CSOインタビュー
グローバルな経営環境の変化を迅速かつ丁寧に見極めながら、特定分野に限定せず強みを発揮できる分野での成長投資を加速し、安定的かつ持続的な利益成長を目指していきます。
代表取締役 執行役員 CSO
瀬戸 憲治
このたびCSOに就任しました瀬戸憲治でございます。入社以来、約40年弱に亘り、現在の金属カンパニーにて鉄鉱石・石炭・非鉄・鉄鋼製品を中心とした金属・資源関連ビジネスに従事してきました。シクリカルで息の長い資源ビジネスです。国際情勢や経済動向をマクロ視点で大きく捉えつつ、現場の情報にもアンテナを張り、常に一手先を読みながらトレードや事業投資に取組んできました。これまでに培った知見を活かし、外部環境の変化を見定め迅速かつ柔軟に対応しながら、着実に成長戦略を策定・遂行していく所存です。
現在の伊藤忠商事を取り巻く経営環境と2024年度の経営計画について教えてください。
外部環境の変化を機敏に捉えながら、既存事業の伸長と新規投資からの利益貢献により、高い成長率を維持していきます。
国際通貨基金(IMF)は2024年4月に同年の世界経済成長率を3.2%に上方修正し、7月の見通しにおいても同水準を維持しています。当社としても、米国経済の底堅さや中国政府の財政支出による経済の下支え等を見込んでいますが、緊張感を増す中東情勢に加え、欧米を中心とした根強いインフレ圧力や長期に亘る金融引締めの影響は懸念材料といえるでしょう。日本国内では、原材料等のコスト高は一服したものの、原油価格上昇や円安の影響もあり、更なる価格上昇も懸念されています。一方、徐々に賃上げ効果も生まれ、消費者の購買意欲は緩やかな回復を見込んでいます。なお、円安は、海外事業収益の上振れが見込めるため、総合商社にとって短期的にはプラス影響があるものの、中長期的には、自給率が低いエネルギー・食料の価格高騰によるコストプッシュ型インフレの要因となり、日本にとってはマイナス面が大きいと考えています。中国に関しては、2024年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)で、2024年の実質GDP成長率の目標を2023年と同水準の+5%前後としましたが、不動産市況の低迷による雇用・所得の不透明感や消費マインドの冷え込み、内需の停滞が懸念されています。中国政府はインフラ投資拡大による景気刺激策を打ち出しており、その経済効果が期待されるところです。(→PEST分析(マクロ環境要因))
このような経営環境下、2024年度計画は、2023年度の連結純利益8,018億円から約10%増益となる過去最高の8,800億円としました。為替水準はドル高・円安の継続を前提とし、資源価格は計画策定時の状況を踏まえた現実的な価格設定としています。一過性損益を除いた基礎収益も過去最高の8,600億円を見込み、既存事業の伸長と新規投資からの利益貢献を組み合わせ、着実に計画を達成していきます。成長投資については、2024年度は1兆円を上限とする投資を計画しており、投資を主軸に高い利益成長を目指すことへの本気度をお示ししました。(→2023年度決算実績及び2024年度経営計画)
成長投資の加速にあたり、注力分野や地域はありますか。
特定分野に限定せず、幅広い地域を視野に、強みを発揮できる優良な成長投資を推進していきます。
分野を特定して投資を集中させるような戦略は取っていません。川上・川中・川下どのセグメントにもそれぞれの強みがあり、強みを活かし「マーケットイン」の発想から付加価値を付けることで成長の余地があると考えています。地域に関しても、当社の強みである国内の生活消費分野だけでなく、北米やアジアを中心とした海外にも成長の芽が多くあります。例えば日立建機(株)への投資のように、投資先は日本企業であっても、投資先と共に新たな海外展開を進めることで日本を上回る海外の高い成長率を取り込むことができます。国内は日本市場への注目の高まりから海外勢含めた競争が激化、海外は円安により投資額が割高となりますが、慎重に案件を見極め、外部環境の様々な潮流を掴み、成長に資する投資を積極的に推進していきます。
クリーンテックビジネスの取組みについて教えてください。
本業を通じて、GHG排出量削減に貢献するビジネスを積み上げていきます。
前中期経営計画の公表時に、Scope1/2/3及びすべての化石燃料事業・権益からのGHG排出量を対象とし、2040年までに「オフセットゼロ」、2050年までに「実質ゼロ」を目指すという目標を開示しました。引続き中長期視点で取組んでいく考えで、GHG排出量の削減と共に、削減貢献量の積み上げを地道に行っていくことが重要と考えています。(→気候変動に関する考え方・取組み)
当社の削減貢献量の積み上げに向けた取組みは、グリーン水素バリューチェーンへの参画やCCUS(CO2回収・有効利用・貯留)への取組み、アンモニア燃料船の開発・保有、風力・太陽光等の再生可能エネルギー事業、蓄電池関連事業等、多岐にわたりますが、何れも当社だけでは完結せず、多くのパートナーと共に取組んでいます。例えば鉄鋼業界では、製造過程で発生するGHG排出量の削減が課題となっていますが、当社が資本参画する鉄鉱石事業からも生産される高品位の鉄鉱石を原料とし、天然ガスあるいは水素を利用する「直接還元法」により大幅な削減が可能です。当社は、こうした顧客ニーズを汲み取り、JFEスチール(株)、UAE鉄鋼最大手Emirates Steel Arkan社と共に低炭素還元鉄のサプライチェーン構築を推進する等、鉄鋼業界の脱炭素化に取組んでいます。更に、水素社会をリードする欧州において、グリーン水素製造・販売事業を展開するデンマークEverfuel社にも大阪ガス(株)の子会社と共に出資し、本格的な水素事業に着手しました。これらは経営方針で示した「利は川下にあり」に通じる取組みであり、今後も当社らしい「マーケットイン」の発想で、社会の要請に応えつつビジネスを拡大していきます。(→「スピード」と「実行力」を伴うクリーンテックビジネス)