特集2:「既存事業の磨き」と「新たな布石」

「ハンズオン経営」による北米建材事業の磨きと更なる収益基盤の拡大

当社が実践する「ハンズオン経営」では、投資先の主要ポジションや現場に経営者人材や営業・職能人材を派遣し、一つひとつの事業に丁寧に「磨き」をかけます。海外でも、当社の社員が「ハンズオン経営」で現地に深く入り込み、各国の文化・商慣習を理解した上で、現地社員と共に事業を拡大させることで、持続的な企業価値向上に繋げます。

北米建材事業のこれまで(2010年代前半)

金網フェンスの製造・卸に取組むMASTER-HALCO社(MH社)は、自社の製造設備と北米全土をカバーする支店・流通網等を持ち、大手ホームセンター等の優良顧客を抱えているにもかかわらず、リーマンショック以降の赤字体質から脱却できない状態が継続していました。同事業からの撤退も検討しましたが、引続き高い成長が見込まれた北米市場への期待値が高かったこと等から、北米に精通した人材を派遣し、当社の強みである「ハンズオン経営」を「てこ」に同社の立て直しに着手しました。

北米建材事業の変遷

「ハンズオン経営」による事業の磨き(2010年代後半以降)

MH社の経営改革

まずは、赤字からの脱却が急務であったため、当社は「削る、防ぐ」の実践に長けた人材を、経営者から現場担当に至るまで幅広いポジションに派遣しました。それまで恒常的な赤字の要因となっていた不採算工場や支店の閉鎖等に加え、約20年間改修されていなかった基幹システム(ERP)を刷新し、精度の高い需要予測に基づく高度な経営管理体制を構築しました。これらの取組みが奏功し、2016年度に黒字化を達成しましたが、より強固な収益基盤を構築すべく、その後も更なる改革を推進しました。具体的には、当社が蓄積してきた事業会社経営やトレード等のノウハウを活かし、より精緻な値付け戦略、厳密な在庫管理の仕組み、売上高ではなく利益に連動させた報酬制度等を導入しました。それらの施策等に基づき、北米の商慣習をより深く理解する現地社員を中心に販売・営業活動を行った結果、着実に利益率が向上し、強固な収益基盤を構築しました。



既存ビジネスの「面」の拡大

更なる利益伸長と顧客サービスの拡充を図るため、MH社を中心にシナジーが見込まれる複数の事業投資を実行しました。買収候補先は、外部からの紹介ではなく、顧客・競合・サプライヤー等、現場のオペレーションから得られた情報を最大限に活用することで、能動的に選定しました。その結果、投資の「高値掴み」を避けると共に、MH社の経営改革で得たノウハウを活用して、買収先の業績の改善を図り、シナジーを早期に実現しました。

北米建材事業は、複数の戦略的な買収を重ねると共に、「ハンズオン経営」を徹底し現場に入り込むことで、市場動向や消費者ニーズをいち早く掴みました。そして、そこから得た情報を事業会社間で共有し、各社の経営に迅速に反映する「マーケットイン」の発想に立脚した事業変革を遂げ、商流全体を通してイニシアチブを発揮できる事業基盤を確立しました。

米国最大の木製フェンス製造会社「Alta Forest Products社(ALTA社)」の買収

2017年度、当社と伊藤忠インターナショナル会社は、木製フェンス製造会社のALTA社を買収しました。MH社の主力商品は、商業施設向けの金網フェンスでしたが、人口増加に伴い底堅い成長が見込まれる住宅用フェンス市場に着目し、富裕層から高い人気を誇り、希少価値の高い高級木材(Western Red Cedar製)住宅用フェンスの圧倒的な生産シェアを占めるALTA社を買収することで、新たな収益の柱を構築に成功しました。また、ALTA社の買収後、データ経営に基づく収益率の改善に加え、MH社の持つマーケット情報を活かした商品開発と商品のブランド化を進めた結果、重要顧客である大手ホームセンター等との関係性が更に強化され、収益基盤を拡大しました。

米国フェンス製造・卸会社「Jamieson Manufacturing社(Jamieson社)」の買収

2019年度、MH社は、同業であるJamieson社を買収し、販路拡大や新たな客先の開拓を行うと共に、2020年度には販売戦略を融合させるため、Jamieson社をMH社に統合し、収益基盤を拡大しました。また、顧客網の拡大に伴い、大手ホームセンター等を介した消費者接点が増えたことで、消費者ニーズを的確に捉えた製品開発の強化にも繋がりました。

米国金網フェンス用パイプ製造会社「US Premier Tube Mills社(USPTM社)」の買収

2020年度、MH社は、金網フェンス用パイプの仕入先であったUSPTM社を買収しました。高齢を理由に事業譲渡を検討していたUSPTM社の当時のオーナーは、Jamieson社を買収して金網フェンス業界で確固たる地位を確立していたMH社に直接売却を打診してきました。USPTM社の買収により、金網フェンスの主要部品の内製化が可能となり、サプライチェーンを拡大しました。

新たな付加価値の創出に向けた「布石」

2022年4月にIBP社を設立し、傘下の事業会社が「稼ぐ」ことに注力すべく、経理、人事、IT等の管理機能やERP等のインフラ機能を集約し、経営基盤を一元化しました。更に、事業会社の現場から得られる情報もIBP社に集約することで、経営判断やM&Aの意思決定等を適時に行える体制も構築しました。

今後は、既存のフェンス事業とのシナジーが期待できるデッキ等、屋外の住宅関連事業への投資に加え、住宅用構造材事業(CIPA Lumber社、Pacific Woodtech社)の事業パートナーである大建工業(株)(2023年8月、当社は同社に対するTOB(株式公開買付)を公表)の商品開発力及び工場運営ノウハウと、当社の顧客・流通ネットワーク及び事業経営ノウハウを組み合わせることで、内装材事業等への進出も視野に入れており、更なる取扱商品・バリューチェーンの拡充と収益基盤の強化を推進する方針です。

同時に、事業拡大と共に必要となる「ハンズオン経営」を担う国際感覚を持った経営者の育成にも注力しています。北米建材事業では、若手社員を現場に派遣し、業界慣行や事業の本質を学び、現場での経験を積んだ上で、事業会社のマネジメントに登用するといった計画的な人材育成を行ってきました。今後は、現地社員についても当社ならではの「ハンズオン経営」を担える人材として育成する等、最適な形を模索し、北米建材事業の収益基盤を支える強固な経営体制を構築していきます。