CAOインタビュー

常に現場を意識した「有言実行」の諸施策の推進により、企業価値の向上とサステナビリティの強化を目指します。

代表取締役 副社長執行役員 CAO

小林 文彦

Q1.コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻の際、社員の安全をどのように確保しましたか。

A1.現場の社員の安全確保を第一に考え、職域接種、国外退避等の迅速な対応を実施しました。

当社の働き方の大前提には、「現場主義」へのこだわりがあります。コロナ禍においても、当社のお客様の多くは現場の第一線で絶え間なく働いており、スーパーマーケットにはいつ行っても商品が揃い、コンビニエンスストアは営業を続け、宅配も滞りなく届きます。消費者の何気ない日常生活が途切れぬように支えているのは、こうした現場を守る人たちであり、その最前線にビジネスの軸足を置いているのが当社です。但し、「現場主義」と一言で言っても、その現場にいる社員の安全は常に担保されていなくてはなりません。当社では、新型コロナウイルス感染拡大の直後から、社内・グループ会社内に堅固な防疫体制を敷き、勤務体制を24回(2022年7月末時点)にわたり柔軟に変更することで、現場での対応にあたってきました。2021年6月、ワクチンの職域接種が開始された時には、国内最速で接種を進めましたが、これも社員の安全確保を最重視しているためです。 

2022年2月のロシア・ウクライナ問題発生時も、駐在員、現地社員の安全確保を第一に考え、迅速な対応を実施しました。例えば、駐在員の一時退避・帰国に加え、現地社員への緊急支援金の支給、また家族を含めて国外退避する場合には、近隣国の当社事務所スタッフが宿泊施設の手配を行う等、迅速な支援を行いました。

Q2.サステナビリティ説明会(2022年5月)を開催した背景を教えてください。

A2.一連の施策がサステナビリティの強化にも繋がっていることをご理解いただきたかったためです。

サステナビリティ説明会「働き方改革の進化を通じた企業価値の向上」

従来、アナリスト・機関投資家の皆様向けの説明会といえば、決算や経営計画、成長戦略等、財務情報に関する事柄が中心でした。これら財務情報に関する説明の重要性は現在も変わっていませんが、様々な説明会の場で、ここ数年ESGの観点から、GHG排出量の削減やサプライチェーンにおける人権の配慮、ダイバーシティ、女性活躍推進等の非財務情報に関するご意見・ご質問が大幅に増えてきていると実感しています。

それらにお応えすると同時に、「厳しくとも働きがいのある会社」を目指す当社の一連の働き方改革が、労働生産性や企業価値の向上をもたらすと共に、当社のサステナビリティの強化にも繋がっていることを、改めてアナリスト・機関投資家の皆様にご理解いただきたかったのが大きな理由です。 

説明会で申し上げたように、2010年度の岡藤会長CEOの社長就任以来、朝型勤務制度、伊藤忠健康憲章制定、がんと仕事の両立支援、ワクチン職域接種の率先、朝型フレックスタイム制度・全社員対象の在宅勤務制度の導入等、矢継ぎ早に施策を実行してきました。また、そのすべての内容を開示し続けていることから、当社の施策は、時として日本社会全体にも大きな影響を与えることとなりました。 

今回、改めてその導入ストーリーと併せてそれらの諸施策をご説明したことで、アナリスト・機関投資家の皆様のみならず、多様なステークホルダーの皆様にもより当社へのご理解を深めていただく一助になったのではないかと考えています。(→サステナビリティ説明会)

Q3.サステナビリティ委員会の委員長として、認識している課題や役割をお聞かせください。

A3.気候変動対応等の課題について、「カンパニー横断」で議論し、レビューを実施しています。

サステナビリティやESGは、近年益々重要性を増しており、社会的な要請や法令対応の義務化等も加速しています。サステナビリティ上の重要課題であるGHG排出量の削減やサプライチェーンにおける人権の配慮等は、当社の場合、特定の部署だけの課題ではなく、全社にわたるものです。

サステナビリティ委員会は、全8つのカンパニーの経営企画部長、各職能部長が一堂に会して全社的課題を議論する貴重な場となっています。そこでの活発な議論を通じて、課題の重要性を共有し、コンセンサスを得た施策を全社一丸となって遂行していくことが重要です。委員長として、そのような意識醸成ができるように委員会を運営しています。

直近の委員会でも様々なテーマが議論されましたが、中でも気候変動については、当社が掲げるGHG排出量削減の中長期目標への具体的なアプローチに関し活発な議論がありました。全カンパニーが参加している委員会だからこそ、「商品縦割り」ではなく、「カンパニー横断」へと視座を上げて議論できることが、本委員会の大きな意義だと感じています。

委員会として闊達な議論を喚起することに加えて、特に重要なのは、特定したマテリアリティを具体的な事業や取組みとして落とし込んだ「サステナビリティアクションプラン」のレビューです。それぞれの事業分野における重要なサステナビリティ上のリスクと機会をカンパニー毎に抽出し、中長期的なコミットメント、達成に向けたアプローチや成果指標を定め、それらに対する進捗を毎年レビューしています。委員会の中で、各委員は自分のカンパニー以外の多くの取組みと多様な視点に触れることになり、各カンパニー独自の案件推進にも広がりが出てきていると感じています。(→サステナビリティ推進の取組み)

Q4.エンゲージメントサーベイの結果を踏まえた「働き方改革第2ステージ」のポイントについて教えてください。

A4.柔軟な働き方の選択肢を拡充することにより、社員の更なる能力発揮に繋げます。

2010年度以降、当社は「働き方改革」の推進を労働生産性の向上に資するものと位置付け、朝型勤務をはじめとした独自の施策を展開してきました。2021年12月に実施したエンゲージメントサーベイの結果は、日本を代表する企業群の中ではトップクラスの数字となっていますが、前回実施した2018年度との比較では肯定的回答率が低下した項目もあり、改善したいと考えています。現場へのヒアリングも含めた検証の結果、特に若手・女性社員に対して、より柔軟な働き方を導入した方が一層の社員の能力発揮に繋がると判断しています。そこで、多くの社員から支持されている「朝型勤務制度」を進化させ、「朝早く来て、早く帰る」という働き方を実現するために「朝型フレックスタイム制度」を導入し、加えて、コロナ禍で一般化した在宅勤務を各自の業務や生活の状況に合わせて併用してもらうこととし、より柔軟な働き方を可能としました。また、若い社員の多くが幅広いチャレンジやキャリア形成を通した成長を望むことも分かっており、そのために、現行の社内公募制度の運用強化や自己のキャリアに関して上司との面談を充実させる等、運用も拡充させています。更には、できるだけ早い時期に海外に派遣し、実際に幅広い職務を経験させる等、現場を重視した育成を行い、育成のスピードを上げるよう取組んでいます。

当社の人事施策の基本方針として、「厳しくとも働きがいのある会社」の実現を目指す考えは不変です。この「厳しくとも」というのは、仕事では成果が求められ、その成果が、当社の持続的な収益力と企業価値の向上に繋がることを常に意識しなくてはならないという意味です。これは過去、「働きやすい会社」を標榜した結果、仕事に求められる「厳しさ」に向き合わずとも、「優しさ」のみを享受できるといった誤解が発生した経験も踏まえています。男女問わず誰もが、緊張感を持って、活き活きと頑張ってもらえる会社にしたいという思いを胸に、今後も「厳しくとも働きがいのある会社」を貫いていきます。(→人材戦略)

Q5.人材獲得における工夫についてお聞かせください。

A5.学生目線も大切にし、当社の魅力をしっかりと伝えることで、「商人」の採用を行っています。

VR空間における東京本社ビルのエントランス
当社の単体従業員数は、財閥系大手商社の約7割近くの圧倒的に少ない人員となっています。この少数精鋭体制は、今後も堅持していく方針です。優秀な人材の獲得にあたっては、コロナ禍で学生との対面での接触機会が制限される中でも、オンラインでのOB・OG訪問や、開催テーマや回数を拡大したオンラインセミナー、更には感染リスクを最小限に抑えた対面セミナー等、様々な方法で学生に採用情報を提供しています。また、当社の社風をより分かりやすく理解してもらうために、ブランディング活動をSNSで展開した他、2021年度ではメタバースを採用活動に導入し、学生向けにVR(仮想現実)空間を作成・活用する等、学生目線での採用活動を行いました。当社は近年、大学生の就職人気ランキングで軒並みトップを獲得するという、大変高いご評価をいただいています。最新の2023年卒においても、主要就職人気ランキングにおいて総合商社1位、全業種においても主要7機関中4機関で1位となっており、採用競争力は国内屈指と言えるかと思います。当社にとっての最大の経営資源は言わずもがな「人」です。視野を広く、視点を高く、敏感に世の中の変化を感じ取り、柔軟な発想で未来に向かって挑戦できる、そのような「商人」の採用を行っていきます。

Q6.「働き方改革」をはじめとする「人材戦略」のグループ展開について教えてください。

A6.当社で実践した施策をすべて開示し、各社での取組促進や支援に繋げています。

当社グループ会社においても、社員一人ひとりの力を最大限引出す人事施策を実行していくことが重要です。当社のグループ会社は、各社が独立性を持って人事施策を検討していますが、その検討にあたっては、当社の働き方改革の各施策をすべて開示した上で、できることから取組んでいただくようにお願いしています。当社が先行して実施した「朝型勤務」や「健康経営」は、既に多数のグループ会社が導入しています。導入したグループ会社からは、当社と同様に、育児や介護等で時間に制約のある社員だけでなく、多くの社員にとっても、無駄な残業を削減し、有益な時間を創出することに寄与しており、例えば、夫婦間での家事・育児の分担の促進や自己啓発への挑戦等、社員の働きがいに繋がっているという声が寄せられています。更に、健康経営は、社員の安心感の醸成にも繋がっていると聞いています。当社も今般「働き方改革第2ステージ」に入ったことから、当社グループ会社においても、当社で認識した課題を踏まえ、働き方の進化について改めてご検討いただいているところです。 

また、連結経営強化の観点から、各社の状況に応じて、採用、人材育成、労務管理等におけるきめ細かな支援を実施しています。例えば、人材育成については、合同の新入社員研修や指導社員研修を実施する等、当社グループ会社を対象とした研修プログラムの拡充を図っています。コロナ禍により、ここ数年は一時的にストップしていますが、海外グループ会社の外国人社員の幹部候補を集め、将来の役職者登用に向けた特別プログラムを長きに亘り実施しており、当社グループとしての人材戦略を国内外に展開しています。また、目まぐるしく変化する労働環境に適切に対処するため、法改正等の情報提供や労務事例に関するワークショップをグループ会社間で実施する等、手厚く支援を行っています。

引続き、グループ企業理念である「三方よし」の下に、当社の働き方改革等の人事施策のグループ会社への展開を図り、社員一人ひとりがやりがいと誇りを持って働ける企業グループを目指していきたいと考えています。