CXOインタビュー

写真:なか ひろゆき

着実な成長投資と聖域なき資産入替を通じたポートフォリオ強化、デジタルを起点とした横連携の拡大を通じ、当社の成長を加速させていきます。

代表取締役 執行役員 CXO*
(兼)グループCEOオフィス長

中 宏之

* Chief Transformation Officer

2024年度には多くの「成長投資」が実行されました。投融資協議委員会の委員長として、投資判断で重視したポイントを教えてください。

当社全体として求められるリターンや成長性を踏まえ、成長投資の判断を行っています。

経営方針で掲げた「投資なくして成長なし」の方針の下、2024年度には約7,660億円の投資を実行し、更に機関決定済みで2025年度側で実行した金額を加えると、経営方針公表の際に掲げた1兆円の成長投資を実現することができました。但し、「1兆円」という額ありきの投資実行ではなく、相当数の案件で却下、あるいはスキームの再考等を指示しており、すべての案件を丁寧に精査してきました。経営陣でしっかりと連携しつつ、豊富なパイプラインの中から、将来の企業価値向上に向けて実りある1兆円の投資を積み上げることができたと考えています。

投資判断にあたって特に重視したポイントが2つあります。

1つ目は、その投資案件が「当社全体として求められるリターンや成長に本当に貢献できるのか」という観点です。当社の投資基準は業種別のハードルレートを設定しており、例えば、生活消費分野等で成長率が比較的低い業種や低リスク・低リターンのビジネスであっても、事業リスクに見合ったリターンが期待できるという前提で、利益規模の拡大を主目的とした投資を実行することも可能です。但し、長期の経営方針において、「高成長・高効率の経営を継続すること」を標榜する上では、短期的な利益貢献に資する案件だけでなく、中長期的に当社ビジネスの裾野を拡げ、当社全体の成長率向上に繋がる投資も重要であり、成長投資の選別について更なる高みを目指すべき局面を迎えていると認識しています。投資の実行にあたっては、投資基準への適合状況を厳しく精査することに加え、当社全体として市場から求められている成長性や効率性、その投資を行うことで得られる当社ビジネスの広がり等、当社への成長期待の醸成に寄与する案件かを重視しています。1兆円の投資による企業価値向上を確固たるものとすべく、現場に対しては積極的な投資検討を促すだけでなく、持続的な成長に向けた各領域での成長戦略について議論を行い、中長期的な成長を視野に入れた案件の組成を指示しています。

2つ目は、2024年度もお話しした投資の「仕立て」の更なる進化です。過去の投資の失敗から得た「4つの教訓」に関しては、社内研修を通じた浸透や現場での意識付けにとどまらず、具体的な契約条件への落とし込み、シナジー創出や影響力発揮の権利・手段の確保を徹底しています。口頭での合意や戦略上の構想のみでは、目論見通りの成果が得られないケースも珍しくありません。M&Aの現場は交渉相手との適度な間合いや意思決定の迅速さも重要ではありますが、甘い交渉での妥協は容認できません。2024年度に実行した大型投資においても、契約条件の見直しや再交渉を指示し、現場で工夫を凝らし粘り強く交渉を重ねた結果、より良い条件で投資を実行できた事例もありました。

2025年度も積極的な成長投資を継続する想定ですが、不透明な経営環境下、これらのポイントの徹底は継続した上で、ポートフォリオ全体のバランス・分散も意識し、持続的な企業価値向上に向けて最適な成長投資を実行していきます。

成長投資の積極化にあたっては、資産入替も加速していくのでしょうか。

不採算案件のみならず、全社の経営資源をより有効に活用するために「聖域なき資産入替」を通じて、より効率的なポートフォリオを構築していきます。

当社はすべての投資案件を年次でレビューし、事業EXIT基準に照らして保有方針を見直しの上、先手先手でEXITを進めているため、不採算案件が多く存在する状況ではありません。但し、投資実行後、次第に当初の戦略的意義や将来の成長期待が薄れ、一定程度の利益貢献はあれど、より効率性なポートフォリオを目指す上で見直すべき案件が存在することも事実です。2025年4月に公表したCPグループとの株式持ち合い解消は「聖域なき資産入替」の一例といえるでしょう。資本提携開始から10年を経て、取引額は提携当初の5倍に拡大する等、様々な領域で関係の構築が進んでおり、双方が株式を保有する資本提携という形に頼る意味合いはないと判断しました。2025年4月に持ち合い解消に伴うキャッシュを全額回収済みであり、当初投資額870億円を除いたこの10年間の生涯キャッシュリターンは約1,200億円と大きな定量貢献を実現したと総括しています。

「業績の向上」に向けた成長投資のパイプラインは豊富にある中、少数精鋭で経営を行う当社では、限られたリソースを有効に活用する必要があります。当社が得意とするハンズオン経営も、すべての投資案件に闇雲にリソースを投入することは意図していません。例えば、100%保有の子会社であっても、投下するリソースに対し、生み出されるリターンが当社として期待される水準に満たない場合は、当社と異なる知見を持ったパートナーを招聘し資本構成を改める等、より柔軟な発想で事業経営を行うことが重要です。より効率的で競争力のある強靭なポートフォリオを構築すべく、成長投資と並行して「聖域なき資産入替」を実行していきます。

「カンパニー間の横連携によるシナジー極大化」に向けた取組みやデジタルを活用した事業変革の状況について教えてください。

デジタルを起点にした横連携の強化を通じて、当社の成長を加速させていきます。

近年、「デジタル活用」を成長ドライバーとして市場での評価が切り上がった企業は多くありますが、当社も情報通信分野の幅広いビジネス基盤と、生活消費分野のビジネスから得られる膨大なデータという2つの強みを有しており、他社と比較してもデジタルを成長に繋げるための土台は非常に高いレベルで構築されていると自負しています。AI活用やDXが劇的なコスト削減や効率化に寄与しているのは勿論のこと、2024年度にはサプライチェーンマネジメントやマーケティング支援において、現場の知見や蓄積されたデータを活用したプラットフォームの構築・活用が本格的に開始されており、「稼ぐ」力を進化させ、成長の加速に繋がる事例が創出されつつあります。総合商社の多岐にわたるビジネスは、各業界に応じた業態や商習慣も多様で、連携は必ずしも容易ではありません。但し、デジタルの力を使ってフックをかけることで、今まで関連のなかった事業を繋げることができ、その繋がりにこそ総合商社として無限の可能性が広がっています。更に、当社グループ内のデジタル活用で得られた知見が、当社のデジタル事業群における実績の積み上げに繋がるという好循環も生み出されています。また、成長投資においてもファミリーマート、㈱WECARSに続き、複数のカンパニーがその知見を結集することで一段上の成長を目指していけるようなプラットフォーム構築に繋がる案件を検討しています。いかなる外部環境下においても、自らの変革を通じて競争力を向上させ、着実な成長を継続していきます。(→持続的な企業価値向上のためのデジタル戦略)[PDF]