CSOインタビュー

不透明な経営環境における機会とリスクを見極めつつ、「地に足をつけた」戦略と施策を着実に推進していきます。

代表取締役 執行役員 CSO
(兼)CDO・CIO(兼)業務部長

中 宏之

このたびCSOに就任した中宏之でございます。
私は、1987年に入社した後、現在の繊維カンパニーに配属されましたが、これまでの会社生活の半分近くは、経営企画関連の職務に従事してきました。特にこの10年は、経営計画の策定や成長戦略に繋がる全社的プロジェクトの推進部署である業務部、及び食料カンパニーにおいて、ファミリーマートやCP・CITICといった当社の経営戦略の中核をなす事業に深く携わってまいりました。今後は、これまでに蓄えたCDO・CIOの知見も活かし、当社が描く経営戦略を成長軌道に確実に乗せていくために、様々なビジネス現場において、時に既存の枠にとらわれないビジネスモデルの構築を推進していく所存です。

Q1.今後、投資案件を実行する際に、留意点等があれば教えてください。

A1.4つの教訓としてまとめ、社内で徹底を図っています。

当社には投資基準やEXIT基準がありますので、それらの基準に準拠するのは勿論のこと、現在の地政学リスクを含むカントリーリスクや為替水準等に留意することは、投資戦略を策定する上で、当然の前提になります。更に、投資基準のチェック項目にもなっているSDGsの潮流を踏まえたビジネスの将来性や事業計画の妥当性等にも十分に留意する必要があります。(→事業投資)[PDF]

当社は、業務部が中心となり、過去の失敗事例を通じて得られた教訓として以下の4つをまとめ、全社の主要会議等で何度も繰り返し共有することで、現場の投資案件の検討段階から留意するように徹底を図っています。

4つの教訓


① 投資の高値掴み
② 取込利益狙いの投資
③ パートナーとの関係性
④ ハンズオン不足
①は、投資案件は将来のシナジー創出やバリューアップを想定して実施するため、どうしても「のれん」が発生しますが、将来の減損リスクを最小化するためにも投資額の抑制が、特に重要になります。トレードの仕入も同様ですが、業績の好調時には、「安く仕込む」意識が低下しがちですので、例えば、外部からの紹介案件にむやみに飛びつかない等、再徹底を図っています。②は、予算未達となりそうな営業組織で起こりがちな話ですが、投資に伴う連結上の取込利益のみを狙って行う投資を指します。足元の利益貢献のみが目的であるが故、収益的にピークにある案件、あるいは分野・地域的に知見がない案件が対象になりますが、同時に、近い将来、投資リターンである利益や配当が減少する可能性が高い案件にもなります。そうした「その場凌ぎ」的な投資を行わないように目を光らせています。③と④はある意味で同じような側面を持つ話ですが、当社が経営権やイニシアチブを握れず、パートナーに頼らざるを得ない案件であり、そのパートナーの事業の目利き力や財務基盤が劣後している場合は、特に要注意になります。ハンズオン経営で事業を丁寧に磨くことが、当社経営の強みであり、特徴ですので、まずは、当社が経営権やイニシアチブが握れるか否かが、投資を実行する際に重要な鍵になります。

Q2.ビジネス現場でDXを推進する際に、留意点等があれば教えてください。

A2.早期の収益貢献が見込める個別案件を着実に積み重ねていきます。

当社のDXは、業界全体のプラットフォームを構築するといった壮大なものではなく、「地に足をつけたDX」が特徴になります。DX自体を目的化することなく、既存の事業基盤を活かしながら、サプライチェーンの最適化や業務効率化といった早期の収益貢献が見込める個別案件を着実に積み重ね、グループ内外の横展開を図っています。そして、結果として当社グループが強みを持つそれぞれのビジネス現場でデジタル化・データ整備が進み、浸透することを目論んでいます。

この現場主導のDXを支える一つが、全社組織である「IT・デジタル戦略部」の存在です。当社は、2021年度より、ITシステムを担っていた「IT企画部」と新たなビジネス分野を開拓する「次世代ビジネス推進室」の総本社のDX推進組織を「IT・デジタル戦略部」に一本化しており、従来の伊藤忠単体における「削る、防ぐ」に繋がるコーポレートDXのみならず、当社グループ全体での「マーケットイン」、「消費者接点」を意識した「稼ぐ」に繋がるビジネスDXを両輪で支援・推進する体制を整備しています。

今後は、国内有数のシステムインテグレーターであるCTCを傘下に置く情報・金融カンパニーとIT・デジタル戦略部が中心となって、「ビジネス課題の解きほぐし」から「実証実験・費用対効果検証」、「実用化」までの全工程を一気通貫で支援することで、プロジェクトの着実な実行を推進していく所存です。

その一例を挙げるとすれば、(株)日本アクセスの物流センターでは、ファミリーマート向け商材1,500品目を対象にAI自動発注システムを導入しています。川下データを活用することで、在庫の30%減、発注業務量の半減効果を実証しており、 既に全47ヵ所のセンターでAIシステムの運用を開始しています。また、2022年度にはファミリーマートの商流に加え、この取組みにより培った知見をスーパーマーケット業態等に横展開することも予定しています。

将来的には、各ビジネス現場においてAI 等のデジタル技術やデータを当たり前のように活用することで、更なる利益成長に繋げていく方針です。

Q3.ロシア・ウクライナ関連のリスク対応やCITICとの取組方針について教えてください。

A3.想定される地政学リスクについては、すべて織り込み済みです。

当社は、ロシアにおいて主にエネルギー関連事業や自動車販売事業を、ウクライナにおいて自動車販売事業を展開していますが、2022年3月末時点のロシア向け及びウクライナ向けのエクスポージャーは、それぞれ421億円及び26億円になります。

2022年度計画においては、取込損益を通じて認識される持分法投資先におけるロシア・ウクライナ関連損失を含め、想定される懸念はすべて織り込み済みであり、仮に追加損失が発生した場合でも、別途バッファーを▲300億円設定していることから、十分な「備え」ができていると判断しています。(→カントリーリスク)[PDF]

また、中国におけるビジネスについては、他の国や地域と同様に注視していく必要がありますが、約14億人を有する高成長が見込まれる市場への期待の大きさは、一般論として共通の認識であると思います。CITICとの戦略的業務・資本提携以降、中国でビジネスを行う際の信用力は飛躍的に向上し、長い目で見ればプラスになるという判断に変わりはなく、中長期的に取組む方針についても変更はありません。2021年度におけるCITICの連結純利益は、前期比24%増益のHK$702億(約1兆円)となり、更に当社の受取配当金も253億円まで伸長しており、共に2015年の当社の出資以降、6期連続で増益・増配を達成しています。株価向上といった課題は残るものの、5ヶ年計画として掲げる2025年度の連結純利益HK$1,000億に向けて順調に推移しています。