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課題・背景

がん闘病中の社員から届いた一通のメールが、会社を動かした。

課題・背景

伊藤忠商事への感謝の言葉が社長宛に届いた。

現代社会において、日本人の2人に1人がなるとされている、がん。2017年2月、がん闘病中のある社員から社長に一通のメールが送られてきた。内容は、会社からの支援や、忙しくてもお見舞いに訪れ「いつでも戻って来い」と声をかけてくれる仲間たちへの感謝を伝えるもの。
また当時、あるビジネス誌の「社員が幸せな企業ランキング」で、伊藤忠商事が2位に選ばれたことについても触れていた。

“私は会社や仲間に、どれだけ感謝しても感謝しきれません。
私にとって伊藤忠は二番ではなく、日本で一番いい会社です”

メールを読んだ社長は心を強く打たれ、社内のイントラを通じてこのことを社員へ知らせた。そして共に、闘病中の社員を応援しようと伝えた。しかし、残念ながらほどなくしてその社員は、亡くなった。葬儀に参加した社長は涙をこぼし、故人の言葉に恥じぬよう、がんを患う社員への一層の支援、そして伊藤忠商事を真に“日本一いい会社”にすることを決意する。

新聞広告「がんになっても、わたしの居場所はここだ。」

その後、イントラを通じて全社員に発信した。タイトルは「がんに負けるな」。社員をがんにさせない。がんになっても皆で支える。そのミッションのもと、がんと仕事の両立支援が始まった。

Objectives
目的

人は、“自分の居場所はここだ”と思えた時、大きな力を発揮する。

少ない社員数で成果を挙げるために、何よりも重要なのが、社員一人ひとりが健康であること。
日本人の2人に1人がなるとされるがんと仕事の両立支援は、あらゆる企業にとって向き合うべき命題とも言える。また、就労世代においては女性の罹患率が男性よりも約2倍となっている。がんと仕事の両立支援を進めることは、女性の活躍支援においても、重要となっている。

がんになっても、“自分の居場所はここだ”と思えた時、がんとの闘いにおいても、仕事においても力を発揮する。組織全体で“社員は家族”として罹患した社員をサポートすることが組織の団結力を高め、ひいては企業価値の向上にも繋がっていく。

目的
目的
Results
実践と成果

国内外から寄せられた共感の声、チームメンバーも想定外の反響。

2017年当時、民間企業で前例がなかったがんと仕事の両立支援策。推進チームのメンバーはすべてが手探りの状態から、厚生労働省の「両立支援のためのガイドライン」や「がん対策推進基本計画」を読み込んで理解を深め連日議論を重ねた。関係する病院や保険会社とは自分たちで交渉していった。チームの奮闘、社内関係者の協力もあり、プロジェクト開始からわずか4カ月で、がんと仕事の両立支援策のスタートにこぎつけた。

この取組みは、闘病中の社員からの感謝の声をはじめ、全社員からの共感を集めた。さらに、国内外から伊藤忠商事に寄せられた、応援や共感の手紙・メールの数々。この反響が、がんと仕事の両立支援に対する世の中の関心が高いことを物語っている。

がんと仕事の両立支援についての啓蒙動画

健診と検診は違う。
がんと仕事の両立支援施策を構築するにあたって乗り越えたこと

弊社が国立がん研究センター(国がん)と提携し「がんと仕事の両立支援」として職域における「がん健診」を始めようとしたときに、立ちはだかった問題が「健診」と「検診」の違いであった。

「健診」とは個人の健康状態を網羅的に調べる健康診断であり、労働者においては労働安全衛生法(安衛法)で毎年の定期健康診断に必ず含めなければならない検査項目が法定項目として指定されている。 一方「検診」とはある特定の疾患群をターゲットにして調べる検査である。

弊社では社員の利便性や時間的制約などから「がん健診」を安衛法に定める定期健康診断に代わるものとして実施したいと考えていたが、国がんで行っていたものはがんという特定の疾患をターゲットにした「がん検診」であり、安衛法の法定項目に不足する項目があった。すなわち「業務歴の調査」「腹囲」「視力・聴力の検査」「胸部レントゲンの検査」等が不足していたのである。 (注:がん検診では胸部CTを行っており胸部レントゲンは行っていない。厚生労働省に問い合わせてみたが、胸部CTは安衛法の法定項目である胸部レントゲン検査に代わる検査としては認められないとのことであった。今般、胸部レントゲン検査を法定項目から除外することの検討が厚生労働省において開始されたとの報道があり、そうなれば検査が少し簡便となる。)

そこで、国がんの先生方にお願いしてこれらの項目を追加実施してもらう事で定期健康診断として使えるものにしようと考えた。具体的には国がんにおける通常の検診順路に弊社専用のバイパスを設けて、弊社社員はそのバイパス経路に誘導されて安衛法の法定項目を満たす検査等を行うようにしていただいたのである。この方法で「がん検診」が「がん健診」になったというわけである。

国がんの先生方のご協力に深く感謝する次第である。

2023年9月20日
人事・総務部健康管理室 統轄産業医
 杉山卓郎

Outline
施策概要

■ 予防・治療の一貫した支援体制を構築。国立がん研究センターとも提携

予防

予防
がん特別健診で、早期発見率向上
  • 早期発見と研究への貢献
  • 生活習慣病未然防止への意識醸成
  • 定期健康診断での各種がん検診

治療

治療
専門医との即時連携・最先端治療
がん先進医療費(健保対象外)の会社負担

■ 治療しながら働き、活躍できる社内体制・制度の整備

共生

共生
がんと仕事の両立支援体制構築
  • コーディネーター(相談窓口)の設置
  • ガイドブック作成、組織長への啓蒙
共生
将来の不安軽減
  • 大学院卒業までの子女育英資金
  • 伊藤忠グループでの配偶者・子女の就労支援
共生
がんと仕事との両立度合を評価指標に反映
柔軟な勤務・休暇制度の整備
  • 短時間勤務、勤務日選択、在宅勤務
  • 特別休暇 3年間で計18日付与

■ がんと仕事の両立支援体制と対応フロー

これまで活躍していた社員が突然、がんを発症した場合、自分はラインから外れるのではないか、という不安から、会社に直ぐには言えないケースも多いのではないでしょうか。そのようなケースを想定し、直属の組織とは異なる人事・総務部内にあるキャリアカウンセリング室が窓口となり「先ずはここに相談」と社員に呼び掛けています。
会社に伝えた後は、がんと仕事の両立ができる体制を整え、以下のチームで当該社員を支援します。同時に、情報の開示範囲について当該社員との間でしっかり認識の統一を図ります。情報の開示範囲の確認と支援体制は、がんと仕事の両立支援を行う上で、重要なポイントの一つです。

施策概要

施策概要

■ 経営トップも自ら学ぶ、朝活セミナー × 健康経営

経営トップも自ら学ぶ、朝活セミナー × 健康経営

2023年5月、東京大学医学部附属病院放射線科の中川教授を招いて伊藤忠朝活セミナーを開催。今回は、2018年に続き2回目となるセミナーです。
セミナーに先立ち、経営トップが中川教授と面談した際には、2018年の伊藤忠朝活セミナーの後の、教授ご自身のがん発見・治療のご経験が話題となりました。経営トップも、定期健診(予防)の重要性を再認識すると共に、教授を通じて、伊藤忠商事のがんと仕事の両立支援が国の政策にも活かしていただいているお話を伺い、うれしく思いました。

セミナーにも経営トップが参加。また350名強の社員が参加し、多くの社員から非常に有益な機会であったと、高い評価を得ています。

「朝活セミナー」アンケート結果より抜粋

大変分かりやすく、示唆に富むお話だった。がんに対する理解が深まった。

ぜひ社員の必須研修にしていただきたいです。

今回のセミナーは大変ためになりました。実際、親の癌告知や手術、治療の時に知っていたかったと思う内容ばかりでした。

本セミナーに参加したマスコミによる取材にも対応。経営トップ自身の健康法、働き方改革について質問される場面もありました。
メディアより「働き方改革・健康経営を先んじて進めている伊藤忠が他企業にアドバイスできることは何か」「これからの健康経営の課題は何か」について質問をいただき、岡藤会長CEOは「働き方改革は楽をすることではない。成果を求められることであり、改革によって達成した成果は、社員や株主に還元するという姿勢を貫くことが大切」「フェムテックも活用しながら、引き続き女性活躍支援を行いたい」とお伝えしました。

経営トップも自ら学ぶ、朝活セミナー× 健康経営

「朝活セミナー」アンケート結果より抜粋

大変分かりやすく、示唆に富むお話だった。がんに対する理解が深まった。

ぜひ社員の必須研修にしていただきたいです。

今回のセミナーは大変ためになりました。実際、親の癌告知や手術、治療の時に知っていたかったと思う内容ばかりでした。

子女育英金イメージ

キャリアカウンセリング室とは

  • 人事・総務部の一組織であるキャリアカウンセリング室に、国家資格を取得した専任の社員が複数名常駐。人事・総務部フロアと別に設置。面談は勤務時間扱いであり、いつでも相談可能。
  • 節目研修と必須キャリア面談を組み合わせた「セルフ・キャリアドック」型の仕組みを構築。
  • 相談内容は、キャリア、職場の人間関係や育児・介護・傷病などワークライフバランスまで様々。
  • 守秘義務の遵守を大前提としており、組織フィードバックをする際は必ず本人の了承を取得。

  • キャリアカウンセリング室

    キャリアカウンセリングとは

    個人が自分自身の人生を考えるときに仕事を切り離して考えることはできません。その個人にとって望ましいキャリア開発を支援するプロセスのことです。二つの側面からカウンセリングの意義付け、支援を行います。

  • 働き手が主体的にキャリアを考える支援
  • 人生で遭遇する様々な経験や出来事を積極的に受け止め、対処・解決していく支援

健康経営取組みに関する
各種数値の推移

項目 2020年度 2021年度 2022年度
朝型勤務比率(%)※1 57 54 54
月平均残業時間(時間/月) 25.2 25.2 23.0
年次有給休暇取得率(%) 52.6 58.8 62.2
健康経営投資実績(百万円)※2 507 540 570
がん特別検診対象者受診率(%) 96.2 94.9 93.1
精密検査受診率(%) 100 100 100
ストレスチェック受検率(%) 96.1 98.5 99.3
メンタルヘルス休職者数(名) 26 29 26
アブセンティーズム日数(日)※3 - 1.6 2.0
プレゼンティーズム損失割合(%)※4 - 32.5 20.7
適正体重維持者率(%)※5 62.9 62.7 61.8
喫煙率(%) 16.3 16.9 16.2
運動習慣者比率(%)※6 31.4 33.8 32.3
睡眠により十分な休養が取れている人の割合(%) 73.3 74 69.3
飲酒習慣率(%)※7 23.9 19.4 20.8
血圧リスク者率(%)※8 0.5 0.1 0.2
血糖リスクと考えられる人の割合(%)※9 0.4 0.2 0.1
糖尿病管理不足者率(%)※10 0.4 0.5 0.4
特定保健指導実施率(%) 45.5 47.4 51.5
ウォーキングイベント参加者数(名) - - 666

※1 朝8時以前の入館実績に基づき算出しています。
※2 従業員の健康管理に従事している人員に係る人件費及び諸費用が含まれています。
※3 同年度に2週間以上、傷病により休暇(休職・欠勤含む)を取得した日数の全従業員平均
※4 ストレスチェック時のWHO-HPQ絶対的プレゼンティーズム損失を基に算出
※5 BMIが18.5~25未満の従業員割合
※6 1週間に2回、1回当たり30分以上の運動を実施している従業員の割合
※7 頻度が時々または毎日かつ飲酒日の1日当たりの飲酒量が清酒換算で2合以上の従業員の割合
※8 収縮期血圧 180 mmHg以上または拡張期血圧 110 mmHg以上の従業員の割合
※9 空腹時血糖が200mg/dl以上の従業員の割合
※10 HbA1cが8.0%以上の従業員の割合

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Others
健康経営全体像

当社は、「健康力向上」こそが、企業行動指針である「ひとりの商人、無数の使命」を果たす人材力強化の礎であるという考えに基づき、「伊藤忠健康憲章」の制定、がんと仕事の両立支援等をはじめとした健康・安全に対する万全な体制を構築しております。また、労働安全衛生に関する情報提供など、当社産業医によるグループ会社支援を行っております。今後も、従業員一人ひとりの健康を第一に、従業員が安心して働くことができる職場環境の実現をグループ全体で目指してまいります。

① 経営理念・方針

健康力向上を人材力強化の礎に据え「伊藤忠健康憲章」制定

当社は、「健康力向上」こそが、企業行動指針である「ひとりの商人、無数の使命」を果たす人材力強化の礎であるという考えに基づき、2016年6月「伊藤忠健康憲章」を制定しました。

健康経営その他の施策

② 推進体制

伊藤忠商事にとって、従業員は財産であり、従業員がその能力を最大限に発揮するためにも従業員の職場での安全・健康を確保することは、会社の重要な責任の一つです。日本及び世界の様々な地域で活躍する従業員とその家族が安全かつ健康で、従業員が安心して働けるよう事件・事故・災害等の緊急事態のみならず、健康管理に対する万全な体制を社長COOの下、構築しています。
また、伊藤忠商事では、企業理念である「三方よし」の実現に向け、従業員の約80%(「労働組合」参照)が所属している伊藤忠商事労働組合と労働安全衛生の取組み内容と実施状況についても協議しています。労働組合は従業員からの職場の安全衛生に関する意見・指摘も把握しており、それらの内容も含めて、労使間で活発な議論を重ねることによって、お互いに現状の課題を認識・共有し、改善策を検討・実施していくことができる健全な関係を構築しています。
健康・安全基準に関する研修を受講した従業員数はこちらをご覧ください。

推進体制図

推進体制図

③ 制度・施策実行 / ④ 評価・改善

健康経営施策の全体像を「健康経営戦略マップ」で表示

2021年、健康経営に関する各施策の位置付けや効果を可視化した健康経営戦略マップを作成。永続的な企業価値向上を実現すべく、下記の取組を中心に健康経営を推進します。

健康経営その他の施策

多様な健康経営施策

健康関連データ

健康経営取組みに関する各種数値の推移のデータ一覧です。

健康経営取組みに関する各種数値の推移

社外からの評価

■ 2016年度から7年連続:「健康経営優良法人ホワイト500」選定
■ 2023年2月:厚生労働省のがん対策推進企業アクション「検診部門賞」受賞

社外からの評価

⑤ 法令遵守・リスクマネジメント

国際的なガイドライン/認証を活用した労働安全衛生の運用

■ EHSガイドラインを活用した運用
金属カンパニーでは、資源の安定供給に繋がる持続可能な鉱山開発に取組むため、金属・石炭・ウラン等の鉱山事業を対象とし、EHS(環境・衛生・労働安全)ガイドラインを定め、運用しています。

■ ISO45001認証を取得しているグループ会社(6社)
グループ企業においても、労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格であるISO45001に沿った管理体制を構築・運用することで、労働安全衛生を維持しています。

サプライチェーンの労働安全衛生

2013年度に「サプライチェーン・サステナビリティ行動指針」を定め、サプライヤーに対して伊藤忠商事の考え方を伝え、理解と実践を期待し、働きかけています。

事業投融資案件の労働安全衛生リスク評価

投融資案件の審査に際し、経済的側面だけでなく、ESG(環境、社会、ガバナンス)の観点を重要視し、新規投資案件においては、「投資等に関わるESGチェックリスト」を用いて、労働慣行(労働条件、労働安全衛生、ステークホルダーとの対話)等を総合的に審議・検討しています。