CAO MESSAGE

「マーケットイン」の発想で人と組織を磨き、
伊藤忠グループの持続的な企業価値向上を支えます
代表取締役 上席執行役員 CAO*
西口 知邦
* Chief Administrative Officer「マーケットイン」を体現するCAOに
今年度CAOに就任した西口です。直近5年間は秘書部長としてマネジメントと密に連携し、経営の状況やトップマネジメントの考えを肌で感じてきました。中でも、経営哲学の一つである「マーケットイン」は岡藤会長CEOの近くで仕事をすることにより、自身に深く根付いております。また小売を手掛ける事業会社への出向経験もあり、顧客の声をよく聞き、変化に柔軟に対応する「マーケットイン」を「現場」で学んできました。CAOが管轄する広報部、人事・総務部、法務部、サステナビリティ推進部のメンバーと共に、社内外問わず相手に寄り添う「マーケットイン」の発想で、会社の「ギア・チェンジ」を支える経営基盤を、非財務的な観点から磨き上げていきたいと考えています。
変化に対応する人と組織
人材戦略については、将来の事業機会やあらゆる環境変化を想定し、長期的な視点で柔軟に変化させていく必要があります。先般発生したホルムズ海峡の閉鎖等、想定外の事象が発生した場合でも、我々「商人」は各国の最前線で戦っていく必要があります。そのため、そのような事態になる前に現場の変化を掴むことが求められます。「グローバル」という観点で、駐在員を派遣すべき国や地域、習得すべき言語について常に見直す必要があります。グローバル人材の育成とは、長期的な目線で現地人脈を築き、文化や制度を理解し、地場で事業を動かせる人材を育てることです。AI時代であっても、現場で信頼を積み重ね、相手の懐に入り込み、事業を前に進めることは人にしかできません。また、海外拠点では限られた人材で仕事を行うため、本社のタテ型組織の考え方を超えた活躍が求められるかもしれません。その場合、グローバルな幅広い視点で伊藤忠の知見や機能を最大限に発揮する機会になると考えます。
女性活躍推進も変化に対応できる組織作りという観点から重要です。女性総合職の採用・育成が本格化して以降、将来の経営を担う人材層は着実に厚みを増してきましたが、経営層における多様性を一層高めていくためには、計画的な育成と登用の後押しが必要です。そこで一定数の女性執行役員を登用するアファーマティブ・アクションを導入し、外部登用に過度に依存せず、社内人材の育成を主軸に経営層の多様性を高めています。これまでに計12名を内部登用しており、その役割は営業部門から職能部門へ、国内業務から海外駐在へと、従来の延長線上に留まらない経験を積みながら、各人が成果を上げています。これは本人の成長を促すだけでなく、次世代にとっても具体的なモデルとなり、次の挑戦を後押しする好循環に繋がっています。社内人材を育てながら経営層の多様性を高めていくことは、「伊藤忠らしい」人的資本強化の在り方であり、中長期的な企業価値向上に資するものと考えています。
AI活用についても業務の在り方に大きな変化をもたらします。定型業務、集計、契約書チェック等、AIで効率化すべき領域は確実にあります。一方で、経営判断の説明責任や人事異動の判断等をAIに任せきりにするべきではないでしょう。経営の主体はあくまで人であり、何をAIに任せ、何を人が担うか、幅広い業界に関わる当社の中でその線引きは各組織で異なるものと考えています。AI活用によって、我々が重視してきた労働生産性の更なる向上を目指すと同時に、当社ならではの経営判断の質と矜持を維持していきたいと考えています。
グループ総合力の発揮で利益成長を実現
企業価値向上には、グループ総合力の強化が不可欠です。2025年度連結純利益の87%は事業会社群によるものです。グループ全体の成長力の引き上げが今後の伊藤忠グループの企業価値向上の鍵を握ります。目指しているのは、伊藤忠商事と事業会社の間で、人材、知見、価値観、経営理念が循環する状態を作ることです。それには伊藤忠商事から事業会社へ人材を送り込むだけでは不十分です。優秀な事業会社人材を本社で受け入れ、本社での業務を通じて伊藤忠の経営哲学や全社最適の視点を身に付けてもらい、事業会社へ持ち帰ることにも大きな意義があります。この循環が進めば、単なる理念の共有にとどまらず、グループ全体の経営基盤が強化され、各社の成長がグループ全体の利益成長へと繋がります。
人材確保の面でも、グループ総合力は大きな意味を持ちます。新卒採用が本格化する時期に、ファミマTV(デジタルサイネージ)を通じて伊藤忠グループ24社合同で広告を流したところ、10代・20代を中心とした若年層からの関心が高く、各グループ会社にとっても効果的な成果を得ることができました。また、各社の人事担当者からも、各社単独で説明会を行うより、「伊藤忠グループ」として開催する方が、優秀な人材をより多く惹きつけることができるとの声が寄せられています。これも、人材戦略におけるグループ全体での取組みの一例です。
このような取組みを通じて伊藤忠グループの結束力を強固にし、更なる成長へと繋げてまいります。
本業を通じたサステナビリティへの取組み
サステナビリティをめぐっては、市場の評価軸が揺れ動く局面もあります。しかし長期的に見れば、環境、人権、地域社会、供給網の安定といったテーマが、事業の継続性を左右することに変わりはありません。重要なのは、サステナビリティを本業と切り離された追加コストとして捉えるのではなく、実業の中で競争力へと転換することです。また、伊藤忠らしいサステナビリティの取組みを社会のあらゆるステークホルダーに分かりやすくお伝えすることも重要です。特に生活消費分野に強みを持つからこそ、他社よりも分かりやすく、社会に伝わるサステナビリティを実装できていると考えています。サステナビリティにおいても「マーケットイン」の発想が重要であり、社会や生活者にとって理解しやすい価値へと転換できることが当社の競争優位性の一つと捉えています。
例えばDoleでの「もったいないバナナ」の取組みは、品質には問題がないにもかかわらず、表皮の傷やサイズ規格等を理由に従来は廃棄されていたバナナを販売することで、食品ロスを削減するもので、社会課題に対し、実業を通じて解決策を示した好例と言えます。また、セルビア共和国で展開する廃棄物処理・発電事業も同様で、これは何十年にも亘りプラントビジネスを手掛け、培った水処理事業や発電事業への知見の中から生まれた事業です。廃棄物問題を抱えるセルビアにおいて、廃棄物処理と発電事業を組み合わせることで、GHG削減や周辺河川の環境改善に貢献すると同時に、新たな収益機会を獲得しています。このように、グループには、本業を通じてサステナビリティを推進し、環境・社会価値と経済価値の両立に繋げている実例が数多くあります。それらを分かりやすくご説明する機会を増やしていきたいと考えています。
サステナブルな事業は突如として立ち上がるわけではありません。長年の事業の積み重ねの中で、現場が感じた社会課題に向き合い、その取組みを進化させていくからこそ、持続性のある事業基盤となります。Doleや廃棄物処理発電の例の通り、本業を掘り下げ、社会課題への対応を取り込んでいくことで、サステナビリティは競争力へと転化させていきます。伊藤忠らしいサステナビリティとは、そのように実業起点で社会価値と経済価値を両立させることだと考えています。
伊藤忠グループ一丸となって「ギア・チェンジ」へ
今年に入り、従業員持株会の加入率が100%となりました。これはすべての社員が従業員であると同時に株主でもあり、企業価値向上を自分事として捉える基盤ができていることを示しています。更に、持株会保有額の分布を見てみると、2,000万円以上の比率が3割を超え、これは同業種や同規模の時価総額の会社と比べても非常に高い状況であり、会社の成長を社員もしっかりと享受していることが数値に表れています。少数精鋭の組織であるからこそ、一人ひとりが経営目線と株主目線を持ち、同じ方向を向いて力を発揮することが重要です。CAOとして、「マーケットイン」の視点を大切に、社員一人ひとりの成果と、一体感ある組織基盤を整え、「ギア・チェンジ」を持続的な企業価値向上に繋げていきます。