朝から残業、という逆転の発想。
“朝型”の働き方を追求した真の狙いとは?
Project Way
震災をきっかけに、お客様との真の向き合い方が問われた。
きっかけは、2011年3月11日の東日本大震災。
震災翌週の月曜、経営トップは早朝から出社。お客様が被害に合っていないか、すぐさまお客様の下に足を運んだ。その後、午前10時頃に本社に戻ると、最寄りの地下鉄の駅から大勢の社員が平常通りに出社している様子を目にすることとなった。
震災で混乱する状況下、うちの社員は世間とズレていないだろうか、お客様ときちんと向き合えているのか、強い危機感を抱いた。
それをきっかけに、伊藤忠商事として大切にする「三方よし」「現場主義」という原点に立ち返ることを決心。経営トップ自らが「朝早く来て、懸命に取り組むお客様としっかり向き合おう」と社員に呼びかけ、当時のフレックスタイム制度の見直しにつながっていく。
同業他社と比べ、単体社員数が少ないからこそ効率的な働き方を目指す。
労働生産性を向上する。
そして、社員一人ひとりの働きがいも高める。
深夜残業を禁止し、早朝勤務を推奨する朝型勤務制度の真の狙いは、効率的な働き方を通じて、労働生産性を向上、同時に社員一人ひとりの働きがいを高めること。
社員の意識改革を促進するために、朝早くから始業した社員に対するインセンティブ(割増賃金、朝型軽食配布)も制度に織り込み、単なる残業代のカットが狙いではないと、経営陣の本気度を示した。
10年をかけ浸透。社員の“時間”に対する意識が変わり、労働生産性も向上。
社員に理解、納得してもらうまでの道のりは困難を極める。それまで導入されていたフレックスタイム制度は、社員に定着していたため、労働組合との交渉が必要だった。何度も議論を交わすことになった。そして2012年、管理職を中心に9時始業を呼びかけ半年間のトライアルを実践。2013年度に朝型勤務制度を導入した。制度を導入してからが本当のスタート。現場からの抵抗や反発は激しく、毎日20時に人事・総務部の社員が各フロアの電気を消して回ると、「仕事中だよ!」「対応が遅れたら、人事が責任をとるのか!」と怒鳴られた。
それでも、粘り強く20時前の帰宅を促し続け、残業時間の減少、業績の向上に伴い、徐々に社内の風土、社員一人ひとりの意識が変わっていった。
導入から10年が経過。多くの社員から「これまで導入された制度の中で、最も優れた制度」と評価されるまでとなった。
その間、多くの企業からの朝型勤務を「学びたい」「見学したい」という要望すべてに対応した。政府からも注目され、2014年6月には政府の「日本再興戦略」の中に取り入れられ閣議決定された他、2015年には政府の推奨により、経団連が各企業に通達。政府も「ゆう活」という名称で取組みを開始するなど、日本社会の中に1つの大きなうねりを作るまでに至った。
経営陣の覚悟と人事の汗が成功の鍵
謂わば「手押し車」
朝型勤務に限った事ではないが、当社の施策は現場の課題を解決するために実施されている。朝型勤務は東日本大震災当日の経営トップの危機感が発端となっているが、他の施策も全て同様であり世の中の流行に乗って進めている施策は、皆無と言っていい。この視点で施策が策定されるからこそ、経営陣が徹底的にコミットし最後までやり切る、反発があってもブレることなく覚悟を持って進められるのである。
一方、成否の鍵は現場で施策を推進する人事が汗をかくことが重要であり、当時「朝型勤務を始めます。各部門の上長宜しく」では何も変わらなかったであろう。各フロアで残業中の社員から怒鳴られながらも、諦めることなく数か月間 毎晩フロアを回って電気を消し20時退社を促したことで、文化を変えられたのだと。
政策の効果は即座に表れるものではなく、コツコツと地道に積み重ねることで一気に花が咲く、謂わば「手押し車」と考えている。導入から10年経過した今でも、毎朝無料で提供している軽食メニューについて社員アンケートを取り隔週で品揃えを変えているのも、施策に魂を込め継続することが成功の鍵だと感じているからである。
2023年9月20日
執行役員 人事・総務部長(兼)
グループCEOオフィス 垣見 俊之
朝型勤務制度等、10年以上の継続的な取組みで労働生産性は5倍以上に向上
※2010年度を1とした場合の労働生産性推移(連結純利益÷単体従業員数)
朝型勤務を進化させ、働き方の選択肢をさらに広げた
「朝型フレックスタイム制度」
社員の働きがいなどを把握するために、2021年度にエンゲージメントサーベイを実施。若手・中堅社員、女性社員の多様な価値観への対応がいっそう必要と考え、2022年度、朝型勤務を進化させ「朝型フレックスタイム制度」を導入しています。
朝型勤務の趣旨は継続。20時以降の残業を原則禁止、22時以降を禁止とし、朝5時から8時の早朝勤務を推奨。9時から15時をコアタイムとして設定し、15時での早帰りも可能となりました。業務や私生活、家庭の状況に合わせ、より柔軟な働き方が選べるようになったことが特長です。
この図は横にスクロールしてご覧いただけます。
・7時50分以前に勤務を開始した場合は、インセンティブとして、深夜勤務と同様の割増賃金(25%)を支給
社員の行動変容を促す、
社内に定着させるための様々な取組み
朝8時以前に出勤した社員には、軽食を3品無料配布。Doleやファミリーマート商品などバラエティ豊富なメニュー(約100種類)を用意。
社員が軽食メニューに飽きないための工夫。例えば、ファミリーマートの売れ筋・話題の商品を日替わりで展開。健康経営の観点から、毎月テーマ(例:高血圧等)を設定し、テーマに即した産業医推奨のメニューを提供。