2025年 新入社員への社長メッセージ
2025年4月1日
この度は入社おめでとうございます。本日ここに、総合職129名、ビジネスエキスパート職24名、合計153名の新しい仲間を迎えることができました。
皆さんの社会人としての第一歩をお迎えするに当たり、本日は多くの役員・社員に加え、創業家より伊藤滋様・豊様、また、小林名誉理事を始めとするご来賓の皆様にもご臨席いただいております。この場を借りて、当社を代表し御礼申し上げます。伊藤忠商事の入社式の恒例となりました、会場一杯に咲き誇る満開の桜の下、皆さんと共に、このように盛大な入社式を執り行うことができることを、大変嬉しく思います。
さて、まず初めに、私が入社式で毎年必ずお伝えしている二つの重要な心得についてお話しさせて頂きます。
一つ目は、当社の行動指針である「ひとりの商人、無数の使命」です。
これは、私にとっても、自分をリセットする時にいつも振り返る重要なフレーズの一つです。創業者である初代 伊藤忠兵衛翁(おう)の商人の心構えに学び、「商人の使命」は、商いを通して社会の課題を解決し、人々の暮らしを豊かにしていくことだという姿勢を表しています。すなわち、私たち伊藤忠商事社員一人ひとりは、仕事を通じて、無数にある社会の課題に挑戦し、解決してゆくという使命を負っており、高い意識を持って仕事に向き合えということだと思います。
二つ目は、「三方よし」の精神です。
近年、企業経営におけるSDGsの重要性が一段と高まりを見せていますが、その中で、たびたび「三方よし」という言葉が引用されています。この「三方よし」は、売り手、買い手、世間の三方が共に満足するという共存共栄の考えにあり、近江商人の経営哲学をルーツとする現在の当社の企業理念です。創業の精神として引き継がれ、160年以上続く商いの精神であり、調和の心です。
皆さんもこれからの会社人生の中で、思い悩んだり、失敗したりすることがあるかも知れません。そんな時、自分に原点を振り返らせ、克服するエネルギーを与えてくれるのが「ひとりの商人、無数の使命」と「三方よし」です。本日、この二つの言葉を常に心にとどめておいて頂きたいと思います。
現在、当社は、岡藤会長CEOの指揮の下で「マーケットイン 利は川下にあり」の経営戦略に加え、独自の働き方改革でトップ商社の一角を担うまでに成長し、世間から注目を浴びる会社となりました。皆さんの知る伊藤忠商事も総合商社のトップを狙う会社という認識だと思います。昨年6月には時価総額が12兆円を突破、9月には上場日本企業の中で商社トップとなる時価総額9位にランクインしました。しかしながら、振り返れば当社は非財閥の生まれであり、大阪の繊維問屋から現在の総合商社へと成長する過程では、戦乱は当然のこと、その後も成功と失敗を経験しながら、数々の困難を乗り越えてきたということも知って頂きたいと思います。他社に比べて社員数の少ない当社がこれまでの困難を乗り越えられた原動力は、一人ひとりの社員の頑張りに他ありません。幾多の困難を乗り越えてきたのは社員たち、そして、これからの未来を切り開くのも社員たちの力です。今日から皆さんも当社の社員です。皆さん一人ひとりが強い社員となり、次の伊藤忠商事の未来を担う原動力となることを期待しています。
さて、本日から皆さんは伊藤忠商事の商人になるための見習いを始めることになりますが、業務の習得以外にお願いしたいことを二つ申し上げます。
一つ目は、「人間力と感性の鍛錬」です。人間力が磨かれれば、自ずと人を惹きつけ、人脈も広がっていきます。そして、感性を磨くことで、一歩先を読む力やお客様が求めるものの本質を見抜く力を身につけることができます。このことは、皆さんが今後の経験を通して個別に磨き上げるスキルであり、こればかりは流石のChat GPTでも教えてはくれません。岡藤会長CEOがメディアの取材や、先日の日本経済新聞の「私の履歴書」でもお話しされている「商人は水であれ」という言葉があります。これはビジネスにおいて、社会の潮流や風向きを読み、様々に変化するお客様のニーズに変幻自在に対応していく感性を磨けということだと思います。この感性を磨くことで、ビジネス上のバリューチェーンにおいて、どこで自分の付加価値を生み出せるのか、社会に対してどんな価値を創造できるのか、そして如何にして商売の主導権をとるのかなどを考え抜いて仕事を仕立てることが出来るようになります。今話題の生成AIなどは有用なツールではあるものの、リアルの現場は単純ではなく、複合的な世界です。いつの時代も未来を見据えた大事な決断は人間が行ってきました。本質を見極め、柔軟かつ複合的な判断を下せるように、是非ビジネスを通して世界で通用する「人間力と感性の鍛錬」をして頂きたいと思います。
二つ目は、「信用を勝ち取る」ということです。人間が深くかかわる現場のビジネスの世界は、人と人との掛け合いの世界です。「人間力と感性」を磨く過程で勝ち取った、皆さんの信用が、また次のビジネスへの信用に繋がり、そしてまた次と、信用の連鎖が生まれてゆきます。創業者である伊藤忠兵衛翁(おう)の商いの基本も信用を勝ち取ることだったと思います。ビジネスの現場は、皆さんの信用形成のトレーニングジムです。好奇心を持って現場に出ていき、信用実績を積み上げていくことです。「今度の担当は、時間を守り誠実そうで気が利くな」、「うちの会社の事情をよく理解してくれていて、良い提案をタイムリーに持って来るな」、「次回も伊藤忠に相談しよう」、というような信用の連鎖を経験してください。相手を観察することから始まる現場経験の積み重ねが、皆さんを磨き、顧客や周囲の仲間に信用されるプロの商人へと導いてくれるはずです。これからリアルの現場で出会うたくさんの感動と様々な経験を通して、パートナーとして周囲から頼られる存在になってください。また信用には個人の信用と会社の信用があります。たった一人の社員の軽率な言動が、会社全体の信用を失墜させることがあるということも今一度頭に入れておいてください。
最後になりますが、皆さんはどのような夢を抱いて今日の日を迎えていますでしょうか?人生の醍醐味はより多くの夢を実現していくことだと思います。伊藤忠商事には、皆さんが持つ様々な夢を実現するためのチャンスとリソースがあり、そしてなによりもかけがえのない仲間達がいます。是非人生というキャンバスに伊藤忠商事が持つ多彩な色を使ってあなただけの大きくて色彩豊かな素晴らしい夢を実現して欲しいと思います。
本日ここに集まった同期153名のこれまでの経歴は様々だと思いますが、今日からは皆横一線に並んで「伊藤忠商人」の修行のスタートです。毎日を大切にして頑張ってください。
改めて、皆さんの入社を心から祝福し、私の歓迎の挨拶とします。