体制・システム

サプライチェーン

事業領域の拡大を背景に、伊藤忠商事のサプライチェーンは広域化・複雑化し、自社が直接管理できる工程だけでなく、原料の調達や生産地、中間流通及び消費地での人権・労働及び環境等へのリスクマネジメントがより必要となっています。特に自社の購買シェアが比較的高いサプライヤーの現場管理については、その配慮や責任度合も大きく、優先して取組むべき事項として捉えています。
伊藤忠商事は、「サプライチェーン・サステナビリティ行動指針」を定め、以下のような調査・レビューを行うことで、問題発生の未然防止に努め、問題が見つかった場合にはサプライヤーとの対話を通じて改善を目指します。

[図]
サプライチェーン・マネジメント推進図

サステナビリティ調査

サステナビリティ調達を実現すべく、サプライヤーの実態を把握するため、ISO26000の7つの中核主題を必須調査項目とした上で、高リスク国・取扱商品・取扱金額等一定のガイドラインのもとに各カンパニー及び該当するグループ会社が重要サプライヤーを選定し、各カンパニーの営業担当者や海外現地法人及びグループ会社の担当者がサプライヤーを訪問しヒアリングを実施しています。またアンケート形式(サステナビリティチェックリスト)のサステナビリティ調査を2008年度より実施しています。

サステナビリティ調査に先立ち、様々な商品を様々な国で調達する社員に対して、サプライチェーン・サステナビリティ調査説明会を実施し、「サプライチェーン・サステナビリティ行動指針」及びサプライヤーとのコミュニケーションにおいて留意すべきESGの観点を、ハンドブックを用いて理解する研修(バイヤー研修)を実施しています。

サステナビリティチェックリスト

[図]
サプライチェーン・コミュニケーション
ハンドブック

サステナビリティチェックリストはISO26000の7つの中核主題(組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティへの参画及び発展)に基づき、中核主題以外も、担当部門・取扱商品ごとに下記の表に示す調査項目等を追加する等分野に応じた調査を実施しています。また、外部有識者の意見を参考に、設問の中でも、対応や対策が不十分の場合、持続可能リスクが高くなる人権・労働慣行・環境を中心とした19の設問を重要設問として設定し、重点的に、サプライヤーへの改善対応の働きかけを実施しています。

調査概要
サステナビリティ
調査対象基準
  • 高リスク国
  • 一定金額以上
  • 一定商品群取扱い
全カンパニー共通の
主な設問
  1. 組織統治:責任体制・内部通報制度の整備
  2. 公正な事業:腐敗防止・情報管理・知的財産権の侵害防止・
    持続可能な調達方針
  3. 人権:事業上の人権侵害のリスク評価・児童労働/強制労働/
    ハラスメント/差別の廃止・適正な賃金支払
  4. 労働慣行:労働時間管理・安全衛生管理・従業員の健康
  5. 環境:廃棄物/排水処理・危険物の取扱い・気候変動/
    生物多様性への取組み
  6. 消費者・地域社会:品質管理・トレーサビリティ・消費者及び
    近隣住民との対話
  7. 認証:環境・品質・労働安全衛生のマネジメントシステム
担当部門・取扱商品ごと追加調査項目
調達材 追加調査項目
紙・チップ/木材

森林保全・第三者認証の有無

農産物

生産地管理、化学肥料農薬管理

畜産物

食品安全、生産地管理

天然水産物

生産地管理、漁獲管理

アパレル

化学物質管理

パーム油

生産地管理、苦情受付窓口の整備

コーヒー豆

生産地管理、苦情受付窓口の整備

また、サプライヤーとのコミュニケーションに関するハンドブックも作成し、社員がより具体的に重要サプライヤーの環境・人権・労働慣行・腐敗防止等の管理状況の実態を把握し、改善アドバイスを行うことができるチェックの仕組みを展開すると共に、社員への周知に活用しています。今後も調査やコミュニケーションを継続することで、社員の意識向上とサプライヤーへの理解と実践を求めていきます。

ハンドブック記載例

強制労働の禁止 従業員を無理矢理働かせてはいけません

強制労働とは、本人の意思に反して強制的に行われるあらゆる労働のことです。例えば、借金の返済のために離職の自由が制限されていたり、または契約で職場を離れる自由が制限されている場合等は強制労働に該当します。勤務シフトはどうか、休憩時間はあるか、食事をとることができているか、従業員へのヒアリングや顔色を観察することからわかる場合もあります。劣悪なケースでは、社員寮が工場敷地内にあり、敷地外へ出ることが制限される等、生活そのものが拘束されていることもあります。地方や他国から働きに来ている従業員はいるか、確認することも有効です。パスポートや身分証明書、労働許可書等の原本を雇用者が預かることは、強制労働を招く行為として禁止されなければいけません。

参考

新興国のみでなく日本の工場でも強制労働がないか、確認が必要です。近年、日本の「外国人技能実習制度」が一部海外からの批判が集まっているため、国内でも外国からの従業員がいるか、労働時間、賃金面で問題ないか等、確認してください。

2022年度サステナビリティ調査

2022年度は、320社の調査を行い、その結果からは直ちに対応を要する深刻な問題は見つかりませんでした。調査時には懸念事項としてあがった問題点も、取引先による迅速な改善措置や対策等を確認しており、今後も取引先に対して、当社の考え方に対する理解を求め、コミュニケーションを継続していきます。

調査対象社数
全社
繊維 機械 金属 エネ化 食料 住生活 情金
2022年度 320 105 9 20 31 104 48 3
2021年度 288 65 9 20 31 107 53 3
2020年度 310 57 9 21 29 104 87 3
2019年度 316 50 15 20 39 102 85 5
2018年度 343 49 13 19 39 110 108 5

2019年度に繊維カンパニーでは上記の調査に加え、国内のサプライヤーに対する外国人技能実習制度の実態調査アンケートを実施しました。詳しくは外国人技能実習生の労働環境アンケートをご参照ください。

重要サプライヤーに対しては、必要に応じてサステナビリティ推進部が外部専門家と共に訪問調査も実施しています。

担当部門・取扱商品ごとの調査実績社数
調達材 2020年度 2021年度 2022年度
紙・チップ/木材

66

37

38

農産物

30

39

36

畜産物

11

13

14

天然水産物

33

29

28

アパレル

5

5

105

パーム油

9

8

7

コーヒー豆

21

18

19

調査対象社数の地域別内訳

[図]

タイ家禽産業への人権監査を実施

~CPFサラブリー工場を視察~

食料カンパニーの主要仕入れ先の一つであるCharoen Pokphand Foods Public Company Limited(CPF)のサラブリー工場(鶏肉加工品工場)において、外国人労働者を対象とした人権監査を、外部監査員同行のもと実施しました。
近年、タイの畜産業や漁業における外国人労働者の人権侵害に関して、タイ企業をサプライチェーンに持つ日本企業がNGO団体等から指摘を受けるケースが増えています。今回の監査を通じて、当社のサプライチェーン上の人権リスクの有無を現場にて確認しました。
同工場(堵殺場、食品加工場)では労働者の約50%にあたる3,400人のカンボジア人が働いており、重要な労働力となっています。監査では、工場内施設におけるカンボジア語表記の徹底、避難経路の確認、勤怠管理状況、パスポート及び労働許可証の個人保管状況等を確認し、また実際に働いているカンボジア人労働者を無作為に選んで労働実態のヒアリングも行いました。
今回の監査では、外国人労働者に対する人権侵害とみなされるような問題は確認されず、CPFの人権に対する十分な配慮とサステナビリティへの積極的な取組み姿勢を改めて認識しました。

CPFでは、外国人労働者にとっても安全な労働環境が整備されていました

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CPFサラブリー工場
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監査にご協力いただいたCPFの皆さんと
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カンボジア人職員への労働実態ヒアリング
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防災設備にはカンボジア語表記を徹底
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副原料を山積みにしないように提言

食品加工工場の定期訪問調査

食料カンパニーでは、食品安全・コンプライアンス管理室主導で、輸入食品については2011年度より海外サプライヤーの食品加工工場の定期的な調査を実施しています。2022年度は、海外サプライヤー331社を調査し、食料取引における安全確保のための未然防止策を展開しています。2015年1月からは、北京に中国食品安全管理チームを開設し、中国サプライヤーの監査を行うことが出来る体制を整えました。2022年度は42社の定期監査・フォローアップ監査を実施しています。詳細は顧客責任をご参照ください。

中食製造業者へのサステナビリティ第三者監査を実施

グループ会社のファミリーマートの中食製造を委託する工場では、多くの外国人技能実習生が働いており、重要な労働力となっています。

2022年度は31工場で、適切な雇用がされているか、施設内での母国語表記がされているか、従業員の安全衛生・適切な健康管理がされているか等200項目のセルフチェックアンケートを実施しました。工場での監査は、コロナウイルスの感染拡大と衛生管理の重要性に鑑み、各地の新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置終了後にオンライン形式と実地での立会いを併用し、合わせて12工場を対象としてオンライン形式で実施し、それぞれの工場で重大な問題が無いことを確認しました。

今後も持続可能なサプライチェーンの構築に向け、アンケートと監査・モニタリングの対象を拡大していきます。

違反サプライヤーへの対応

当社方針の趣旨に違反する事例が確認された場合には、対象となるサプライヤーに是正措置を求めると共に、必要に応じて現地調査を行い指導・改善支援を実施していきます。

2022年度の調査では、児童労働の禁止、強制労働の禁止、生活賃金の支払等を含む重要設問に対するサプライヤーからの回答を、サステナビリティ推進部で精査し、課題の共有と再確認が必要な課題とサプライヤーを抽出しました。精査の結果、抽出された30会社の再確認依頼を、サプライヤーの担当事業部に依頼しました。担当事業部ではサプライヤーに再確認課題を説明し共有するとともに、課題に対するサプライヤーの対応の詳細な調査を実施しました。

その結果、再確認した課題はサプライヤーでそれぞれの方法により対応されていると判断し、2022年度はサプライヤーに対する是正の依頼はありませんでした。このように本調査を通じてサプライヤー自身による積極的な報告と、事業部門によるサプライヤーへの関与、及び問題点が発見された場合サプライヤーに是正措置を求めることで、サプライヤーによる問題改善に向けた取組みを促します。

是正依頼等を継続的に行ったにも関わらず、是正が困難と判断された場合には、取引を見直す姿勢で取組んでいきます。

2022年度サステナビリティ調査結果
重要設問の内容 課題の再確認・是正依頼
項目 設問による確認項目の例 再確認
依頼件数
割合
(320社中)
是正依頼件数
サステナビリティ責任体制の明確化 社内責任者を任命し、推進体制が明確化されている。 12 3.8% -
汚職等腐敗防止 方針が明確化されており、担当者によりモニタリングを実施している。 8 2.5% -
情報漏えいの防止 情報管理規程を策定し、全従業員へ周知している。 8 2.5% -
児童労働の禁止 ILO(国際労働機関)基準、当該国法令を踏まえた従業員の最低年齢を明確に定め、本人申告で年齢を確認し採用を行っている。 3 0.9% -
強制労働の禁止 強制労働を行わない方針を掲げ、採用時に「パスポートやIDの原本を預かる等の行為」を行っていない。 6 1.9% -
ハラスメントの禁止 ハラスメントを禁止することを明文化して、全従業員に周知している。また、実際にハラスメントの有無を確認している。 3 0.9% -
団結権、団体権の保障 社員の団結権・団体交渉権を認めており、経営と定期的に労働環境の改善に関するコミュニケーションの機会を年1回以上設けている。 4 1.3% -
差別の禁止 人材募集告知や人材派遣会社への要望で性別・人種・宗教等による募集制限を行っていない。 3 0.9% -
適正な賃金支払い
(生活賃金の支払い)
当該国の法定最低賃金を上回る賃金を支払っている。 2 0.6% -
適切な労働時間管理 労働時間を適切に管理する仕組みがあり、労働時間は当該国の法定基準を超えない範囲である。 4 1.3% -
休日の取得 全ての従業員が毎週1日以上の休日を取得している。 2 0.6% -
危険な箇所と作業の特定 労働安全衛生上の危険な箇所と作業を特定し、全てのリスクに対策を講じている。 3 0.9% -
労働安全衛生の作業
手順書
労働安全衛生の管理に関する作業手順等がある。 3 0.9% -
労働災害への対策 発生した労働災害を全て把握し、削減のための施策を実施する仕組みがある。 2 0.6% -
衛生的な職場付帯設備 全ての施設が衛生的に保たれており、地元当局の調査等でも、過去5年以上、指摘を受けたことはない。 3 0.9% -
廃棄物の処理 マニュアルがあり、1年に1回以上周知し実践している。 1 0.3% -
排気・排水の処理 規制による要求以上の厳しい基準を設けて管理している。 7 2.2% -
責任ある原材料調達 90%以上の原材料について、原産地まで遡ってトレーサビリティを確保しており、環境・社会面で問題ないことをチェックした上で仕入れる仕組みがある。 8 2.5% -
近隣住民に配慮した開発 近隣住民からの苦情・問合せ窓口の有無(騒音、悪臭、空気や水等の環境汚染に関して等)。 1 0.3% -
対象会社数 30 9.4% -

事業投資マネジメント

投資先の事業活動が、環境や社会に与え得る影響を認識し対処するため、ESGリスクの把握と未然防止活動に努めています。チェックリストの活用や訪問調査を通じてESG全般についてリスク評価を行い、必要な措置を策定しています。また、これらは環境マネジメントシステムの枠組みの中で継続的に見直し、改善されています。

新規事業投資案件のESGリスク評価

新規事業投資案件について、申請部署は「投資等に関わるESGチェックリスト」を用いて、投資案件が、ESGの観点で方針及び体制が整備されているか、環境への著しい悪影響や法令違反、利害関係者から訴えられるリスクが無いか等を、事前に評価(デューデリジェンス)することが義務付けられています。このチェックリストは、CSRの国際ガイドラインであるISO26000の7つの中核主題の要素を含む28のチェック項目から成り立っています。
申請部署は、関係職能部(管理部門)によるリスク分析を踏まえた審査意見も参照し、万が一懸念点がある場合は、専門的な見地を必要とする案件については外部専門機関に追加のデューデリジェンスを依頼し、その結果に問題がないことを確認した上で、着手することにしています。

  • 組織統治・人権・労働慣行・環境・公正な事業慣行・消費者課題・コミュニティへの参画及びコミュニティの発展

既存事業のESGリスク評価(グループ会社実態調査)

グループ会社における環境汚染の未然防止、労働慣行のリスク評価を目的として、現地訪問調査を2001年より継続的に行っています。2023年3月末までに世界各国の合計296事業所で調査を実施しました。
本調査は、経営層との質疑応答や、工場・倉庫等の施設並びに河川への排水状況調査、環境法規制の遵守状況、労働慣行、労働安全、人権や地域社会とのコミュニケーション等を点検し、問題点を指摘または予防策を示し、是正状況を確認しています。

訪問調査レポート DOLE PHILIPPINES実態調査

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2020年1月、フィリピンでバナナ・パイナップルを始めとした生鮮果実・フルーツ缶を製造するDOLE PHILIPPINESを訪問調査しました。現地の法規制に詳しい外部専門家の知見をもとに土壌汚染・廃棄物・化学物質管理・安全対策等、環境・労働安全関連のリスク管理・法令遵守状況について詳細なチェックを行い、適切な管理を行っていることが確認できました。また、同社敷地内でのバイオマス発電や、地域の学校への寄付等、社会・環境に資する活動に積極的に取組んでいる様子も確認できました。