COOメッセージ



「イン・フィールド・キャプテン」として、
経営環境の変化を「現場」から見つめ、
更なる飛躍に向けた足場固めをリードしていきます。

「三方よし」を胸に、経済価値と環境・社会価値を同時に追求すると共に、非資源分野の強みを磨き上げ、今から十分な「備え」を実行していく所存です。

[画像]

本領発揮

社長COOとして伊藤忠商事の伝統の襷を受け継いでから1年が経過しました。それまでのエネルギー・化学品カンパニーという慣れ親しんだ領域から、一気に全社、全産業へと視野を広げながら職責を果たすことになり、改めて総合商社のビジネスの裾野の広さと、必要となる情報や知識の多さを実感し、日々の努力の大切さを痛感しています。

社長COOの就任初年度は期せずして、新型コロナウイルスに加え、ロシア・ウクライナ情勢や未曽有の資源価格高騰への迅速かつ適切な対応が求められた、激動の1年となりました。「ピンチ好き」とは申し上げませんが、昔からピンチになると何故か燃える性格であるのも事実で、楽をして儲けるよりも厳しい営業現場で赤字部署の立て直しを行っている方が、性に合っている気がします。コロナ禍で海外出張等の制限を受ける現状は、私自身の「ビジネスモデル」にも大きな影響を及ぼしました。一方で、社内で腰を据えて仕事する時間が十分確保できたため、エネルギー・化学品以外の領域で新しいビジネスの可能性を見出したり、これまで触れる機会がなかった営業部署や職能部署で新たな人材に出会ったり、今後全社を俯瞰する上で礎となる重要な1年にもなりました。

当社は、この数年、天秤棒を担いで行商に踏み出した初代伊藤忠兵衛に始まる当社の歴史を振り返り、伊藤忠商事としてのアイデンティティ、すなわち我々は「商人」であることを全役員・全社員で共有し、徹底を図ってきました。そして、コロナ禍という厳しい環境下でも、商人としての自覚と責任感を失うことなく、「それぞれの持ち場を守ることが経済活動の回復に繋がる」という社員の一人ひとりの意気込みを肌で感じ、同時に今後の更なる成長への手応えを感じることができた1年でもありました。(→「商人型」ビジネスモデル)

2022年度は、このような「個の力」を束ね、まさに私の「イン・フィールド・キャプテン」としての本領を発揮すべく、率先して現場に赴き、商売の道を切り拓いて社員に繋ぐことを実践する年にしたいと思います。株主総会後には、新型コロナウイルスが流行してから初めて、海外出張を実施しましたが、オンラインでの限界と現場で「生きた情報」を直接収集することの重要性を改めて感じています。極めて不透明な経営環境の中でも、ビジネスの先行きを十分に分析した上で実効性の高い施策を加速できる企業が、向こう数年間のアドバンテージを得ると考えています。近い将来、新型コロナウイルスが収束し、資源価格や為替等が正常化する「真の勝負所」で確実に勝利を収められるように、非資源分野の強みを磨き上げ、今から十分な「備え」を実行していく所存です。

総合商社の「総合力」

新型コロナウイルスやロシア・ウクライナ情勢等を受け、各産業におけるサプライチェーンに混乱が生じており、基幹産業の再国産化やサプライチェーンそのものの再構築といったことも検討されています。複数業種に跨るサプライチェーンを俯瞰して状況を判断していくには、数ある業種の中で、あらゆるビジネスを世界中で構築してきた「総合商社の目線が必要」と自負しており、今後、当社のノウハウや経験に対する様々な企業からの期待は、一層高まるものと考えています。

株式市場においては、総合商社の「コングロマリット・ディスカウント」が議論になりますが、多岐にわたる総合商社の事業ポートフォリオが兼ね備える「総合力」は、特にこの変革の時には強みであり、「ディスカウント」要因として捉えられるのは、若干違和感を覚えます。一般に企業には寿命がありますが、当社が164年という長きに亘り生きながらえてきたのも、その時々の経営環境やトレンドに合わせて、この総合商社の「総合力」を発揮してきたからに他なりません。社会の持続可能性が問われる中、それを支える企業の持続可能性が重要なのは、言わずもがなでしょう。

日本のバブル経済の崩壊にアジア通貨危機が追い打ちをかけた1990年代後半、当社も不良債権処理に追われていましたが、中でも機械、金属、化学品、建設といった部署は、その頭文字のアルファベットを取って「4K」と社内で呼ばれており、立て直しが急務の部署の象徴でした。保有資産の厳選や有利子負債の圧縮を図るため、不採算取引や支払サイトの長い取引の取止め、不採算事業からの撤退、一部ビジネスのスピンアウト等を急ピッチで進めましたが、そのビジネス自体をやめてしまうことはせず、何らかの形で残す方策が採られました。時が経ち、これらの4K部署は、厳冬を耐え抜き春に大輪の花を咲かす草木のように、業績的に厳しい時期でも実力や知見を着実に蓄え、現在、全社収益を牽引する部署として見事に復活しています。

また、当社は、非資源分野が中心の総合商社であり、資源分野はすべてやめて、非資源分野に特化した方が良いのではないかとのご意見もあります。しかしながら、足元の効率性や収益性のみを優先する経営だけでは、このような4K部署の復活劇はあり得なかったと思いますし、一旦やめたビジネスに再度投資して、すぐに収益の拡大やシナジーの構築を図るのは、相当に難易度の高い話です。例えば、当社が石油ガス権益を持つ意味合いは、権益保有に伴う直接的な収益貢献のみならず、原油を原料とする化学品や繊維素材、自動車や船舶、鋼管といった非資源分野におけるトレード等の知見として間接的に活かされる点にあります。先に述べた「複数業種に跨るサプライチェーンを俯瞰して状況を判断」できる優位性は、当社が多岐にわたる事業ポートフォリオを有していることと密接に繋がっていると考えています。

脱炭素も川下から

当社の投資スタンスを語るにあたり、川下を起点とする「マーケットイン」の発想が重要である点は、岡藤会長CEOメッセージをご覧いただき、私からは「SDGs」への対応についてご説明します。

川下を起点とする考え方は、SDGsビジネスにも通じると思います。当社は水素・アンモニア・洋上風力といった次世代燃料・再生可能エネルギービジネスにも取組んでいますが、川上に位置するこれらの大型プロジェクトの実用化・収益化には、相当な時間とコストがかかります。更に、安全で確実な供給網の構築や信頼性の高い国内外パートナーとの提携、地域社会との共生等に配慮しつつ、将来の競争力確保のためには、新技術の動向にも目を配っていく必要があります。安心で安全なエネルギー源の確保は、安全保障の問題を含む我が国の大きな課題であると共に、総合商社として当社が担う重要な役割であると認識しており、中長期的な視点で慎重に取組んでいます。

一方、当社は川下側からの脱炭素ビジネスにも取組んでおり、その代表的な事例が蓄電システムを使った川下におけるエネルギーマネジメントです。天候等で発電量が変化する再生可能エネルギーの調整役を蓄電池が行い、発電した電力を効率的に消費するシステムを構築します。蓄電池は、送電の際のロスを削減したり、電力使用量を平準化したりしながら、発電した電気を無駄なく使うことができるため、エネルギー自給率の向上やGHG排出量の削減に直結します。また、緊急時には重要な独立電源として使用することもできます。このような需要側の電力消費のコントロールは、日本政府がGHG排出量削減の目標時期として掲げる2030年、2050年までに実行可能な川下脱炭素施策であり、先行する当社がイニシアチブを発揮して蓄電池ビジネスの拡大を図ることにより、今すぐにでも「経済価値と環境・社会価値との両立」を実現できる分野です。電力制御をAIで行えば、電力使用パターンを把握してピーク電力を下げるといった対応が可能となり、データを一元的に管理して最適制御を行う、VPP(Virtual PowerPlant:仮想発電所)、すなわち、分散型電源プラットフォームを構築すれば、より安定的で効率的な電力供給が可能になります。こうした分散型電源プラットフォームの構築に向け、業界トップクラスの蓄電池販売数を誇る当社は、電力会社やデベロッパー等のパートナーと協力しながら、更にファミリーマートや伊藤忠エネクス(株)、CTC等の当社グループ企業とのシナジーを生み出しながら、面の拡大を進めており、競争優位性が非常に高いビジネスに育ってきています。(→脱炭素社会を見据えた事業拡大)

中期経営計画では、2040年までにGHG排出量の「オフセットゼロ」を目指すことを掲げましたが、蓄電池ビジネスはGHG排出量の「削減貢献」に繋がるのに対し、一般炭権益からの撤退はGHG排出量の「削減そのもの」になります。2021年度は、コロンビアDrummond権益と豪州Ravensworth North権益の2つの一般炭権益の売却を実行し、概ね一般炭権益の売却を完了しましたが、代替可能な燃料である一般炭は、早めに撤退すべきという位置付けです。一方で、原料炭は、同じ石炭ではありますが、現行の高品位の製鉄に不可欠な原料であり、今の社会における鉄鋼の重要性や製鉄技術を考慮すれば、GHG排出量を理由に、すべて「無くす」のは現実的とは言えません。また、原油についても、現時点では代替不能な燃料であり、様々な生活必需品の原料でもあることから、同様の考えであり、「無くす」のではなく、「減らす」ことを考えなくてはなりません。当社は、GHG排出量削減や「オフセットゼロ」に向け、川下の状況を現実的に観察し、今すぐに当社の強みを発揮できるところから取組んでいく方針です。(→気候変動に関する考え方・取組み)[PDF]

従来以上に社会の様々なニーズを汲み取り、バランス感を伴ったビジネスと目線の高い経営を実践していくことが求められていると理解しています。

「三方よし」を胸に現場を駆け抜ける

SDGsやESGの潮流の中で、「ステークホルダー資本主義」が世界共通の価値観となりつつありますが、それは従来の「株主資本主義」を否定するものでも、投資家や株主の皆様を軽視するものでもなく、「商人は水であれ」と言われるように、従来以上に社会の様々なニーズを汲み取り、バランス感を伴ったビジネスと目線の高い経営を実践していくことが求められていると理解しています。当社は、「三方よし」のオリジナル企業として、世間をよく見て、世間が望むビジネスをコツコツと積み上げていく方針です。そのために私は、引続き社員と共に「現場」を駆け抜けていきたいと思います。ステークホルダーの皆様には、今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。