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「FRaU SDGs」。それは、講談社「FRaU」が2018年に女性誌で初めて、一冊まるごとSDGsに特化した雑誌。以来、号を重ねながら確実に裾野をひろげています。そんなFRaU独自の視点で、伊藤忠商事のSDGsへの取り組みをご紹介します。

入り江が複雑に入り込んだ、対馬の美しい海岸。
入り江が複雑に入り込んだ、対馬の美しい海岸。しかしよく見ると、海辺に広がっているのは、打ち上げられた大量のプラスチックごみだ。九州と朝鮮半島の国境にある対馬は、海流が日本海へ流れ込む入り口であること、大陸から季節風が吹くことなどの条件が重なり、海洋プラスチックごみが日本で最も多く流れ着いてしまう立地だという。 

生物を守り、ごみを資源化。
海から世界を変えるITOCHUの挑戦。

長崎県対馬市の海岸に打ち上げられる、海洋プラスチックごみ。 
それらをアップサイクルする取り組みを行っているのは、
総合商社の伊藤忠商事だ。 
プラスチックの取り扱い量が“世界2位”の企業だからこその責任とは。

illustration NAOMI NOSE text CHIHIRO KURIMOTO edit NANA OMORI

海洋プラスチックごみの資源化までの道のりと課題。

日本海に浮かぶ長崎県の離島、対馬。リアス式海岸や原生林などの豊かな自然を誇 る美しい島だが、その海岸に、今、多くの海洋プラスチックごみが打ち上げられていることを知っているだろうか。それらのプラスチックごみをアップサイクルする取り 組みをはじめたのは、伊藤忠商事(以下、 ITOCHU)だ。2019年、アメリカ のリサイクル会社TerraCycle®と資本・業 務提携を結んだITOCHUは、対馬で回 収された海洋プラスチックごみを選別・粉 砕して資源化。新たな製品へとアップサイ クルする。これまでに、日本サニパックと 共同で開発したごみ袋を対馬の清掃ボラン ティアへ提供したほか、対馬市や壱岐市などのファミリーマートに海洋プラスチックごみ由来の買い物かごを導入するなど、ITOCHUグループと地域が一体となり実用化を進めている。今後は、花瓶、ボトルといった雑貨も展開していく予定だ。

約2年がかりでようやく商品化まで辿り着いたこのプロジェクト。ITOCHUの化学品部門化学品環境ビジネス統轄の小林拓矢さんは、海洋プラスチックごみを資源化するにあたり、さまざまな困難があったと振り返る。

「海洋プラスチックごみは劣化しているため品質をどう担保するか、素材の判別も難しいのでどう選別するか、また、効率よく運搬するにはどうすればいいかなど、課題は山積みでした。そこで、私たちがこれまで培ってきたネットワークを生かし、協力工場やパートナーを探し出したのです」

ITOCHUは、プラスチックの取り扱い量が卸業者として世界2位。年間300万トン以上ものプラスチックを取り扱う実績と蓄積されたノウハウ、築いてきたネットワークがあるからこそ実現できたという。それと同時に世界2位の企業だからこそ、この課題に取り組まなくてはならない責があると、小林さんは続ける。

「環境関連のプロジェクトを立ち上げるにあたり、プラスチックごみ問題は無視できないものでした。ただ、私たちとしては、プラスチックを完全に“悪”だとは思っていないんです。例えば、プラスチックがないと食品を保存できず、フードロスに繋がる。SDGsの観点からもプラスチックはいろんな場面で役に立っているので、負の側面を抑えつつ、できるだけ環境に配慮した別の素材に替えていくなど、バランスを考えながら環境負荷の低減を模索していきたいです」 

ITOCHUの海を守る3つの試み 

1 海洋プラスチックごみの資源化 

年間約2万㎥もの海洋プラスチックごみが漂着するといわれる、長崎県対馬市での取り組み。海岸に打ち上げられた海洋プラスチックごみを選別・粉砕して資源化することで、さまざまな製品に活用できるようになる。海洋プラスチックごみ由来の原料を配合したごみ袋や買い物かごは、地域SDGs活動の一環として、対馬やその近辺のエリアですでに実用化している。

海洋プラスチックごみの資源化

2 アオウミガメ保全プロジェクト 

海洋プラスチックごみの資源化以外にも、アオウミガメの保全活動を行うNPO法人を支援(アオウミガメは環境省レッドデータブックで絶滅危惧種に指定されている)。社員に向け2018年から小笠原諸島・父島で「アオウミガメ保全ツアー」を実施しているほか、父島を訪れるボランティアのための宿泊施設が老朽化していたため建設支援を行い、2020年に「ユニットハウス」が完成した。

アオウミガメ保全プロジェクト

3 アマゾンマナティー保全プロジェクト

京都大学が国立アマゾン研究所と進める、生態系保全プログラム「フィールドミュージアム構想」。2016年より本プログラムにて、アマゾン川の固有種で絶滅の危機にあるアマゾンマナティーの保全を目的に、親を失った子マナティーを保護・飼育し、再び自然へ戻す野生復帰事業「マナティー里帰りプロジェクト」を支援、アマゾン奥地に世界の研究者が長期滞在できる宿泊施設を建設した。

アマゾンマナティー保全プロジェクト


美しい海を取り戻すための“持続可能な商売”。

ITOCHUが取り扱う“環境負荷の少ないプラスチック”は、海洋ごみ由来のプラスチックだけではない。再生可能な原料を使った「バイオマスプラスチック」や、回収されたペットボトルを再生した「リサイクルプラスチック」など、特性の異なる素材がある。また、現状リサイクルが困難な詰め替え容器など、複層素材のプラスチックのリサイクルプロジェクトにも取り組んでいる。これらはメーカーや小売りの抱える課題や要望に応じて、その解決方法として提案を進めているという。

「さまざまな環境問題がある中で『何をしたらいいかわからない』といったご相談を多くいただきます。私たちは“古くて新しい御用聞き”として、そういった課題に耳を傾け、寄り添って一緒に考えています」

環境に配慮した素材を社会に定着させていくためには、価値を見出してくれるパートナーが欠かせない。また、持続可能なものにしていくために、関係者全員が利益を出せるような仕組みづくりも大事だという。

「私たちは商人なので、“これを商売にしなければいけない”という思いは人一倍あります。ボランティアや自己犠牲では長続きさせられないですから。商売を組み上げ、“環境に配慮した製品”の価値やストーリーをつくっていかなければならないのです。今の日本では、環境問題について発言すると、“意識高い系”などと揶揄されてしまうことがあります。そうやって切り離されてしまうと、解決に向かっていかないですよね。だからこそ“環境問題解決へのストーリー”を、商品をつくるときの選択肢に組み込んでいけば、いつしか環境に配慮した商品を手に取ることが当たり前になっていくのではないかなと思います」

環境問題について考える第一歩として、できるだけストレスがかからない方法で、エコな素材に触れてもらうのがいいのではないか、と小林さんは提案する。

「例えば、買い物かごはスーパーでいちばんはじめに手に取るもの。それが海洋プラスチックごみで作られていると聞いて、ストレスを感じる人はいないと思うんです。『こういうことができるんだ』と関心を持っていただくうちに、店内にある他の環境に配慮した商品にも自然と意識が向くような仕掛けができればと考えています」

パートナー企業の理解に、消費者の反応。環境についての取り組みはまだまだ課題が多いが、ITOCHUは今後どのような社会になることを目指しているのだろうか?「究極を言えば、海洋プラスチックごみがなくなり、私たちが行うごみの資源化における商売そのものが不要になればいちばんいい。そこに少しでも貢献できたら」

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