄物処理発電事業 |
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取組み
経営の関与 - 脱炭素・カーボンニュートラルタスクフォース
中期経営計画「Brand-new Deal 2023」における『「SDGs」への貢献・取組強化』により脱炭素社会を業界に先駆けて実現するとの強いコミットメントのもと、2021年4月より、社長COOを管掌としたカンパニー間横断での脱炭素・カーボンニュートラルタスクフォースを本格始動しました。本タスクフォースでは、各カンパニーでの取組み案件の進捗の詳細につき隔週で報告されており、分野も水素・アンモニア案件に限定せず、GHG排出量削減に寄与し市場拡大が見込まれるその他脱炭素案件(排出権取引、CCUS等)に関しても討議を重ねています。
個別事業のご紹介
1. 再生可能エネルギー事業
伊藤忠商事は、グローバルに脱炭素ビジネス(再生可能エネルギー、水素、アンモニア)を展開中です。開発を核に投資、エンジニアリング、O&M、機器メンテナンス等機能を多角的に提供することで当分野における収益を積み上げる方針です。
再生可能エネルギー発電量推移(持分容量ベース)
再生可能エネルギー比率の目標
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2023年 | 2030年(目標) | |
持分容量(MW) | 持分容量(MW) | 持分容量(MW) | 持分容量(MW) | 持分容量(MW) | 比率(%) | 比率(%) | |
風力発電事業 | 185 |
179 |
122 |
164 |
196 |
17% |
20%超 |
太陽光・太陽熱発電事業 | 83 |
80 |
112 |
132 |
164 |
||
地熱発電事業 | 83 |
83 |
83 |
83 |
83 |
||
バイオマス発電事業 | 20 |
33 |
57 |
57 |
57 |
||
再生可能エネルギー発電計 |
369 |
375 |
373 |
436 |
500 |
||
天然ガス発電 | 1,621 |
1,258 |
1,258 |
1,258 |
1,466 |
83% |
80%未満 |
石油火力発電 | 315 |
315 |
315 |
315 |
315 |
||
石炭火力発電 | 640 |
640 |
640 |
640 |
640 |
||
火力発電計 |
2,576 |
2,213 |
2,213 |
2,213 |
2,421 |
||
発電事業計 |
2,945 |
2,588 |
2,586 |
2,648 |
2,921 |
100% |
100% |
再生可能エネルギー関連取組みの一覧はこちらからご覧いただけます。
当社は、新規の石炭火力発電事業の開発は行わない※ことを、取組み方針としています。
取組み状況及び事例
風力発電事業
風力発電(陸上、洋上)においては、1990年代後半から取組んでおり、日本、米国、ドイツにて、現在5件を開発若しくは保有しています。
ドイツ北海沖の洋上風力発電 Butendiek風力発電所
再生可能エネルギーの需要が高まる中、戦略的業務・資本提携を締結しているCITICグループと共に、ドイツ北海沖で稼働中の洋上風力発電所(288MW)の発電事業に参画しています。ドイツ標準家庭の約37万世帯分の電力を供給しており、脱炭素社会への移行に貢献しています。
青森むつ小川原陸上風力発電
日立造船株式会社と当社関連会社の東京センチュリー株式会社との共同事業として良好な風況の適地である青森県上北郡六ヶ所村で陸上風力(64.5MW)を建設中で、2026年4月の稼働開始を予定しています。年間予想発電量は約1億6,600万kWhで、一般家庭約46,000世帯分の年間消費電力量に相当します。
メガソーラー発電事業
2015年に愛媛でのメガソーラーの商業運転開始に続き、2016年に大分、2017年に岡山、2018年に佐賀と当社が国内で運営する発電所は4か所(合計発電出力130MW)になります。これまでの各発電所を運営してきた知見や経験が弊社における再生可能エネルギー事業の拡大に寄与しており、引続き安定した発電所の運営を目指します。
太陽光分散電源事業
資本業務提携先の株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ(以下、アイ・グリッド社)を通じてスーパーマーケット・物流施設の屋根を中心に国内最大規模のオンサイト型分散型発電所を運営しています。アイ・グリッド社は、顧客の初期投資ゼロで自家消費型太陽光発電システムを導入し、施設に直接、長期間に亘り安定価格で電力供給を行うオンサイト型太陽光事業を展開しています。更には太陽光発電に加えて、蓄電池や電気自動車といった分散電源をAIによる需給調整プラットフォームによって統合制御することで、顧客施設を中心とした地域のグリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けたソリューションを提供しています。
更には、国内の土地を有効活用しグリーン電力を創出する取組みを、株式会社クリーンエナジーコネクト(以下、CEC社)と資本業務提携し、2021年より共同で事業を推進しています。CEC社は、国内遊休地を活用し複数の中小規模の太陽光発電所を開発・保有した上でグリーン電力を束ね、都心のオフィスビル等のお客様へ長期に電気と環境価値の提供を行うオフサイト型太陽光事業を展開しています。2025年度までにCEC社を通じて国内の約5,000か所、累計500MWの「追加性」のある太陽光発電所を導入し、国内で最大規模のコーポレートPPA運営事業者を目指しています。
太陽光パネルリサイクル事業
伊藤忠商事は、太陽光パネルリサイクル事業取組みの一環として、先進的な太陽光パネルリサイクル技術を開発・保有する仏ROSI SASから第三者割当増資を引き受け、太陽光パネルリサイクルのビジネス推進・拡大に向けて取組んでいます。
昨今、寿命を迎えた太陽光パネルの大量廃棄が近い将来起こるという懸念が世界中で広がっており、これら廃棄太陽光パネルに関する適切なリサイクルチェーンの確立が今後の大きな課題となっています。
当社はこれまで培ってきた太陽光発電関連ビジネスのノウハウ及びネットワークに加え、ROSI社の保有する先進的、かつ、経済性の高いリサイクル技術を組み合わせることで太陽光パネルリサイクルチェーンの確立に貢献していきます。
地熱発電事業
インドネシアにて世界最大級のSarulla地熱IPP事業に参画しています。2013年にインドネシア国有電力会社との間で30年間に亘る長期売電契約を締結、その後発電所の建設を進め、2017年に1号機、2号機、更に2018年に3号機が完成し商業運転を開始しました。世界最大級の地熱資源保有国であるインドネシアは、再生可能エネルギーの導入を今後積極的に推進する方針で、地熱発電も有力な電源の一つです。地熱発電は再生可能エネルギーの中でも日照・風況等の自然条件に大きく左右されることなく電力の安定供給が可能であり、伊藤忠商事は国や地域ごとのエネルギー事情、電源構成を踏まえた電力安定供給により脱炭素への取組みを積極推進していく考えです。
バイオマス発電事業
2020年12月、当社の参画する「市原バイオマス発電所」(発電出力49.9MW)が商業運転を開始しました。本発電所の年間想定発電量は約3.5億kWhとなり、一般家庭約12万世帯の年間消費電力量に相当する発電規模となります。また2021年4月には宮崎県日向市において、2021年11月には愛知県田原市において、バイオマス発電所(各発電出力50MW)を建設することを決定し、それぞれ2024年度及び2025年度中の運転開始を予定しています。
バイオマス燃料・リニューアブル燃料関連事業
持続可能な航空燃料(SAF)
伊藤忠商事は国内発電事業者向けバイオマス燃料供給を通じて、再生可能エネルギー比率の向上に取組みます。また飛行機・自動車等モビリティ市場の脱炭素化に向けて、リニューアブル燃料の調達・供給拡大にも取組んでいます。
例えば航空業界での脱炭素化の加速に応え、当社は日本で初めて航空会社向け持続可能な航空燃料(SAF)の販売を開始しました。また航空業界における温室効果ガス(GHG)排出量削減を目指し策定されたISCC CORSIAの認証を取得しています(総合商社初)。これは、CORSIAのカーボン・オフセット要件を満たすSAFを供給できることを証明する認証です。当社が取扱うリニューアブル燃料は非化石由来の原料を使用しているため、従来の石油由来の燃料に比べ大幅なGHG排出量の削減に貢献しています。
北米再生可能エネルギー向け運転・保守事業
子会社のNAES Corporationを通じて、米国の太陽光・風力発電所に対する運転・保守サービス・資産管理事業を行っています。同社は遠隔で運転・故障状況を監視可能なシステムを活用することで、全米各地に散らばる約1,400か所もの太陽光発電所に対しサービスを提供しています。
北米再生可能エネルギー開発事業
米国において再生可能エネルギーの開発専業部隊であるTyr Energy Development Renewables, LLCを2022年に設立し、現在約3,800MW程度の再生可能エネルギー案件を開発しています。土地確保、各種許認可取得、電力系統接続、売電契約の交渉・締結、主要機器・建設工事事業者の選定・交渉、ファイナンス組成等、一連の業務を自社完結する再生可能エネルギーの開発プラットフォームを構築し、今後大きな成長が見込まれる北米再生可能エネルギー事業の開発を加速します。
2. アンモニア燃料関連事業
世界的に脱炭素化の気運が高まる中、国際海運では、国際海事機関(IMO)は2018年に温室効果ガス(GHG)排出量削減戦略として、2030年までに2008年比40%効率改善、2050年までに2008年比50%総量削減、更には今世紀中できるだけ早期にGHG排出フェーズアウト(ゼロ・エミッション)を掲げました。その後2023年に改訂し、2050年頃までのGHG排出ゼロに目標を強化しました。これらの目標達成に向け、ゼロ・エミッション船を目指した船舶の早期開発、社会実装が期待されており、その中でアンモニアは代替燃料の候補として各方面で注目されています。また、アンモニアを主燃料とする船舶の開発を具体化するには舶用アンモニア燃料の安定供給及び供給拠点の整備は欠くことが出来ない要素です。
アンモニアを主燃料とする船舶の共同開発
伊藤忠商事は、日本シップヤード(株)、(株)三井E&Sマシナリー(現(株)三井E&S)、一般財団法人日本海事協会、伊藤忠エネクス(株)及びMAN Energy Solutions(以下、MAN社)と共に、MAN社が開発を進めているアンモニアを主燃料とする主機関(以下、アンモニア焚機関)を搭載する船舶の共同開発に取組んでいます。
また、2021年10月に川崎汽船(株)、NSユナイテッド海運(株)、日本シップヤード(株)、(株)三井E&Sマシナリー(現(株)三井E&S)の4社と共に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した事業「グリーンイノベーション基金事業/次世代船舶の開発プロジェクト/アンモニア燃料船の開発」に応募し、採択されました。2022年11月には、同4社と共同で、一般財団法人日本海事協会よりアンモニア燃料船(載貨重量トン20万トン級大型ばら積船)の基本設計承認(Approval in Principle)を取得しています。本公募事業は2028年までのできるだけ早期に、アンモニア燃料船を日本主導で社会実装し、他国に先駆けて推進システム・船体開発、及び、保有・運航を行うものです。
舶用アンモニア燃料供給に関するサプライチェーン構築
伊藤忠商事と伊藤忠エネクス株式会社は、TotalEnergies Marine Fuels Pte. Ltd.、Pavilion Energy Singapore Pte Ltd.、VOPAK Terminals Singapore Pte Ltd.、株式会社商船三井を含む6社間で、舶用燃料の世界最大の供給地であるシンガポールにおいて舶用アンモニア燃料の供給拠点構築を共同開発することに合意しています。2022年4月には、シンガポール海事港湾庁と同6社間で同国における舶用アンモニア燃料供給(バンカリング)拠点開発の促進に向けた覚書を締結しました。その他の地域においても舶用アンモニア燃料供給の共同開発を目的とし、スペインでは舶用燃料供給大手であるペニンシュラ・ペトロリウム社と、エジプトではエンジニアリング・建設分野大手であるオラスコム建設社と、当社はそれぞれ2023年後半に覚書を締結しました。これにより、安全な燃料供給体制の整備やアンモニア・バンカリング船開発を更に加速させています。
また、2021年6月以降、アンモニアの舶用燃料利用を目指し、34企業・団体と共に立ち上げたフレームワークである『協議会』を通じ、アンモニアの舶用燃料利用に関する共通課題を検証・整理する活動を継続しています。2022年4月には、アンモニア燃料補給における安全性やガイドラインに関する課題、知見を関係者間で共有することを目的としたフレームワークとして『港湾協議会』を16企業・団体と共に発足させ活動を拡大させています。これらを発展させ、2023年9月にはアンモニアを主燃料とするコンテナ船を想定した燃料補給時の安全性について協議・検討することを目的として8企業・団体と覚書を締結しました。
上記各々の共同開発やフレームワークに関しては、アンモニア焚機関を搭載する船舶の開発、シンガポールでの舶用アンモニア燃料の供給拠点整備にとどまらず、同船舶の保有運航、舶用アンモニア燃料の調達、及び世界規模でのサプライチェーン構築を含めた『統合型プロジェクト』の一環として位置付けており、国内外の各企業、関係省庁とも協力し、国際海運のGHG排出量削減に向けた取組みを進めていきます。
カナダのクリーンアンモニア製造販売事業の共同事業化調査
伊藤忠商事は、マレーシアの国営石油ガス会社Petroliam Nasional BerhadグループのGentari Hydrogen Sdn. Bhd.と、カナダ(アルバータ州)でのクリーンアンモニア製造販売事業の共同事業化調査を実施しています。
当社は、従来の化石燃料由来のものより温室効果ガスの排出削減効果があるクリーンアンモニアの製造及び供給体制を確立することで、脱炭素社会の実現を目指します。
3. 水素関連事業
日本国内においては2020年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が公表され、その中でも水素は幅広い用途が期待されるカーボンニュートラルのキーテクノロジーとして、発電・産業・運輸等様々な分野の脱炭素化に寄与していくことが期待されています。
この大きな潮流を踏まえて、伊藤忠商事の幅広いネットワークとグループとしての総合力を発揮し、水素市場の開拓を推進していく方針です。
水素バリューチェーン構築に関する戦略的協業
伊藤忠商事、日本エア・リキード合同会社、伊藤忠エネクス株式会社の3社は、日本の大都市圏を念頭に、水素製造・供給、水素ステーション事業を共同で検討し、モビリティ・他各種産業向け水素市場開拓を目指しています。
2024年前半の開所を予定している、日本初の大型商用車両対応の本宮インターチェンジ水素ステーション(福島県本宮市)を皮切りに、大型商用車の利用が見込まれる幹線道路沿いにおける大型水素ステーション建設の検討を継続する予定です。
伊藤忠商事の生活産業分野を中心とした広範なネットワークを駆使して、グループとしての総合力を発揮し、水素市場の拡大に貢献していきます。
水素地産地消モデル事業構築
伊藤忠商事の重要顧客である日本コークス工業株式会社、及び新造船において当社と長年の取引があるベルギー最大手の総合海運会社Compagnie Maritime Belge B.V. (以下、CMB社)と共に、九州北部での水素地産地消モデル事業に関する共同事業化調査を実施しています。
本プロジェクトでは、コークス事業からの副生水素とCMB社の水素エンジンを柱に、水素の需要・供給双方を創出し、地産地消モデル構築を目指します。更に、同プロジェクトの他地域への積極展開により、グローバル規模での水素の社会実装を実現し、『「SDGs」への貢献・取組強化』を推進します。
Nel社との水素分野における戦略的業務協力とEverfuel社への出資
グリーン水素生産に欠かせない水電解装置に関して、生産能力・装置規模・販売台数・売上高共に世界最大規模のメーカーであるNel ASA(本社:ノルウェー オスロ)との間で、水素分野における戦略的業務協力に関する覚書を締結し、両社で水素関連ビジネスを推進しています。
Nelからの紹介を受け、2023年12月に当社は大阪ガス株式会社の子会社と共同で、グリーン水素バリューチェーン構築を推進するEverfuel A/Sの株式取得に関する契約を締結しました。同社は水電解装置を用いたグリーン水素生産設備・輸送機器・水素ステーションのEPC・運営を行っています。また、自社水素ステーション等を活用した産業分野・モビリティ分野への水素販売により、地産地消のグリーン水素バリューチェーン構築を推進しています。同社水素製造第一号案件として、世界最大級の水素製造・配給プラント(電解装置規模20MW)の商業運転開始を2024年に予定しています。
本件を通じて得られる知見やノウハウを活用し、水素の地産地消事業の欧州及び他地域への横展開並びに水素派生商品の製造事業への参画を目指すことで、脱炭素社会の実現に貢献していきます。
4. 蓄電システム事業
再生可能エネルギー供給安定化において調整弁の役割を持つ蓄電システム(Energy Storage System : ESS)を販売することで、脱炭素社会の促進、環境リスクの低減を図り企業価値向上に貢献していきます。2030年度までに売上規模年間200億円、累計電力容量2GWhを超える規模を目指します。
今後はグローバルな電池調達や販売店網強化を行い、更なる家庭用蓄電システムの展開、各事業者の脱炭素化に資する産業用蓄電システムの導入、再生可能エネルギー事業と需要家を結ぶ蓄電所向けの系統用システムの開発を、リユース電池も用いながら加速させていきます。海外においては資本業務提携先とAI搭載蓄電システムの開発及び市場投入、地域に合わせたソリューションを提供する事業展開(特に今後伸長が予測される米国、豪州市場を想定)を目指し、推進していきます。また、EV(電気自動車)や蓄電システムから発生する廃棄電池のリサイクル、及びそのトレーサビリティに関する取組みを加速させることで、循環型ビジネスを行い、企業価値の更なる向上に貢献していきます。
蓄電システム事業 事業規模
蓄電システム販売累計容量(GWh)
伊藤忠商事は日本国内において、独自ブランドの家庭用蓄電システム「Smart Star」シリーズを、株式会社NFブロッサムテクノロジーズ※と共に開発・製品化。2024年3月末時点で累計約60,000台の販売実績となりました。
また、日本政府、東京都が脱炭素社会実現に向けて推進している蓄電所事業を中心に、産業・系統用蓄電システム「Bluestorage」についても、設置実績を積み上げ始めています。
※ 2020年2月に発足した、株式会社エヌエフホールディングスと伊藤忠商事の合弁会社。
取組み状況及び事例
AI技術を活用した次世代家庭用蓄電システムの販売
伊藤忠商事は、蓄電システムの最適充放電制御を行うソフトウェア「GridShare」を開発する、英国Moixa Energy Holdings Ltd.と資本業務提携しました。
GridShareをSmart Starシリーズへ組み込むことにより、停電時に強みを発揮する本来の特長に加え、AIが気象予報やユーザーの電力需要・発電予測等を分析・学習し、蓄電システムの最適充放電制御を行う事で、太陽光発電並びに蓄電システムの効率的な運用を可能にしました。
また2021年5月から販売を開始した「Smart Star3」においては、世界初となる、家庭用蓄電システムを通じた環境価値のポイント化やEV充電機能を実装しています。
Smart Star Lの製品公式サイトはこちらをご覧ください。
電力サービス・P2P電力取引技術開発に取組むTRENDE株式会社との資本業務提携
TRENDE株式会社は、「未来を照らしていく」をミッションに、初期費用ゼロ円での住宅向け太陽光発電電力小売サービス(ほっとでんき・ひだまりでんき・じぶん電力)の展開や、再生可能エネルギーの効率的活用及び普及に資するP2P電力取引※1の技術開発や社会実装に取組んでいます。
伊藤忠商事とTRENDE株式会社は、再生可能エネルギーが持つ非化石価値※2を活用した環境価値取引の拡大や、お客様同士のP2P電力取引実現を目指します。
- P2P電力取引: Peer to Peerの略。電力の需要家と発電設備保有者による電力の直接取引を指す。
- 非化石価値: 発電の際に化石燃料を使用しない電源に対して付与される環境価値。再生可能エネルギーの導入を推進するため、2018年5月に取引市場が創設。
日本初の系統用蓄電池専業ファンドの創設
再生可能エネルギーの開発が活発化する中、発電量が大きく変動する再生可能エネルギー電源に対する需給調整機能の必要性が増大しています。系統用蓄電池は、電力系統へ需給調整力を提供できる今後の脱炭素社会に不可欠な存在であり、東京都は電力系統の安定化に資する系統用蓄電池の普及促進を目的として、官民連携ファンドを創設することとしました。
伊藤忠商事は、東京都が進める創エネ・蓄エネ推進ファンドの運営事業者にGore Street Capital Limited(以下、GSC社)と共同で選定され、GSC社と法人を設立の上、東京都が出資参画する官民連携ファンドを運営します。本ファンドは欧州や米国に続く日本初の系統用蓄電池への専業ファンドとなります。
これまで培った定置用蓄電システムビジネスの知見を活かし、日本の脱炭素化を推し進める系統用蓄電池事業をファイナンス面からも積極的に推進していきます。
系統用蓄電池事業における豪州Akaysha Energy Ptyとの戦略的業務提携
伊藤忠商事とAkaysha Energy Pty(以下、Akaysha社)は、高性能で効率的な系統用蓄電池システムの開発を目指し、戦略的提携契約を締結し競争力の強化を図ります。ブラックロック・グループ傘下のAkaysha社は、事業開発プラットフォーマーとして、グローバルに系統用蓄電ソリューションの開発、保有及び運営を推進しています。当社は、国内外の再生可能エネルギーの更なる導入拡大と安定供給に寄与できるよう、本協業を通じて互いの革新的なソリューションを組み合わせ、持続可能な社会の実現に向けた役割を果たしていきます。
5. 水インフラ関連事業
伊藤忠商事は、新興国を中心とした経済発展や人口増加、気候変動による降水パターンの変化により、拡大が予想される水関連ビジネスを重点分野と位置付け、海水淡水化事業、水道コンセッション事業等を、グローバルに展開しています。
海水淡水化事業
伊藤忠商事は豪州ヴィクトリア州における海水淡水化事業に出資参画しています。本設備はヴィクトリア州メルボルン市人口の水需要の約30%を満たすことが可能であり、2012年よりメルボルン市への水の安定供給を支える事業です。
またオマーン政府傘下のオマーン電力・水公社が同国北部のバルカにて推進する海水淡水化事業には筆頭株主として出資参画しています。
取組み例
海水淡水化プラント及び浸透膜の製造・販売事業 命をつなぐ飲用水を安定供給
—オマーン最大の海水淡水化事業—
2016年3月、当社が参画するBarka Desalination Company(バルカ・デサリネーション・カンパニー)は同国の水の安定供給に向けてオマーン北部バルカでの日量281,000m3の海水淡水化事業契約を締結しました。同プロジェクトは深刻な水ストレス地域であるバルカ地域への生活用水を提供するためのオマーン政府との官民連携型事業であり、逆浸透膜(RO膜)方式の海水淡水化設備と周辺設備の建設及び20年間にわたる運営を行います。設備は2018年6月に商業運転を開始し、総事業費約300百万米ドルのオマーン最大の海水淡水化事業です。2022年2月にマスカット証券取引所に上場を実現しました。
6. 廃棄物処理発電事業
世界では年間20.1億トン(東京ドーム約5,400杯分)の一般廃棄物が排出されており、その少なくとも3分の1は回収もされず散乱もしくは焼却等適切な処理がされずに埋め立てられています。その結果、腐敗ガスが出たのちに自然発火して火災が発生したり、流れ出た有害物質が湖や川、地下水等に混じったりすることで、周辺地域の人々の健康や生態系に悪影響を及ぼすこともあります。新興国を中心とした急速な都市化と人口増加により、今後30年間で世界の廃棄物量は年間34億トンにまで達すると予測されています。
伊藤忠商事は、英国において自治体向けに4件の廃棄物処理発電事業を開発・投資・事業経営を担っており、同国の廃棄物焼却処理市場の約10%にあたる年間130万トンの廃棄物を焼却処理、16万世帯分の国内家庭消費電力に相当する電力を供給しています。また、セルビア共和国においては、セルビア政府及びベオグラード市と連携して、廃棄物処理発電所を含む統合型廃棄物処理事業を、開発・推進しています。深刻な環境被害をもたらし同国最大の環境・社会問題となっていたVinča(ヴィンチャ)廃棄物埋立場を閉鎖、適切な管理を行うと共に、ベオグラード市から排出される一般廃棄物を焼却処理、その余熱を活用したクリーン発電を行うものです。国際金融公社、欧州復興開発銀行、オーストリア開発銀行からなる国際銀行団からの融資を調達し、廃棄物処理発電プラントを含む廃棄物処理管理施設の建設を進めています。廃棄物処理発電プラントでは、年間34万トンの廃棄物を焼却処理、3万世帯分の家庭消費電力に相当する電力を供給します。これらの事業に加え、2020年には、UAE/ドバイ首長国において廃棄物処理発電事業の取組みを開始しました。同首長国内で発生する一般廃棄物の約45%にあたる年間190万トンを焼却処理し、焼却時に発生する熱を利用し発電を行う、世界最大規模の廃棄物処理発電事業になります。当該施設の建設及び35年に亘る運営を通じて、ドバイ政府が掲げる、廃棄物の埋立処分量の削減・持続可能な環境に配慮した廃棄物管理・化石燃料に頼らない代替エネルギーの開発促進といった同首長国の環境・衛生面における政策目標の達成に貢献します。
7. 還元鉄事業
低炭素還元鉄のサプライチェーン構築
製鉄過程で発生するCO2排出量の削減が鉄鋼業界における喫緊の課題です。直接還元法は、高品位鉄鉱石を原料とし、その還元に天然ガスを使用することで、従来の高炉法に比べ、製鉄過程におけるCO2排出量を大幅に削減できます。伊藤忠商事は、直接還元法に必要不可欠な原料である高品位鉄鉱石の安定供給に向け、カナダで操業中のAMMC鉄鉱石事業の一部権益を取得しました。また、長年の事業パートナーであるJFEスチール株式会社、中東で最大級の鉄鋼及び建材メーカーとして上場するEmirates Steel Arkan社と共に、低炭素還元鉄のサプライチェーン構築に関する事業化調査を共同推進しています。同事業では、当社の出資先であるブラジル鉄鉱石事業CSN Mineração社で生産される高品位鉄鉱石も使用予定です。一般に高炉法では粗鋼1トンの生産過程で発生する約2トンのCO2排出量を、天然ガスを用いた直接還元法では約1~1.5トンまで削減する効果※があります。将来的には水素による還元を実現することで、製鉄過程のCO2排出量ゼロ化を目指します。
- 出典: JFEグループ 環境経営ビジョン 2050、P9
8. CCUS・CO2固定化事業
CCUSの具体的な取組みとして、オーストラリアのMCi Carbon(以下、MCi社)に出資・協業し、製鉄スラグ・石炭灰・廃コンクリート等にCO2を吸収・固定化させ、製造した炭酸カルシウム等を建材等の用途に利用する技術の普及活動を推進しています。MCi社は、2021年6月にオーストラリア政府のCCUSファンドから14.6百万豪ドルの補助金を獲得、同年11月には英国グラスゴーで開催されたCOP26 Clean Energy Start-up Pitch Battleで参加企業2700社の中で優勝を収め、将来的に毎年10億トン規模のCO2の吸収・固定化を目指している会社です。2022年7月には当社と大成建設株式会社、MCi社の3社間で覚書を締結し、コンクリート原料としての本炭酸カルシウム等の活用につき、検証を進めています。また、本邦での製品製造を視野に入れ、原料を排出する国内各社と炭酸カルシウム製造に向けた協議を行っています。
9. グリーンビルディング
伊藤忠商事は、住宅・商業及び物流施設・工業団地等を中心に、不動産開発から運営管理まで一貫して携わっており、スマートシティのコンセプトや、IoT技術等も活用した、暮らしに不可欠で良質な不動産及び関連サービスを提供しています。
グループ会社が運営する不動産投資信託は、不動産会社・ファンドのサステナビリティへの取組みを評価する「GRESBリアルエステイト評価」に参加しています。また、環境負荷低減の観点より、保有ポートフォリオにおいてグリーンビルディング認証※の取得を積極的に行っています。賃貸マンション特化型の上場不動産投資信託であるアドバンス・レジデンス投資法人では、CASBEE不動産評価認証取得物件を26物件、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)評価取得物件を2物件保有しています。なお、保有ポートフォリオにおける割合は、床面積ベースで32.2%、物件数ベースで9.5%に相当します。物流不動産特化型の上場不動産投資信託であるアドバンス・ロジスティクス投資法人では、DBJ Green Building認証取得物件を8物件、CASBEE不動産評価認証取得物件を2物件、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)評価取得物件を9物件保有しています。保有ポートフォリオにおける割合は、床面積ベースで95.0%、物件数ベースで84.6%に相当します。また、総合型の私募不動産投資信託であるアドバンス・プライべート投資法人では、1物件にてCASBEE不動産評価認証を取得しており、そのポートフォリオ(底地を除く)における割合は、床面積ベースで11.4%、物件数ベースで10.0%に相当します。
- グリーンビルディング認証の取得割合は2024年1月末時点の情報です。
10. 外部との協働
イニシアティブへの参画を通じたクリーンテックビジネスへの取組みを推進、拡大させています。各イニシアティブへの参画においては伊藤忠商事のクリーンテックビジネスに対する基本方針、取組みと合致しているか確認の上、参画を決定しています。
一般社団法人 カーボンリサイクルファンド
2019年8月に設立。CO2をカーボン源として利用し、2050年カーボンニュートラルという目標達成に向けて一層の努力を行う必要があると考え、地球温暖化問題と世界のエネルギーアクセス改善の同時解決を目指し、カーボンリサイクルに関わる研究助成活動や広報活動等により、カーボンリサイクルイノベーション創出支援を行う一般社団法人であり、伊藤忠商事も会員として参加しています。
東京湾岸ゼロ・エミッションイノベーション協議会
政府の「革新的環境イノベーション戦略」(2020年1月21日統合イノベーション戦略推進会議決定)の提言に基づき、多くの企業の研究所・工場・事業所・研究機関、大学等が連携して、東京湾岸周辺エリアを世界に先駆けてゼロ・エミッション技術に関わるイノベーションエリアとするため、2020年6月に設立された協議会で、伊藤忠商事も会員として参画しています。
日本CCS調査株式会社
2008年5月、地球温暖化対策としてのCCSを推進するという国の方針に呼応する形で、電力、石油精製、石油開発、プラントエンジニアリング等、CCS各分野の専門技術を有する大手民間会社が結集して設立された民間CCS技術統合株式会社で、北海道苫小牧におけるCO2の分離・回収、利用、輸送、地中貯留の実証プロジェクトの調査及び実証試験等を行っています。伊藤忠商事も株主の一社として、本件を支援しています。また、液化CO2大量輸送技術の確立のための研究開発・実証事業も同社と共同推進しています。
再生可能エネルギー地域活性協会
一般社団法人再生可能エネルギー地域活性協会(FOURE)は、日本における主力電源としての再生可能エネルギーの地域導入を普及促進し、各地域と再生可能エネルギーが共生し相互に発展することで、地域に裨益する再生可能エネルギーの導入拡大並びに脱炭素社会の実現を目指す団体で、2021年6月に設立、伊藤忠商事は2022年3月から会員として参画しています。
ジャパンサステナブルファッションアライアンス
2021年8月、伊藤忠商事、株式会社ゴールドウイン、日本環境設計株式会社を初代代表として「ジャパンサステナブルファッションアライアンス」が設立されました。本アライアンスは、ファッション産業が 自然環境や社会に与える影響を把握し、ファッション及び繊維業界の共通課題について共同で解決策を導き出すための連携プラットフォームです。「適量生産・適量購入・循環利用によるファッションロスゼロ」と「2050年カーボンニュートラル」を目標に、サステナブルなファッション産業への移行を推進していきます。
取組み内容 | 事業主名/出資先 | 国 | 発電容量・規模 | 温室効果ガス 削減数値 |
風力発電事業 | Aspenall風力発電事業 |
アメリカ |
43MW |
約10万トン/年 |
Cotton Plains 風力・太陽光発電事業 |
アメリカ |
217MW |
約48万トン/年 |
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Prairie Switch Wind 風力発電事業 |
アメリカ |
160MW |
推定38万トン/年 |
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むつ小川原風力発電事業(建設中) |
日本 |
64.5MW |
推定15万トン/年 |
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洋上風力発電事業 | Butendiek 洋上風力発電事業 |
ドイツ |
288MW |
約77万トン/年 |
廃棄物処理・ 発電事業 |
ST&W 廃棄物処理・ |
イギリス |
26万トン/年の一般廃棄物を焼却処理 |
推定6.2万トン/年 |
Cornwall 廃棄物処理・ |
イギリス |
24万トン/年の一般廃棄物を焼却処理 |
推定6万トン/年 |
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Merseyside 廃棄物 |
イギリス |
46万トン/年の一般廃棄物を焼却処理 |
推定13万トン/年 |
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West London 廃棄物 |
イギリス |
35万トン/年の一般廃棄物を焼却処理 |
推定8.3万トン/年 |
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セルビア 廃棄物処理・ |
セルビア |
34万トン/年の一般廃棄物を焼却処理発電・熱供給及び埋立ガス活用により発電 |
推定21万トン/年 |
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ドバイ 廃棄物処理・ |
UAE |
190万トン/年の一般廃棄物を焼却処理予定 |
推定217万トン/年 |
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地熱発電事業 | Sarulla Operations Ltd |
インドネシア |
330MW |
約220万トン/年 |
太陽光発電事業 | 大分日吉原太陽光発電所 |
日本 |
45MW |
推定4.6万トン/年 |
新岡山太陽光発電所 |
日本 |
37MW |
推定3.8万トン/年 |
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西条小松太陽光発電所 |
日本 |
26MW |
推定2.7万トン/年 |
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佐賀相知太陽光発電所 |
日本 |
21MW |
推定2.1万トン/年 |
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アイ・グリッド・ソリューションズ |
日本 |
178MW |
推定18.2万トン/年 |
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Clean Energy Connect |
日本 |
97MW |
推定9.9万トン/年 |
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バイオマス発電事業 | 市原バイオマス発電所 |
日本 |
49.9MW |
35.3万トン/年 |
日向バイオマス発電所 |
日本 |
50MW |
35.3万トン/年 |
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田原バイオマス発電所 |
日本 |
50MW |
35.3万トン/年 |
2023年度 当期純利益(取込収益) |
2024年度見通し 当期純利益(取込収益) |
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電力・環境ソリューション部門※1 | 249億円 |
135億円 |
北米電力関連事業※2 | 167億円 |
153億円 |
- 国内再生可能エネルギー発電事業や蓄電池事業を専門的に担うエネルギー・化学品カンパニー傘下の部門
- 北米電力事業及び関連サービス事業の損益を合算して表示しています。