特集1:企業価値向上に繋がる人材戦略

働きがいのある職場環境の整備

当社は、人材戦略を重要な経営戦略の一つとして明確に打ち出し、仕事に求められる「厳しさ」の中にも多くの「働きがい」を見出す「厳しくとも働きがいのある会社」の実現を経営トップがコミットしています。

2010年から始まった当社独自の一連の「働き方改革」施策は、社会の高い関心を集めており、社会からのご要望やご期待等に応えるべく、その内容を詳細に開示しており、当社の企業理念「三方よし」で掲げる「世間よし」に繋げています。

現場主義の徹底を図りつつ、全社員が能力を最大限に発揮できる「働きがいのある職場環境の整備」に注力する当社の人材戦略は、社員のモチベーションや労働生産性の向上をもたらすだけでなく、社会からの評価にも繋がり、優秀な人材の確保を可能とする好循環を生み出しています。

当社の単体従業員数は、他の総合商社と比べて最も少ない人数であり、この少数精鋭体制を今後も堅持していく方針です。少ない単体従業員数でより多くの成果を出すために、企業理念「三方よし」に共感する優秀な人材を確保すべく、採用活動に注力しています。

近年、就職人気企業ランキングにおいて軒並みトップを獲得しており、学生から「自身の人生を託すに値するサステナブルな企業」と評価されている証と考えています。

当社独自の「働き方改革」における最初の施策は、2010年1月の企業所内託児所「I-Kids」の開設でした。当時、認可保育園不足による待機児童の増加等が社会問題となっており、育児休業からの計画的な復帰等、出産後も働き続ける意欲を持つ社員を支援することを目的として、東京本社の隣に開設することを決定しました。

その後、2010年4月に岡藤社長(当時)が就任し、「働き方改革」が本格化しました。

2011年の東日本大震災を契機に、お客様に寄り添う現場主義を徹底した働き方へ回帰すべく、フレックスタイム制度を廃止し、2013年度より「朝型勤務制度」を導入しました。20時以降の残業を原則禁止とし、残業する場合には、翌朝の5時から8時の早朝勤務を推奨、早朝に出勤することで、お客様との商談の準備等を行う時間を確保し、効率的に働くことを目的としたものです。朝8時前に始業した社員には、インセンティブとして割増賃金の支給や軽食の無料配布をすることで、行動変容を促しました。その後、約10年の歳月をかけ定着した朝型勤務は、社員の時間に対する意識の変化のみならず、子育て、介護、傷病等、勤務時間に制約のある社員の活躍を後押しすると共に、家族との時間や自己啓発の時間の創出等、社員の働きがい向上にも寄与しています。

昨今、出生率の低下が日本全体の重要課題となる中、当社は朝型勤務導入以降、女性社員の出生率が上昇しており、2021年度は全国1.30*や東京都1.08*に対し、1.97となりました。これは、朝型勤務をはじめとした一連の「働き方改革」が奏功した結果と捉えています。

引続き、社員の多様な価値観に対応した「働き方の進化」を通じ、更なる労働生産性の向上を追求していきます。


* 厚生労働省の人口動態統計における2021年の期間合計特殊出生率

当社は、健康力向上こそが、企業行動指針である「ひとりの商人、無数の使命」を果たす人材力強化の礎であると考え、「伊藤忠健康憲章」の制定、「がんと仕事の両立支援」等の健康・安全に関する多くの施策を推進しています。2017年度に導入した「がんと仕事の両立支援」施策では、国立がん研究センターとの提携によるがん特別検診の定期的な実施、万が一の場合に残された子女の大学院卒業までの教育費補助、子女・配偶者の当社グループにおける就労支援等により、社員が安心して働くことのできる環境づくりに取組んでいます。

また、就労年齢におけるがんの罹患率は女性の方が高いことから、「がんと仕事の両立支援」を進めることは、女性活躍推進にも寄与すると考えています。女性が長きに亘り活躍できる職場環境整備のため、当社では通常35歳以上を対象としている子宮頸がん検診を、34歳以下の女性社員にも促進するため、2020年度より、検診代を補助しています。2022年度には、女性特有の健康に関する相談や仕事との両立に対する不安等を外部の当社担当助産師に匿名で相談できる窓口を設置しました。

これらの地道な取組みが評価され、2022年度の厚生労働省のがん対策推進企業アクションにおける「検診部門賞」をはじめ、「健康経営優良法人ホワイト500」に2016年度から7年連続で選定される等、社会からも高い評価を得ています。今後も、社員一人ひとりの健康を第一に、社員が安心して働くことができる職場環境を実現していきます。

女性活躍推進

女性活躍推進委員会での議論の様子

2021年10月、女性活躍推進を一層加速させるため、村木厚子社外取締役*(当時)を委員長としてメンバーの半数が社外役員からなる「女性活躍推進委員会」を取締役会の任意諮問委員会として設置しました。これまで当社が実施してきた諸施策の検証に加え、社員や現場の意見に耳を傾けると共に、「役職登用に向けた育成加速」、「柔軟な働き方への進化」という取組方針に対する今後の方向性・対応策について議論を重ねています。

今後も、女性社員個々の事情をきめ細かく把握した上で、「現場との協議、女性活躍推進委員会での議論、取締役会への報告」という一連のサイクルを継続し、女性社員の活躍を推進していきます。

* 当社の元社外取締役である村木厚子氏には、幅広い経験・知見を当社の経営に活かすべく、Advisory Boardのメンバーとして、当社経営に関する助言をいただいています。

男女間賃金格差

当社の基幹的職務を担う総合職の女性社員の8割弱は、20~30代の社員となっています。当社の人事制度上、同一の職務・職責における男女間の賃金格差はありませんが、主に管理職層における女性比率の低さが、男女間賃金格差の主要因となっています。

当社では、2000年代初めに女性総合職採用数の数値目標を設け、一定の人数を採用しましたが、現場の受入環境が整っておらず、離職に繋がるケースが発生しました。これを受けて、長きに亘り女性総合職が活躍するには現場に根差した職場環境の整備が必要と考え、2010年から一連の働き方改革を進めています。現在は、採用数を拡大した2000年代半ば以降に入社した女性総合職がキャリアを積み、着実に育成が進んでいます。また、2023年4月には、海外現地法人社長が誕生する等、役職者への登用も進んでいます。

当社は、社員一人ひとりの主体的な学びやチャレンジングな経験の機会を提供しており、多様な能力・適性に応じた人材育成、キャリア形成支援をグループ全体で推進しています。当社では、入社8年目までの海外駐在経験やグループ会社への出向等、本社の枠を超えた多様な経験の場を計画的に提供しています。更に、1999年度より、育成費用を持続的な企業価値向上のための人的資本投資と位置付け、毎年約10億円を投じると共に、全社で定期的にレビューし、より効果的な人材育成施策に繋げています。また、キャリア形成の一助として、約9,500講座の中から、場所や時間の制約を受けることなく自由に受講できる選択型のオンライン研修プログラムを導入しています。本プログラムは海外にも提供しており、海外駐在員のみならず、毎年約1,000名の海外現地法人・事務所社員も活用しています。他にも、所属組織の垣根を越えた異動が実現できるチャレンジ・キャリア制度(社内公募制度)の拡充や組織横断協業プラットフォーム「バーチャルオフィス」(社内兼業制度)の導入にも取組んでおり、社員の主体的なキャリア形成を支援しています。(→「バーチャルオフィス」によるフェムテック取組強化について)

バーチャルオフィス

組織横断案件の推進、新規事業創出を加速させるための組織横断協業プラットフォーム。

当社は、会社業績連動比率の高い給与体系を導入しており、着実な業績拡大に伴い、2022年度における当社の平均年収は、1,730万円と日本トップクラスの水準になっています。2024年度より、更なる社員モチベーション・採用競争力向上のため、成果に応じた評価・報酬のメリハリを強化する人事制度改訂を行う予定です。

また、2013年度より、定量面・定性面において顕著な貢献を行った社員を表彰する「優秀社員表彰制度」を導入しています。2020年度には、「マーケットイン」の発想に基づく事業やSDGsへの取組み等を推進し、著しい成果を上げたチーム等を表彰する「無数の使命」表彰も導入しました。その他にも、優れた経営手腕を発揮した当社グループ会社社長を表彰する「優秀CEOクラブ」や当社グループの企業価値向上に貢献した事業会社に対する「事業会社表彰制度」等、当社グループ社員の働きがい向上にも繋がる制度を導入しています。

社員の経営参画意識を高めるため、従業員持株会を通じた自社株の保有に奨励金を支給しています。2019年度からは、従業員持株会を活用した仕組みとして、一定水準を上回る業績を上げた場合に特別奨励金を支給し、相当分の株式を付与する「株式報奨制度」を導入しました。これらの取組みにより、従業員持株会の加入率はほぼ100%に達しています。これは、日本企業の中でも類を見ない高い加入率となっています。社員の資産形成を後押ししつつ、当社業績と社員の個人資産が連動し、社員が株価の変動や経営状況に高い関心を持つことで、今後も、社員と会社が一体となって企業価値向上に取組んでいきます。

人材戦略推進に向けたPDCAサイクル

当社は、会社・組織・制度等に対する社員の声を把握し、今後の人事施策等に活かすべく、定期的にエンゲージメントサーベイを実施しています。エンゲージメントサーベイの結果も加味した上で、人材戦略のレビューを行うと共に、課題等への対応方針・施策を経営会議にて決定しています。それ以外の年度については、主要な質問のみに厳選した簡易版のサーベイを実施し、施策に対する進捗を迅速かつ正確に把握すると共に、把握した課題等を経営会議に報告し、新しい施策や改善策を決定しています。このように、毎年課題を把握し、改善を行う「人材戦略推進に向けたPDCAサイクル」を回しています。

2021年度に実施したエンゲージメントサーベイでは、引続き肯定的回答率は高水準となった一方で、2018年度との比較で、働きがい(エンゲージメント)の項目で数値の低下が見られました。要因を分析したところ、特に若手・女性社員が抱く多様な価値観に対応する必要性を認識したため、2022年度より、「働き方改革第2ステージ」として、「朝型勤務制度」を進化させ、「朝型フレックスタイム制度」、「在宅勤務制度」(全社員を対象)を導入しました。当社は、若手・中堅社員と女性社員の活躍支援を課題として認識しており、ライフイベントを考慮したキャリア継続支援等、様々な取組みを継続していきます。これらの施策を着実に実行することにより、更なる企業価値向上に繋げていきます。

エンゲージメントサーベイの結果

人材戦略における重要指標