社外取締役&CAO座談会

任意諮問委員会で委員長を務める社外取締役のお二人と小林CAOに、「日本一良い会社」を目指す当社の取組みについて語っていただきました。

社外取締役
中森 真紀子

代表取締役 副社長執行役員 CAO*
小林 文彦

* Chief Administrative Officer

社外取締役
石塚 邦雄

伊藤忠商事の社外取締役に求められる役割

小林:コーポレート・ガバナンスの強化は企業経営にとってゴールのない課題です。社外取締役に求められる役割も日々進化していると思います。先日、お二人には投資家やアナリストの皆様とのスモールミーティングに登壇いただきましたが、まずはその印象から教えてください。

石塚:私は、社外取締役の第一の役割は持続的成長の後押しにあると考えています。ミーティングの場でも、女性活躍推進や後継者計画、事業会社経営等、多岐にわたる話題が挙がった通り、私が企業のトップとして経営に携わっていた頃よりも、市場の動向や投資家の皆様のニーズを意識することが求められていると感じました。

中森:投資家やアナリストの方々と直接会話をしてみると、当社経営のどこに関心をお持ちなのか肌で感じることができました。反応も如実に伝わってきます。嬉しい驚きだったのは、投資家やアナリストの方々と我々との間で、当社の良い面や今後の課題についての理解に大きな差がなかったことです。当社が社内外の情報発信を区分せず、首尾一貫してありのままを見せていることを感じられました。

小林:私も、お二人が当社経営に深く入り込んだ上で、社外の立場から意見を述べられていたことが印象的です。「ありのまま」という意味では、社外取締役に対しても、社外・社内という線引きをせずに隠さず情報開示をしていて、接点も非常に多いですし、情報のバイアスがありません。だからこそ、社外取締役の方々も役割にコミットしていただけるし、社外取締役の発信が、社内の取締役からの発信とも齟齬なく受け止められたのではないかと思います。

石塚:取締役会で審議されたとある議案が、社外取締役の意見を踏まえ、最終的に否決されたことがありました。取締役会の議案が否決されるというのは、自分の経営者としての経験も含めて、極めて珍しいことだと思います。社外取締役として忌憚のない意見が言える信頼関係が土壌にあることと、当社の取締役会が健全な議論を行っており、社外取締役の監視・監督機能が有効に働いている証左ではないかと思います。

中森:この案件について実は後日談があります。取締役会があった後、海外事業視察として豪州を訪れたのですが、現場で会った社員が偶然この案件の担当者だったのです。普段、我々社外取締役は取締役会の議案について、書類を読んで説明を聞くことで考えをまとめていくわけですが、現場社員から直接話を聞くと、担当ビジネスに対する意気込みや熱量が会話からひしひしと伝わり、事業への理解がより立体的になりました。そして書類に書かれた事業の裏に、社員の皆さんの存在を強く感じたという意味でも、事業視察は本当に有意義でした。今後の取締役会での議論にも活かされると思います。

小林:事業の見学も大事ですが、現場で働く社員とのコミュニケーションに意味があると言っていただいて嬉しいです。当社は世界中どこに行っても、他商社に比べて少ない人員で現場を回しているケースが多く、そのような環境で働いている生産性の高い一人ひとりの社員こそが当社の企業価値の源泉です。

石塚:現場の社員と話すと、当社にはこんなにも多様な人材がいるのかと気付かされます。人を知ることで、会社のことも事業のこともより深く知ることができますから、持続的成長の後押し、そして監視・監督機能の強化のためにも現場での活動は欠かせません。視察自体もかなりタイトなスケジュールで組まれていて、「稼ぐ、削る、防ぐ」を体感しています。

女性活躍推進も、一滴のしずくが集まって大きな流れになるように、今の施策が当社の文化に染み込み繋がっていくことを期待しています。

社外取締役

中森 真紀子

主に公認会計士としての財務及び会計に関する高度な専門知識と企業経営者としての豊富な経験を持つ。2019年6月に当社取締役就任。内部統制・コンプライアンスやDXの分野において、専門知識・経験を活かした数多くの有益な提言等を行っている。2024年度女性活躍推進委員会委員長及びガバナンス・指名・報酬委員会委員。

女性活躍推進や後継者計画、更なる成長に向けて

小林:お二人は2つの任意諮問委員会の委員長も務めていただいています。委員長を社外取締役にお願いすることは、世の潮流として当然であり、また、風通しの良さ、議論の客観性や実効性を担保したいと考えての判断だったのですが、まずは女性活躍推進委員会の活動について、中森さんはどのように見ておられますか。

中森:女性活躍推進委員会は2021年に発足し、私は2023年度から委員長を務めています。委員会の議論において一番大切に考えていることは、女性も含めた社員全員の労働生産性を高めていくということです。目下の課題は女性役員登用だと認識していますが、人口分布として、役員適齢期である40-50代の女性社員が極めて少ないという現実があり、ここからどのように役員を輩出していくかが鍵になってきます。第一弾の施策として、2024年度に新たに生え抜きの女性執行役員を5名登用したところです。(→女性活躍推進委員会)

小林:この女性役員登用は、これまで重要な役職や幅広い異動等の経験が限られていた女性に対するアファーマティブ・アクションと位置付けています。当社では、元々「厳しくとも働きがいのある会社」を掲げて働き方改革を推進しており、性別を問わず、社員全体の労働生産性を向上させることを主眼としていました。これを推し進めていく中で、各施策が女性の活躍を促すことにも繋がると分かってきたのです。一方で、中森さんのご指摘の通り、女性の役員登用に向けては母集団が非常に少ないという現状がありました。社外から抜擢するという手もありますが、社内での育成プロセスを発展させないと続かないので、何としても社内から抜擢していくべきだという議論がありました。しかも、抜擢するなら1、2名ではなく、影響力もインパクトもある5名を登用しようと。改めて特別な役割を与えるということではなく、役員になれば入ってくる情報は質も量も大きく違ってきますから、その情報を自ら咀嚼することで経営に対する理解や考え方が変わり、成長してくれることを期待しています。(→女性社員の活躍推進)

中森:本人のモチベーションや社内での見られ方も相当変わると思います。朝型勤務等の働き方改革の施策も、始まった当初は「定着しないのでは」という懐疑的な見方が大半だったそうですね。それが10年経って、社内でもすっかり浸透し、労働生産性の向上という面で効果も検証されて、先進的な取組みとして社会から注目されるまでになっています。同じことが女性活躍推進にもいえると思います。時間はかかるでしょうが、今の施策が点ではなく線になる、一滴のしずくが集まって大きな流れになるように、当社の文化に染み込み繋がっていくことを期待しています。それと同時に、会社としてその理想への道のりをどう打ち出していくか、また今の経営のスピード感を落とさずにいかに進めていくか、このあたりは大きな課題だと思います。

小林:石塚さんは、ガバナンス・指名・報酬委員会の委員長を務められています。特に最近は後継者計画について関心が高まっていますが、この点に関しては社内の立場からは少々発言が難しいところです。委員長としてのお考えを、改めてお聞かせいただけますか。

石塚:後継者計画に関する注目度の高さは私も認識しています。ガバナンス・指名・報酬委員会は、諮問委員会として、会長CEOの後継者計画の立案を受けて審議するというスタンスです。現在の当社の経営状況は極めて良好で、この好調な時期に経営体制を変えるというリスクを冒す必要はなく、現状においてCEO交代の必要性はないと考えています。但し、当委員会の社外役員4名は、CEOの後継者に関する諮問を受けた際に、しっかりと議論ができるよう、オフィサー、カンパニープレジデント、事業会社社長との面談等、日頃の活動を通じてCEOの後継者候補となり得る経営人材との交流を進めています。社外取締役と経営人材プールとの距離が近いこと自体がガバナンス・指名・報酬委員会としての準備に繋がっているといえるでしょう。面談を通して、当社には次期経営者候補となるべき優秀な人材が多くいると実感しています。例えば、当社の重要なKPIである黒字会社比率が92%と極めて高い水準にあることも、優秀な経営者人材が多く存在している証左だといえるのではないでしょうか。(→後継者計画)[PDF]

小林:黒字会社比率を経営者人材プールの質と繋げて捉えられているのは石塚さんならではの観点だと思います。グループ経営というのは、当社の今後の課題という意味でも非常に重要です。事業会社の役職者ポジションには、当社の出身者や出向者を数百人という単位で派遣しており、彼らを通じて当社のフィロソフィーを浸透させていくスタイルを取っています。ただ、有力な事業会社では特に、派遣するトップが当社で実績を上げた「大物」であるケースもあり、グループCEOオフィスを設立し、当社CEO自らがコントロールタワーとして全体最適を目指す仕組みを持っています。今後その役割が拡充する余地はあるでしょう。他にもお二人から見て、今後当社が更に成長していくための課題はありますでしょうか。

中森:これからの伊藤忠はグループ経営をいかに磨いていくかが、ますます重要になると思います。そのために特に「攻め」の部分でまだできることがあるのではないかと考えています。取締役に就任した際、当社のリスク管理の徹底度に驚いたことをよく覚えていますが、グループ企業に対する守備面はかなり進んでいます。一方で「攻め」といえる業績面は、グループ内の個々の企業の経営力に委ねられている部分が大きく、まだ目が行き届いていないところや改善できる部分もあるはずです。そこへ本社がリードして経営基盤を底上げすることで、更なる収益拡大の余地が生まれてくるのではないでしょうか。そのためには、これまでも課題としてきた事業部間の横連携の推進、DX等を含めたグループ横断的なシナジーを生み出す仕組みを構築していくことが必要だと思います。

石塚:気候変動や地政学リスク等、世界が10年前には考えられなかった変化を続ける中で、当社のビジネスは今後どうなっていくのかな、と考えることがあります。個々の力が強いことは当社の強みではありますが、商売の在り方や相手も変わっていく中で、今後もずっとカンパニー制の下でビジネスをしていくのか議論が必要になるかもしれません。少なくとも、もっと総合力を発揮すればもっと伸びていくのは間違いないと思います。

社外取締役と経営人材プールとの距離が近いこと自体が後継者計画の準備に繋がっているといえるでしょう。

社外取締役

石塚 邦雄

(株)三越伊勢丹ホールディングス社長・会長、日本経済団体連合会の副会長を歴任、企業経営・小売業界について豊富な知見を持つ。2021年6月に当社取締役就任。2024年度ガバナンス・指名・報酬委員会委員長。

「企業ブランド価値」の向上

小林:2024年4月に公表した経営方針「The Brand-new Deal」では、定量面での成長に加えて、定性面の磨きを通じた「企業ブランド価値の向上」も基本方針として掲げています。これも当社らしいのではないかと思います。(→経営方針)[PDF]

石塚:企業行動指針「ひとりの商人、無数の使命」が表すように、社員一人ひとりがブランドを背負っているのだと思います。ブランドを作り上げることは大変なことで時間がかかるのに、崩れるときは簡単に崩れてしまう。他方、一人ひとりがビジネスをする際には、会社が積み上げてきたブランドが他社との違いを生み出し、力を発揮する。そういった意味で、私の経験からしても、「企業ブランドの向上」という考え方にはとても共感しますし、企業価値の持続性に繋がっていくと思います。

中森:伊藤忠商事のブランドは、今とても輝いていると思います。普段の何気ない会話の中で「伊藤忠」について触れると、「伊藤忠はすごいですね」といった反応が返ってくることも多いです。そういう好意的なリアクションの背景には、これまでの好調な業績への評価があると思いますが、同時に当社のブランディングのユニークさがあるからではないでしょうか。つまり、広い世代の共感を集める今日的な企業イメージと、160年超の歴史に遡る「ひとりの商人、無数の使命」の姿が無理なく融合していて、それが他には真似のできないブランドイメージを形成しているように感じます。企業としての信念を一貫して持ち続けてきたことがカルチャーとしてにじみ出てくる、これがブランドなのかもしれません。

小林:創業以来、不変の価値観として継承し続けている「三方よし」が、当社独自のブランドであり、看板です。当社にはもともと近江商人の麻布の持ち下りを祖業とし、掛け売りで商売をしていた歴史があります。信用がなければ商売ができないわけです。ですから、「三方よし」、つまり信頼・信用を軸とした一貫性ある当社のコーポレート・カルチャーを世間にも浸透させていくことで、企業ブランド価値を高めていきたいと考えています。またその先には、「日本一良い会社」を目指したいという思いがあります。先日、当社の企業所内託児所「I-Kids」に通っていた小学生のお子さんから手紙をいただきました。毎朝、お母さんと一緒にI-Kidsに行って、友達と遊び、また夕方お母さんと一緒に帰るのがとても楽しかった、だからI-Kidsを作ってくれて、働き方改革をしてくれて、ありがとう、と書かれていたのです。大袈裟かもしれませんが、会社の施策が、一つの家庭の幸せに結びついているとしたら、とても嬉しいですよね。社員が幸せな会社を作ることで、「厳しくとも働きがいのある会社」を、そして「日本一良い会社」を目指していきたいと思います。

「三方よし」による「企業ブランド価値」の向上を通じて「日本一良い会社」を目指していきたいと思います。

代表取締役 副社長執行役員 CAO

小林 文彦