「無数の使命」シリーズ 6つの使命

第六回 油よ!

「宇宙のことってまだまだ分からないけど、海底のことだって、わからないことだらけなんです」。
伊藤忠商事のエネルギー・化学品カンパニー、油田開発の担当者は、そう話しはじめました。
アゼルバイジャン共和国領カスピ海沖合の大型油田開発。1996年に権益を獲得して以来の、大プロジェクト。
国際コンソーシアム(共同事業体)と共に、幾多の政治・経済の混乱に晒されながらも21年目を迎えました。
原油は、深いところで地下6,000メートルほど掘るといいます。設備投資も膨大。
油価が1ドル下がるだけで影響も大きく「いつもヒリヒリするような緊張感と、胸が熱くなるダイナミズムを感じる世界です」。
そして、原油はアゼルバイジャンの国家収入の大部分を占めるため、その国に暮らす人々にとってもこれは非常に重要なプロジェクト。
「細かな交渉ひとつでも、相手の国の行く末を思いながら行います」。交渉の席には相手国の大臣たちが出てくることも。
商社でありながら、国を代表する使命感は相当なものでは?
「僕は34歳ですが、この年代でこんなに重要な案件に関われるのは、伊藤忠ならではだと思いますね」。
ビジネスを通して国交する。伊藤忠の商人たちは、今日も「使命」という名の旗を立てながら、この星で商いをしています。

ひとりの商人、無数の使命 伊藤忠商事

第五回 ぼくらのジーンズ・ニッポン。

日本には、ジャパン・ブルーと呼ばれる色があります。それは、深く澄んだ藍染めの青。
生活のなかで色落ちしながら味わいが増していく青は、昔から愛されてきました。
「EDWINは、そんな日本で生まれたジーンズメーカーです」と、伊藤忠商事の繊維カンパニーの担当者は話しはじめました。
戦後、彼らはアメリカから持ち帰ったジーンズをきれいに洗いながら、ジーンズの本質はその色落ちにあることを見つけたそうです。
そして“ウォッシュ加工”という技術と共に新しい価値を生み、日本のジーンズを世界へと、発信しつづけています。
「伊藤忠商事が守りたいのは、EDWINの“ものづくりの姿勢”なんです」。
この頑固者!と叫びたくなるほどの、妥協を許さないひたむきさ。革新へのチャレンジ精神。
工場は秋田と青森に集まり、誇り高く働くスタッフがいて、その家族の日常がある。
「日本人の心の中にある、この愛すべきブランドのために、ぼくらが提供できる経営のノウハウをすべて注いで一緒にジーンズの未来をつくっていきたいんです」。
伝統と可能性。守ることと攻めること。日本のブルーをめぐる挑戦は、続きます。

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第四回 愛を掘りあてる。

101歳の元ピアニスト、長谷川照子さんの薬指に光るのは、プラチナの結婚指輪。愛の証として、高価な宝飾品として、
永遠に愛され続けるプラチナ。「でも、実は別名グリーンメタルといって、地球環境のためにも必要不可欠なんですよ」。
伊藤忠商事の金属カンパニー、資源開発の担当社員は話しはじめました。プラチナは6割以上が工業用に利用されていること。
自動車には排気ガスを抑えるための「浄化触媒」が装備されていて、その原料がプラチナであること。
そして国産車にはすべて浄化触媒がつくようになり、空気を汚染から守っているということ。
「いま話題の燃料電池車にだってプラチナが必要で、ますます需要が増えるのは明らかなんです」。
にも関わらずプラチナを掘りあてるのは、宝探し級の確率。人類が有史以来掘り出した総量は、たった6m四方の箱に納まる程度です。
ところが、そんな稀少なプラチナの「なんと、新しい大鉱脈を発見しちゃったんです」。それは南アフリカの地下深く。
マンハッタン島と同じくらいの巨大な鉱体だというから、まさに世紀の大発見か。けれどこれは、ほんのはじまりにすぎません。
「これから10年単位の長期戦です。開発から現地雇用の創出まで、私たち自身が汗をかき、知恵を出していかなければ」。
そう。これはより良い未来に向けた、ひとつの愛のカタチ・・・なのです。

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第三回 Tシャツ、ビーサン、一億円。

カリフォルニア州の民家のガレージで2人の青年が、後に世界を変えていく「林檎」をつくったのは、1976年のことでした。
それから数十年後。「いま、日本の若い起業家たちと毎日のように会って、話を聞いています」。そう言ってニッと笑うのは、
伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV)の社員のひとり。その数、年間500人以上にものぼります。
「まだ20代そこそこの若者が、アイデアをいっぱい抱えて。そんな彼らと一緒にゼロからモノをつくっていくところが
最高の醍醐味じゃないかと思います」。その中から、日本だけでなく世界を揺るがす事業が生まれると信じて。
選んだパートナーには、初期は5千万から1億円までの出資と、伊藤忠グループで培ったビジネスのノウハウでサポートします。
「彼らは優秀なんだけど、まだよちよち歩き。そこにわれわれオジサンが入って導かなくては」。
導く、と言っても実際には現場にも足を運んだりと、中に入って共に歩みます。ただ、収益的にホームランが出る確率は、低い。
新しい卵と出会う方法は? 「まずは計画に具体性があるか。でも、計画通りになんて行かないことが多い。
そんな時、この人だったら上手くいかなくても違うことをやってくれそうだな、と可能性が見えるかどうか、です。
たとえTシャツ、ビーサンという格好でも」。人が、人に投資をする。それは、人を信じることとイコールなのです。

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第二回 地熱は情熱に、ちょっと似ている。

インドネシアの北スマトラは、停電の多い地域。いま、ここで世界最大級の地熱発電プロジェクトが進行しています。
サルーラ地熱発電所。出力320メガワット。地中深く、マグマの熱で生まれる蒸気でタービンを回転させ、電力を発生させます。
地熱という再生可能エネルギーを用いるので燃料枯渇の心配も少なく、運転にともなうCO2の排出量もきわめて少ない。
一方、開発までに長い期間がかかる上に、実際に地下3000メートル近く掘ってみなければわからない、という大変なリスクも伴います。
伊藤忠商事は、2004年からこのプロジェクトに関わってきました。担当者のひとりは、こう言います。
「インドネシアは世界第2位の地熱資源国。にもかかわらず、うまく活かされていなかった。
この良質な資源をこの国の暮らしにちゃんと活かさなくてはいけません」。けれど、それは平坦な道のりではありませんでした。
「ビジネスの相手は、国です。政府とふたつの国営企業、そして銀行や投資家とも同時に調整を進めるのは、非常に困難な仕事でした。
たとえるなら、数十枚の皿回しを、みんなで汗水流して10年間つづけている、という感じ」。
それでも、スマトラの人々から必要とされているものを生みだす喜びは、どんな苦労も消し去ってくれます。
これから何十年、地域といっしょに、歩んでいく。近郊の村の夕暮れの風景に、そしてこのプロジェクトの行く先に、無数の光が灯っていきます。

ひとりの商人、無数の使命 伊藤忠商事

第一回 バナナ色の未来へ。

米国「Dole社」といえば、世界90カ国以上で青果物関連商品を扱う企業。その規模は、世界最大級です。
2013年、伊藤忠商事は、Dole社のグローバル展開する加工食品事業のすべてとアジア青果事業を、買収しました。
なぜならそれは、農業で未来の扉を開きたかったから。おいしい果物や野菜を食べて、キレイになったり、健康で長生きできるように。
そして「あたりまえに安心で、安全」をみんなが手にすることができたら、どんなにいいだろう。そんな強い思いがあったからです。
担当者のひとりは言います。「数千ヘクタールもあるバナナ農園をヘリに乗って上空から見渡したとき、
本当に大きなものを手に入れてしまったと感じました」。そのバナナの一房一房は、
ビニールと丈夫な日本の新聞紙で日に焼けないよう大事に包まれています。この圧倒的なスケール感と品質感。
でも、それだけではありません。「私たちはこのブランドを、もっともっと光らせなければならないのです」。
いつか世界中に、Doleのバナナやパイナップル、さまざまな加工品が溢れる日がくる。
Doleがあってよかった、という豊かさを、次世代へ渡すために。言ってみれば「バナナ色の未来」。
そんな使命をひとりひとりが抱えた、この壮大なプロジェクトは、まだはじまったばかりです。

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