自然資本・生物多様性(TNFD提言に基づく情報開示)

自然資本・生物多様性に関する方針・基本的な考え方

伊藤忠商事は原料等の川上から川下まで事業投資やトレードをグローバルに展開しており、人々に便益をもたらす植物、動物、空気、水、土壌、鉱物等の再生可能及び非再生可能な自然資本の恵みに大きく依存し、またこれらに負の影響を与える可能性があります。

当社は、自然資本・生物多様性を含む地球環境問題を経営の最重要課題の一つとして捉え、企業理念「三方よし」を実現すべく、伊藤忠グループ環境方針に示す生物多様性の保全を推進するため、以下の生物多様性方針を定め、持続可能な社会の実現に貢献していきます。また、地域の社会貢献活動の一環としての事業関連地域における取組みも行っていきます。

生物多様性方針

  1. 生物多様性に配慮した環境経営

    事業活動が生物多様性の恩恵に依存していることや、生態系に影響を及ぼす可能性のあることを認識して、自然共生社会構築のために、相互に関連する気候変動対策・資源循環対策・生物多様性保全などの幅広い環境活動が事業活動の中に取り込まれた環境経営を推進する。
  2. 事業と生物多様性との関わりの把握、影響の低減

    グローバルな視点で、グループ企業はもとよりグループ全体における事業活動と生物多様性との関わりを把握し、生物多様性への影響のネットポジティブ化を目指して、事業活動が生物多様性に与える影響の回避と最小化に努めるとともに生態系の回復を推進する。
    木材・天然ゴム・パーム油等の森林に関連するコモディティに関して、自然林と森林資源保護に関する調達方針を定め、法律等で指定された保護地域からの産出による森林破壊ゼロを確認するための情報収集を推進する。
  3. 国際的な条約と各国の国内法の遵守

    生物多様性条約等の生物多様性に関する国際的な条約、及び関連する各国の国内法を遵守し、生物多様性の保全を推進する。
    ワシントン条約(CITES)等で指定されている絶滅危惧種に関し、事業活動でこれらの取引に加担しないだけでなく、事業活動地域における絶滅危惧種保護の社会貢献活動を推進する。
  4. パートナーシップの強化と地域の生態系保全

    業界団体、サプライチェーン、NGO、国際機関などと連携し、生物多様性に関する認識の共有を図り、生物多様性保全の取組みを、より実効あるものにする。
    事業活動地域の生物多様性保全に配慮するとともに、地域の豊かで安全な暮らしの実現に貢献するため、行政機関のみならず、地域住民、NGOなどステークホルダーとともに自然資本を活かした地域の創生の視点から生物多様性保全を推進する。
  5. 情報共有と発信の強化

    啓発活動などにより、社員はもとより事業活動地域の地域住民における生物多様性についての理解を促進する。
    取組内容、目標と達成状況を継続的に開示することにより、社会全体の生物多様性への意識向上に貢献する。
  • 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)

代表取締役 副社長執行役員 CAO
小林 文彦

2022年4月制定

ガバナンス

自然関連課題におけるガバナンス

伊藤忠商事は、自然資本・生物多様性を含むサステナビリティ課題への対応を重要な経営課題の一つと認識し、自然関連リスクと機会への対応方針やリスク・機会を考慮した年度予算・事業計画等の重要事項につき取締役会で審議・決定していきます。

自然資本・生物多様性を含むサステナビリティ関連事項に対応するための各種施策の立案・実施に関する総括管理責任はサステナビリティ委員会に付与されています。当社CAO(Chief Administrative Officer)は、自然関連課題に責任を持つ取締役であると同時に、執行レベルではHMC(Headquarters Management Committee)のメンバーであり、サステナビリティ委員会の委員長を兼務しています。サステナビリティ委員会での審議・決定事項は、サステナビリティ推進の主たる活動状況と共に、CAOから年2回程度取締役会に報告されます。これにより、取締役会がサステナビリティ委員会での審議・決定事項も考慮した上で、環境・社会リスク及び機会に対応する事業戦略・投資戦略の推進の監督(戦略の見直し・資産入替え判断を含む)を適切に行える体制としています。また執行レベルでは、サステナビリティ委員会にESG責任者を兼任する各カンパニー及び職能部署のマネジメントもコアメンバーとして参加し、サステナビリティ推進部と各カンパニー及び職能部署のESG推進担当から自然資本・生物多様性関連事項について報告を受け、各種施策・取組みの進捗管理・モニタリングを行っています。

また、サステナビリティ委員長及び各カンパニー・職能部署のマネジメント(ESG責任者)は、年1回外部専門家との対話「サステナビリティアドバイザリーボード」を行い、当社に対する社会の期待や要請も把握した上で環境施策を推進していきます。

ご参考:当社のサステナビリティに関するガバナンス体制

自然関連の人権とステークホルダーエンゲージメント

伊藤忠グループは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、「伊藤忠グループ人権方針」を定めています。本方針では当社グループの人権尊重の考え方を具体的に表明しており、人権デューデリジェンスの実施や潜在的に影響を受けるグループやステークホルダーとの対話・協議等について宣言しています。

また、当社グループが事業活動を行う国・地域の法律や「先住民の権利に関する国際連合宣言」、「国際労働機関(ILO) 第169号条約」等の国際的な取決めに定められた先住民の権利を尊重、配慮することを明確にした「先住民の権利の尊重」を個別方針として策定しています。新規の事業投資案件の検討にあたっては、当該事業が先住民の権利に及ぼす影響について事前のチェックを励行しており、事業開始後も定期的に人権デューデリジェンスを実施しています。自然資本への依存度の高い食品関連事業(食料カンパニー)、繊維関連事業(繊維カンパニー)、物資・資材関連事業(住生活カンパニー)及び影響度が高い金属関連事業(金属カンパニー)、コンシューマービジネス(第8カンパニー)においては、2019年度から2024年度までに人権デューデリジェンスを実施し、「地域社会・住民への影響」についても調査対象の人権リスク指標としました。

ご参考:人権

リスクと影響の管理

伊藤忠商事では、各国・各事業拠点の自然資本・生物多様性の変化が事業に与えるリスクを監視しています。グループ全体でのリスク分析において、特定された自然関連リスクは、主要なリスクの1つ(環境・社会リスク)として管理対象となります。また、特定された自然関連リスクは投資判断プロセス時に検討・評価し、それぞれのリスク管理責任部署において連結ベースでリスクの特定・評価・情報管理・モニタリング体制を構築しています。

自然関連リスクの特定・評価

伊藤忠商事は、リスク管理を経営の重要課題と認識し、COSO-ERMフレームワークの考え方を参考に、伊藤忠グループにおけるリスクマネジメントの基本方針を定め、必要なリスク管理体制及び手法を整備しています。当社グループの環境方針で示されている通り、当社は環境保全に関わる法規制の情報収集を行い、その遵守に努めています。また、ISO14001に基づく環境マネジメントシステム(EMS)を導入し、事業活動が環境・社会に与え得る影響を認識しています。グループ会社についても、実態の把握に努めています。

例えば、水については製造拠点における水リスクの把握・評価をWRI(世界資源研究所)が開発したWRI Aqueductツールを用いて実施しています。その他の自然関連リスクについても、後述の国際機関が定めた枠組みに則った特定・評価を定期的に実施しています。

ご参考:伊藤忠グループのリスクマネジメント

自然関連リスクの管理・全社リスクマネジメントシステムへの統合

伊藤忠商事は、その広範にわたる事業の性質上、市場リスク・信用リスク・投資リスクを始め、様々なリスクにさらされています。これらのリスクに対処するため、各種の社内委員会や責任部署を設置すると共に、各種管理規則、投資基準、リスク限度額・取引限度額の設定や報告・監視体制の整備等、必要なリスク管理体制及び管理手法を整備し、リスクを全社的に統合管理しています。

自然関連リスクは、主要なリスクの1つ(環境・社会リスク)としてグループリスク管理の対象としており、下表の各事業段階で、当社の広い事業活動(事業投資・商品トレード・物流・グループ会社/サプライチェーン経営戦略とポートフォリオ構築等)の評価手法に組み込まれています。

事業段階ごとの自然関連リスクマネジメント・評価手法

事業段階 評価手法
事業開始
  • 新規投資案件の自然関連リスクを含む環境・社会リスク評価
事業運営
  • 取扱商品の環境リスク評価(サプライチェーン全体でLCA評価)
  • グループ会社の環境実態調査(1年に2、3社)
  • サプライチェーン・サステナビリティ調査(取引先)
  • ISO14001に基づく内部環境監査
事業戦略の見直し
  • 事業戦略・資産入替えの検討

自然関連リスク管理体制

事業開始段階(新規事業投資案件における生物多様性の影響評価)

伊藤忠商事が取組む事業投資案件については、その案件が環境・社会に与える影響を「投資等に関わるESGチェックリスト」により事前に評価しており、例えばこれには生態系への影響や、資源の枯渇等の自然環境・生物多様性への影響有無の把握も含まれています。影響が認められる場合はリスクを分析し、必要に応じて外部の専門機関に追加のデューデリジェンスを依頼する等、問題がないことを確認した上で、投資を実行しています。

事業運営段階(バリューチェーンにおける生物多様性の影響評価)

取扱商品におけるサステナビリティリスク評価

伊藤忠商事は、新たな商品を取扱う際、商品の原材料の調達からその製造、使用並びに廃棄段階に至るまで、LCA的分析手法で環境・社会への影響や環境関連法規制の遵守状況、ステークホルダーとの関わり等を評価する商品別サステナビリティリスク評価を実施しています。バリューチェーン上で著しい自然関連リスクがある場合、当該商品を重点管理対象とし、各種規程・手順書・特定業務要因教育等を策定・実施しています。

サプライヤー向けサステナビリティ調査

サプライヤーの実態を把握するため、高リスク国・取扱商品・取扱金額等一定のガイドラインのもとに各カンパニー及び該当するグループ会社が重要サプライヤーを選定し、各カンパニーの営業担当者や海外現地法人及びグループ会社の担当者がサプライヤーを訪問しヒアリングを実施しています。また重要サプライヤーに対しては、アンケート形式のサステナビリティ調査も実施しており、生物多様性を含む自然資本への取組み状況を確認しています。必要に応じてサプライヤーに対して是正依頼を行う継続的改善を行っています。

TNFDフレームワークによる事業評価

スコーピング

伊藤忠商事は自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)によるTNFDフォーラムに参画しています。TNFDが推奨する手法が当社でも活用可能か確認するため、TNFDフレームワークを参考に、伊藤忠グループの事業について全事業の潜在的な自然資本への依存と影響について机上分析を行い、取組みの優先順位が高い事業を選定しました。

Phase 1

事業単位とプロセスの
対応付け

  • データソース「ENCORE」を活用し、分析に必要な情報を準備。
Phase 2

依存度・影響度の
評価方法検討

  • 評価アプローチの詳細を検討。
Phase 3

依存度・影響度マッピング&
定性的解釈

  • 事業ごとに依存度・影響度をマッピング。
  • 上述のマッピングの裏付けとなる定性的情報の整理。

スコーピングのステップ

具体的には、国連環境計画等が開発した自然資本影響評価ツール(ENCORE)を用いて、当社事業の上流下流も含めたバリューチェーン上で行われている活動工程をENCOREが定めたプロセス別に仕分けしました。その上で、類似したプロセスを持つ事業を集約した結果、28のグループになりました。グループごとに、当社のバリューチェーンにおける事業の関与度合い等も考慮しながら依存度・影響度それぞれのスコアを算出し、依存度については、各事業における自然資本への依存度を6段階で評価し、依存度スコアを総計しました。影響度についても同様に5段階で評価し、影響度スコアを総計しました。例えば、金属資源事業の評価は、以下のような要素に分解が可能であり、これら各事業プロセスの評価得点の平均値が本分析結果として表れています。

その結果を、縦軸:影響度、横軸:依存度として整理したところ、下図のような「依存度・影響度マッピング」となりました。

LEAPアプローチ

トライアル分析

ENCOREを活用したスコーピング(全事業評価)の妥当性を検証し、自然資本への依存・影響やそこから発露するリスク・機会の理解を深めるため、TNFDが提唱する自然資本に関する課題を統合的に評価するLEAPアプローチ※1を活用して、自然資本への影響度が高い事業を対象にLEAP分析を行いました。

Locate
  • 分析を行うスコープを決定の上、自社事業とバリューチェーンの活動地域を特定し、生物多様性や水リスクの観点から影響を受けやすい優先地域を特定する。
Evaluate
  • 影響を受けやすい優先地域における自然資本への依存と影響を特定する。
  • 重要な依存・影響について大きさと規模を評価するために、生態系サービス、インパクトドライバー、及び関連する自然資本を評価する。
Assess
  • 依存と影響の状況を踏まえて短・中・長期的なリスク・機会を評価する。
  • 現在のリスク管理状況を確認し、追加的に必要なリスク対応策を検討する。
Prepare
  • 重要な自然関連リスクと機会に関する評価を経営層に対してインプットし、戦略と資源配分、目標設定を検討。
  • TNFD提言に沿って開示。

LEAPアプローチの概要
自然関連問題の特定・評価のためのガイダンス:LEAPアプローチPDFファイルをもとに伊藤忠商事が整理

分析は、ENCOREを活用したスコーピングにおいて全事業の中で最も自然資本への影響度が大きいとされた金属資源事業のうち、特に影響度スコアの高い採掘プロセスを対象に行いました。

まず、Locate(発見する)分析では、TNFD LEAPアプローチガイダンスで示されている要注意地域に関する5つの定義とそれらの基準を整理したデータベースの指標※2に従い、生態学的に要注意と考えられる拠点を特定しました。また、事業の重要性を勘案の上、いくつかの拠点について、IUCN Global Ecosystem TypologyとGlobal Map of Ecoregionsを用いて、関連するバイオームや生態系の情報も特定し、自然資本への依存と影響についてEvaluate(診断する)分析を実施しました。なお、分析においては、TNFDの鉱業セクターガイダンスや現地の環境アセスメントの報告書を調査することで依存・影響の測定結果の精緻化に努めました。その結果、同事業の採掘プロセスについて、上述のスコーピングで示唆された通り、自然資本への影響の程度が大きいことが確認されました。

その後、金属資源事業の営業担当者と共に、各案件に関わる過去の環境アセスメント関連資料、各種許認可の状況についてサンプリング調査の形式で具体的な対応策の状況について確認をしました。当社は金属資源事業の運営にあたり、事業活動が与える自然資本への影響の程度を認識し、従来より厳格な環境アセスメントを行った上で開発を行っており、閉山ポリシーも設けて将来的な環境影響の低減に努めていることが確認できました。

ご参考:鉱山事業の閉山方針

  1. TNFDにより開発された、Locate(発見する)、Evaluate(診断する)、Assess(評価する)、Prepare(準備する)という4つのステップで構成された対象事業の自然関連課題を明確にする手法
  2. 使用したデータベース:WWF Biodiversity Risk Filter、WWF Water Risk Filter、STAR、Biodiversity Intactness Index、Ecoregion Intactness Index、Critical Natural Asset layers、IBAT

天然ゴム事業

金属資源事業の分析を通じて当社の事業分析におけるLEAPアプローチの可用性が確認されたため、当社事業の中でも自然資本への依存度が比較的高い天然ゴム事業を対象にLEAP分析を行いました。天然ゴムはScience Based Targets Network(SBTN)が、自然資本への影響が大きいとされる商材をまとめたHigh Impact Commodity Listにも含まれています。また、一般的に天然ゴムの栽培においては、小規模農家の人権問題や貧困問題といった社会課題も深刻であると言われています。これらの点を踏まえ、天然ゴム事業についてのLEAP分析を行い、同事業の自然資本への依存や影響への理解を深め、リスク低減や機会創出につなげる意義が高いと判断しました。

  • 科学に基づいた自然関連の目標設定方法の開発を行う国際的なイニシアティブ

天然ゴム事業の依存度と影響度を事業プロセスごとに評価した結果、調達(天然ゴムの栽培)と製造(ゴム加工)プロセスで特に依存度が高いことがわかりました。そのため、本分析においては、これら2つのプロセスに焦点を当てることとしました。

Locate

当社が取扱う天然ゴムは、インドネシア産が中心です。同国の調達先全農村と当社子会社の天然ゴム加工会社PT. Aneka Bumi Pratama (ABP社)の工場について、以下の表にあるデータベースを用いて、生態学的に要注意と考えられる地域と関わりのある拠点を特定しました。

要注意地域の判断基準 使用したデータベース
1. 生物多様性にとって重要
  • WWF Biodiversity Risk Filter
  • STAR(Species Threat Abatement Restoration metric)
2. 生態系の完全性が高い
  • BII(Biodiversity Intactness Index)
3. 生態系の完全性が急速に低下
  • Ecoregion Intactness Index
4. 物理的な水リスクが高い
  • WWF Water Risk Filter
5. 先住民、地域コミュニティ、ステークホルダーへの便益を含む生態系サービスの提供にとって重要
  • Critical Natural Asset layers

それぞれのデータベースから得られる指標を参考に全農村と加工工場を5段階評価したところ、「2. 生態系の完全性が高い」について要注意地域に該当する農村数が約89%となり、調達重量ベースでも約85%の農村が含まれる結果となりました。また、農村に近接する工場拠点も保護地域に近く「1. 生物多様性にとって重要」として多くが要注意地域に該当することがわかりました。生態系の完全性が高い地域とは、環境資産を保護し、生態系サービスを維持するための大きな機会も含んでいる可能性がある保全価値の高い地域です。当社は、保護林エリア周辺の農地開拓と違法伐採を止めるための取組みであるPROJECT TREEを通じて、生産拠点の生態系及び生物多様性の保護に取組んでいます。

Evaluate

天然ゴムの栽培、ゴム加工プロセスにおける自然資本への依存と影響を文献調査により洗い出しました。
文献調査では、GPSNR(持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム)が発行している「ゴム栽培と加工における環境リスク評価レポート(Environmental Risk Assessment of Natural Rubber Production and Processing)」を使用しました。
天然ゴムの栽培プロセスは、バイオマスや遺伝資源の供給、気候サービスや土壌の質、自然の持つ浄化や減災機能にとても強く依存しており、土地利用の転換や廃棄物の排出等が自然に大きな影響を与えることがわかりました。
また、天然ゴムの加工プロセスは、水源(河川)に強く依存し、水使用量や土壌汚染が自然に大きな影響を与えることがわかりました。更に、これらの文献調査を踏まえて、当社事業において実際に依存及び影響が大きいか、現地での数年間の駐在経験がある従業員が現場目線で精査しました。

Assess

Evaluateで洗い出した天然ゴムの栽培及び加工プロセスにおける一般的な依存・影響の調査結果をもとに、当社の事業にとってどのような自然関連のリスクや機会があるのかを検討しました。TNFDのLEAPアプローチガイダンス及びセクターガイダンス(食品と農業)をもとに、天然ゴム事業におけるリスクと機会に関するロングリストを作成し、Evaluateと同様に現場目線で内容を精査しました。
更に、2030年時点の将来シナリオを想定し、リスク・機会の重要性を3段階(低・中・高)で評価しました。
TNFDガイドラインでは「生態系サービスの劣化度(物理的リスク)」と「市場原理と非市場原理の一貫性(移行リスク)」の2軸で4つのシナリオを想定しています。当社として現時点は「Go Fast or Go Home(自然の喪失による損害は甚大であり、自然への関心も高く協調的なシナリオ)」の状況にあると判断し、リスク・機会の強度と発生可能性の観点から重要性評価を実施しました。
これらのAssessの結果、Evaluateで実施した机上分析では、例えば土壌汚染について自然への影響が大きいとされましたが、当社が経営する工場では適切な排水処理等の対策を行っており、リスクは大きくないことがわかりました。

#1 Ahead of the Game

  • 脱炭素・気候変動対応が積極的に進み、ネイチャーポジティブに向けた政策や地域の環境配慮が加速する。
  • 一方で、自然破壊の程度は軽微に収まる。
  • 企業が積極的に自然資本への行動を起こす余地がある一方、自然資本への行動がカーボンニュートラルへ好影響を与えることの立証が難しく、懐疑心が強まる。

#2 Go Fast or Go Home

  • ビジネスが急速に重大な自然破壊を招き、速やかかつ組織的な行動の開始を促す必要がある状況。
  • 気候変動を含めた自然資本が大きな課題として認識され、世間の注目を集め、政策の転換に至る。
  • マクロ経済上の変化が自然資本への行動を早め、ネイチャーポジティブに関連する技術投資を急速に促す。

#3 Sand in the Gears

  • 自然資本の毀損が進行するものの、複雑さに阻まれ、政策や金融の動きは遅れる
  • 企業は深刻な事業の中断を避けるために、コストや負の影響を外部化させたり、短期的に自然資本を過剰消費する歪んだインセンティブも働く。
  • 先進国·途上国の格差が、自然資本を巡って拡大する。

#4 Back of the List

  • 自然の優先順位は下がるが、低炭素化に向けた資金調達、技術進歩、企業変革は自然の問題に対して一定程度効果があると思われるため進展する。
  • 企業は短期的には自然資本への影響を低減する方向に舵を切る一方、費用回収の見込みが立てられず、長期戦略の立案は見送る
TNFDガイドラインで示されている4シナリオの概要
Guidance on scenario analysisPDFファイルをもとに伊藤忠商事が整理

最後に、重要性が高いと評価されたリスクと機会について対応策を整理・検討しました。
机上分析では、天然ゴム事業に該当するリスクとして洪水等の自然災害が該当しましたが、当社は水害の発生回数が低い立地で事業を行っており、その他のリスクと機会についても既に対応策を講じています。また、2019年からPROJECT TREE というサステナブルな天然ゴムの生産プロジェクトを立ち上げて、機会の実現も進めています。各リスク・機会への対応についての詳細は以下の表の通りです。

<リスク>
区分 事業
プロセス
内容 対応状況 重要性
物理的リスク 急性 調達 クローン個体で形成されるゴム農園の病気への脆弱性により、病原菌やウイルスが蔓延することによる天然ゴムの収量低下 PROJECT TREEにおいて、適切な農園管理により病原菌やウイルスが蔓延しづらい状態に保つことの重要性に関する教育活動を実施
パラゴムノキの単一栽培が続くことで土壌中の微生物の多様性が減少し、根白腐病が蔓延することによる収量低下、品質低下 PROJECT TREEにおいて、根白腐病対策としてアグロフォレストリーを含む他品種作物の栽培を農家に推奨
集中豪雨・洪水・台風等の自然災害の増加による天然ゴム栽培の継続性喪失 購買地域を工場所在地近郊のみならず、スマトラ島南部全体に分散
気候変動に起因する栽培適温からの逸脱、日照不足、降雨パターンの変化等に伴うゴムの木の生育不良、収量低下 PROJECT TREEにおいて、適切な農園管理に関する教育活動を実施
加工 気候変動に起因する異常気象や自然災害による工場インフラの損傷や工場停止 過去の発災時に、洪水等の自然災害にすみやかに対応可能であることを確認済
洪水時における適切な取水不能
水質基準を超過した排水の河川への流出による、河川と流域土壌の汚染 排水処理設備を備え、排水の水質調査を毎時実施
慢性 調達 ゴム農園による化学肥料の多量使用や、産業活動に伴う周辺の水質・土壌劣化による天然ゴムの収量低下、品質低下 PROJECT TREEにおいて、汚染原因となる化学薬品や排水処理に関する教育活動を実施
病原菌、害虫、害獣の増加による天然ゴムの収量低下 PROJECT TREEにおいて、適切な農園管理に関する教育活動を実施
移行リスク 政策・
法規制
調達 持続可能性やトレーサビリティに関する規制導入・厳格化 トレーサビリティを確保し、天然ゴムの持続可能性を高める活動であるPROJECT TREEを更に拡大、TREE+の導入推進
ゴム農園周辺の環境保護を目的とした法規制の導入・変更、報告義務の強化 PROJECT TREEを通じ、小規模農家への法規制に関する周知・教育によって法規制対応を推進
加工 ゴム加工工場による負の環境影響からの保護を目的とした法規制の導入・変更、報告義務の強化 環境関連データの整備を進め、必要に応じて改善
市場 調達 自然への負の影響が小さい、持続可能な方法で生産・製造された商品に対する需要増等の顧客の嗜好変化 PROJECT TREEを通じ、持続可能な天然ゴム生産を小規模農家に広め、市場に供給
収益性の変化によりゴム農家が転作することによる調達先の減少 PROJECT TREEにより農家が適切な対価を得られる仕組みを整え、ゴム農家の転作を抑制(売上の一部還元等)
加工 環境負荷の少ない製造工程の構築や、資源効率向上のための設備導入等ネイチャーポジティブな生産方法への移行 天然ゴム乾燥の熱源としてバイオマスを導入済みであり、ネイチャーポジティブな生産方法への移行を常に検討
技術 調達 ゴム農家へのスマートフォンの普及停滞によるトレーサビリティ確保推進の遅延 農家に対するスマートフォン無償提供を計画中
評判 調達 自然管理が不十分な農園からの天然ゴム調達による、消費者や投資家からの批判増加、ブランド価値の低下 PROJECT TREEにおける農家のリスクアセスメントにより、自然管理が不十分な農園を特定・改善
サステナビリティ等を謳ったプロジェクトが実態を伴っていないことによる、グリーンウォッシュ批判の発生 PROJECT TREEは国際NGOのProforest、SNVの協力、指導を得て推進
加工 環境マネジメントの管理不足やそれに伴う環境事故による、認証の取消しや企業価値の毀損 外部機関によるISO監査に加え、天然ゴム加工会社であるABP社の社内でも年に1度の内部監査を実施し、認証取消しリスクを低減
責任 調達 上流サプライヤーから排出される廃棄物、汚染物質起因の悪臭や水質汚染による、地域コミュニティからの訴訟や罰金 PROJECT TREEにおいて、農家に対する汚水処理、廃棄物処理に関する教育活動を実施
加工 工場から生じた有害汚染物質や内分泌攪乱物質由来の健康被害等による周辺コミュニティからの訴訟や罰金 汚水処理、排気処理、廃棄物処理に関してはルールに従い適切に処理をして排出
  • トレーサビリティを確保し、EUDR(欧州森林破壊防止規則)に対応している天然ゴム
<機会>
区分 事業
プロセス
内容 対応状況 重要性
企業に関するパフォマンス 資源効率 調達 PROJECT TREEによる天然ゴム供給の高効率化 PROJECT TREEにおいて、天然ゴムの収量増に寄与する農業技術支援・教育活動を展開
品種改良(自然災害や病害、高温への耐性、不稔化等) PROJECT TREEにおいて、ABP社の主要取引先が自社農園において改良した品種を小規模農家へ配布計画中
ブロックチェーン等技術を活用したトレーサビリティの促進 自社で開発したブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティシステムを用いてデータ収集中。データを活用した物流の効率化やCO2排出量の削減を検討中
加工 廃タイヤの回収工程、再生加工の効率化 当社が資本参加している(株)ナルネットコミュニケーションズ向けのタイヤ配送網を活用した、廃タイヤの回収及び回収タイヤの中古タイヤショップへの販売を検討中
製品・
サービス
調達 サステナビリティ認証された天然ゴムの提供増加 PROJECT TREEを通じたEUDR対応品の供給に注力。タイヤメーカーのEUDR対応品に対する高い需要に対応中
加工 廃タイヤ回収によるリサイクル製品の提供増加 回収した廃タイヤのうち、まだ使用可能なものは、中古タイヤショップ経由で消費者に再販予定
市場 調達 持続可能な天然ゴムの供給によるブランド価値の維持、市場での優位性の確保 PROJECT TREEのブランド価値向上により当該天然ゴムの流通量が増加し小規模農家のインセンティブ収入が増加
昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF) 2030及び2050の目標に合致した事業戦略の策定 PROJECT TREEでは「保護エリア周辺の農地開拓と違法伐採を止めること」を目的としており、GBF「ターゲット1空間計画の策定と効果的管理」を推進可能
資本フロー&資金調達 調達 自然関連や環境に配慮したファンド、債券、またはローンへのアクセス 金融機関がPROJECT TREE参加企業に対してサステナビリティリンクローンの提供を提案する等、PROJECT TREE参加企業全体への資金調達力増強を期待
持続可能性に関するパフォマンス 自然資源の持続可能な利用 調達 自然への正の影響を増加/負の影響を減少させるプロセスへの移行 PROJECT TREEでは保護林での違法伐採を回避させることでネイチャーポジティブに貢献。また、常にネイチャーポジティブな生産方法への移行を検討
加工 リサイクルシステムの確立による自然への正の影響を増加/負の影響を減少させるプロセスへの移行 これまで廃棄されていたタイヤを再利用することによる環境負荷の低減を目指す

なお、本パートでは適切にリスクを認識し低減していくため、リスクについては「中」または「高」と評価されたもの、機会については「高」と評価されたものを対象にしました。

Prepare

重要なリスクを低減し、機会を創出していく上では農家と協働しながらトレーサビリティの確保及び環境への影響を低減することが重要です。TNFDが開示を推奨しているコアグローバル指標及び、分析結果を踏まえて検討した当社固有の収集指標は次の通りです。

<指標>
測定指標番号 区分/指標 収集指標 (参考)関連するリスク・機会
C3.1 陸地・海洋・淡水由来の高リスクの自然商品の量
  • ABP社における天然ゴム調達数量(約197千t)
  • 集中豪雨・洪水・台風等の自然災害の増加による天然ゴム栽培の継続性喪失
  • 自社のインフラ劣化を抑制することによる設備投資サイクル期間の延長
C1.1
FA.C1.0
土地・淡水・海洋利用の変化(再生可能または持続可能な土地管理)
森林破壊のない製品
  • 集中豪雨・洪水・台風等の自然災害の増加による天然ゴム栽培の継続性喪失
  • PROJECT TREEによる天然ゴム供給の高効率化
  • 自社のインフラ劣化を抑制することによる設備投資サイクル期間の延長
  • 降水や河川水を貯める貯水池の整備等で、安定した量の水を確保できることによる工場の操業の安定化
  • バイオマス由来の再生可能エネルギーであるPKS(パーム椰子殻)由来電力の利用の拡大
  • 廃タイヤの回収工程、再生加工の効率化
A22.0、A22.1、A22.2、A22.3、A22.4 バリューチェーン
  • 集中豪雨・洪水・台風等の自然災害の増加による天然ゴム栽培の継続性喪失
  • PROJECT TREEによる天然ゴム供給の高効率化
  • 貯水池、水田、散水装置等のインフラ整備による自然災害に対する事業継続性の向上
  • 自社のインフラ劣化を抑制することによる設備投資サイクル期間の延長
  • 降水や河川水を貯める貯水池の整備等で、安定した量の水を確保できることによる工場の操業の安定化
当社固有 物理的リスク
  • クローン個体で形成されるゴム農園の病気への脆弱性により、病原菌やウイルスが蔓延することによる天然ゴムの収量低下
  • 気候変動による栽培適温からの逸脱、日照不足、降雨パターンの変化等に伴うゴムの木の生育不良、収量低下
  • 大気汚染・土壌汚染・水質汚染によるパラゴムノキの生育不良、収量低下、品質低下
  • 水質基準を超過した排水の河川への流出による、河川と流域土壌の汚染
  • 農園による化学肥料の多量使用や、周辺の産業活動に伴う周辺の水質・土壌劣化による天然ゴムの収量低下、品質低下
  • 病原菌、害虫、害獣の増加による天然ゴムの収量低下
  • 不十分な自然管理を行っている農園からの天然ゴムの調達による、消費者や投資家からの批判増加、ブランド価値の低下
当社固有 移行リスク
  • 持続可能性やトレーサビリティに関する規制導入・厳格化への対応
  • ゴム農園周辺の環境保護を目的とした法規制の導入・変更、報告義務の強化
  • 自然への負の影響の小さい、持続可能な方法で生産・製造された商品への顧客の嗜好変化
  • 環境負荷の少ない製造工程の構築や、資源効率向上のための設備導入等ネイチャーポジティブな生産方法への移行に向けた対応
  • スマートフォンの普及がゴム農家の中で伸び悩むことによるトレーサビリティ確保推進の停滞
  • 不十分な自然管理を行っている農園からの天然ゴムの調達による、消費者や投資家からの批判増加、ブランド価値の低下
  • 環境マネジメントの管理不足やそれに伴う環境事故による、認証の取消しや企業価値の毀損
  • 工場から生じた有害汚染物質や撹乱由来の健康被害等による周辺コミュニティからの訴訟や罰金

この他にも、水の使用量やCO2排出量等の指標について情報収集を行っています。数値目標の設定についても検討していきます。

PROJECT TREE

天然ゴムを持続的に調達するためには、環境と人権双方への負の影響を低減することが重要です。そのためには、天然ゴムが保護区域で生産されていないか、子どもたちがその生産のために労働を強いられていないか等を確かめることが大切ですが、天然ゴム栽培のほとんどは小規模農家が担っており、トレーサビリティの確保が難しい状況にあります。当社では、天然ゴムの調達方針PDFファイルを定める他、持続可能な天然ゴムのための新たなグローバルプラットフォーム「Global Platform for Sustainable Natural Rubber(GPSNR)」に日本の商社で唯一設立メンバーとして参画しています。
この他、注力している取組みが、当社の天然ゴム事業で独自に開発したサプライチェーン管理システムを活用したPROJECT TREEです。同取組みでは、ブロックチェーン技術をベースに当社が開発したトレーサビリティシステムを活用しています。スマートフォンアプリを通じて各農家の農園位置、天然ゴムの取引内容・日時・位置情報等がブロックチェーン上に記録され、地図上で確認することができます。小規模農家から集荷業者、輸送業者を経て納入された原料は、当社子会社ABP社での加工を経て、原産地情報付きの天然ゴム素材としてタイヤメーカーへ販売されます。そこで生産されるPROJECT TREE協賛タイヤの売上の一部から原料サプライヤーである小規模農家へプレミアムを支払うことで小規模農家の生活水準向上に貢献しています。また、本事業に対応した天然ゴムの取扱量増加のため、小規模農家に対しスマートフォンを無償で配布し、参画農家の増加とトレーサビリティの更なる向上に努めています。加えて、取組みの一環として最適な農園管理や排水処理に関して教育活動を行っており、持続可能な農業の実現に向けて農家と一緒に推進しています。

ご参考:PROJECT TREEウェブサイト別ウインドウで開きます

依存度の高い事業における取組み

伊藤忠商事における自然資本への依存度が高い事業は、森林コモディティ(食料、木材、天然ゴム、パーム油等)の調達、製造、加工、流通です。これらの事業の持続可能性を高めるため、商品ごとに調達方針を定め、トレーサビリティにより調達地域を特定できる国際的な第三者認証品の調達等に努めています。

ご参考:商品ごとの調達方針

当社ではSBTNがSBTs for Nature(自然に関する科学に基づく目標設定)ガイダンスにて発表したAR3Tアクション・フレームワークのミティゲーション・ヒエラルキーの枠組みを使用し、自然資本への依存度の高い事業における取組みを回避、軽減、復元・再生、変革的行動の4つに分類して整理しました。

回避
Avoid
マイナスの影響を未然に防ぐ、完全に排除する
例:サステナブルな代替原料、包装資材の採用
軽減
Reduce
完全に除去できない負の影響を最小化する
例:廃棄物や汚染物質排出の低減
復元
Restore
生態系の健全性、完全性、持続可能性に関して、生態系の回復を開始または促進する
例:事業活動上、改変した土地の土壌の改善や植林
再生
Regenerate
土地/海洋/淡水の利用の範囲内で計画した行動をとり、そこの生態系や構成要素の機能や生産性を高める
例:絶滅危惧種の保護
変革的行動
Transform
バリューチェーンの内外において必要とされる体系的な変化に組織が対応し貢献するために行動を変革する
例:販売や製造モデルの開発、イニシアティブへの参加

ミティゲーション・ヒエラルキーの概要
Science Based Targets Networkウェブサイト別ウインドウで開きます及びTNFDによる提言PDFファイルをもとに伊藤忠商事が整理

  • 事業による自然資本への負の影響を抑えるためのツール。生物多様性へのリスク(野生生物の生息地の消失等)や、地域社会への影響(健康に影響を与えうる汚染物質の放出)を予測、回避あるいは最小限に留め、万が一生じてしまった負の影響は極力回復させるというアプローチを示したもの

上述の結果、当社では自然関連リスク低減のために、SBT for Natureが最優先で取組むべきとする「回避」や「軽減」に関わるアクションを積極的に実施できていることがわかりました。今後も当社では、ネイチャーポジティブの実現に向け、AR3Tのアクションを更に推進していきます。

AR3Tアクション・フレームワークに沿った取組みの整理結果
大分類 コモディティ 具体的取組み
森林資源 木材 回避 認証材、または高度な管理が確認できる材の取扱い比率は100%
変革 NGOとのエンゲージメントの実施
天然ゴム 変革 GPSNR(持続可能な天然ゴムのための新たなグローバルプラットフォーム)に設立メンバーとして参画、プラットフォームの基準の策定と、その運用に協力
パーム油 回避 ミルレベルまでのトレーサビリティ100%を達成
変革 「パームオイルのための円卓会議(RSPO)」に加盟し、取組みを推進
バイオマス燃料 回避 PEFC認証、FSC認証等の第三者認証制度に則り合法性証明を取得した木質バイオマス燃料を調達
食品 カカオ豆・
コーヒー豆
回避 カカオ豆のトレーサビリティ強化
回避 サステナブル認証のコーヒー豆の取扱強化
変革 生産性向上のための農業技術の供与といった小規模農家の技術支援を実施
乳製品 軽減 ニュージーランドでは定期的に放牧地を変えながら乳牛を飼育することで生態系の劣化を軽減
食肉 回避 全ての食肉のサプライヤーで100%、生産段階までトレースバックができる仕組みを構築
水産物 回避 MSC(Marine Stewardship Council)における流通業者の認証、CoC(Chain of Custody Certificate)認証を取得
変革 MSC認証が限定的である鰹鮪類について、漁業者に対する働きかけを実施
青果物 軽減 Dole事業におけるクリーンエネルギーの使用
繊維原料 コットン 回避 インドのオーガニックコットン調達ではGOTS認証を取得しており、100%トレーサブル
環境配慮型素材 軽減 循環型経済の実現を目指す「RENU®」プロジェクトを始動させ、再生ポリエステルの展開を開始
アパレル アウトドア
アパレル
復元・
再生
チャリティーグッズを企画・販売し、その売上の一部を熱帯雨林回復のための土地購入資金やボルネオ象の保護に活用

事業関連地域における取組み

伊藤忠商事は、ステークホルダーと共同して、絶滅のおそれのある野生生物の保全活動を実施しています。

指標と目標

伊藤忠商事は、サプライチェーンを含む事業の取扱商品における製品認証とトレーサビリティによる生物多様性保全と、事業に密接に関連している地域での生物多様性保全に資する社会貢献活動を実施しています。当社は森林資源(木材、木材製品、製紙用原料及び紙製品、天然ゴム、パーム油)・乳製品・食肉・水産物・繊維原料を生物多様性に関わる重要な取扱商品と捉えており、それらに関する情報開示と目標設定に努めています。

事業活動における目標

区分・方向性 目標 2024年度の実績 SDGs
生物多様性の保全
伊藤忠商事の取扱商品と実施するプロジェクトのサプライチェーンでの生物多様性保全へのインパクトを減らす
2025年までに、自然関連リスクが高いと考えられる投資案件(水力・鉱山・船舶等)全てにおいて、自然資本・生物多様性に重点を置いたESGリスク評価を再度実施し、必要な場合は改善計画を実施する。
  • ESGチェックリストを改訂し、新規事業投資における自然関連リスクの状況を把握するスキームを構築。
  • TNFD フォーラムへ参画し、自然関連リスク・機会の分析を行うためのツールの使用を開始。
生物の多様性の構成要素の持続可能な利用
森林・水産・農産物等の資源を、将来にわたって安定して生産・供給していくために、資源の持続的な利用を強化する取組みを実施していく
  • 木材、木材製品、製紙用原料及び紙製品:認証材、または高度な管理が確認できる材の取扱比率を2025年までに100%とする。
  • パーム油:2030年までに当社が調達する全パーム油を持続可能なパーム油※1に切り替える。特にNDPE原則※2に基づく調達の実現を目指す。
  • コーヒー豆:2030年までに当社が調達するコーヒー豆の50%をサステナブル認証を取得したコーヒー豆とする。
  • 当社取扱水産原料:MSC※3/CoC※4原料取扱量を、2025年までに15,000t/年を目指す。
  • 認証材、または高度な管理が確認できる材の取扱比率は、パルプ・木材で100%、チップで100%。
  • パーム油は2024年度のミルレベルまでのトレーサビリティは100%。
  • コーヒー豆の調達に占めるサステナブル・コーヒー豆の比率は2024年度実績32%。
  • 水産原料に占めるMSC/CoC数量は2024年度12,500t。
  1. 持続可能なパーム油:RSPO及びこれに準ずる基準に応じたサプライチェーンから供給されるパーム油
  2. NDPE(No Deforestation, No Peat, No Exploitation):森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ
  3. MSC(Marine Stewardship Council、海洋管理協議会):1997年設立の持続可能な漁業の普及に取組む国際NPO。本部はイギリスのロンドン
  4. CoC (Chain of Custody Certificate): MSCにおける「加工・流通過程の管理」において、MSC認証を受けた水産物・製品のトレーサビリティを確保するための加工・流通業者に対する認証

ご参考:商品ごとの調達方針

事業関連地域における目標

実績

事業活動における実績

事業関連地域における実績

アクションプラン

マテリアリティ SDGs
目標
インパクト
分類
取組む
べき課題
事業分野 コミットメント 具体的対応アプローチ 成果指標 進捗度合(レビュー)
繊維カンパニー
安定的な調達・供給
汚染防止と資源循環 資源循環による環境負荷の低減 繊維製品全般 サステナブルな繊維製品の取扱い、及びリサイクルを通じて循環型社会の実現に貢献します。 環境配慮型商品の取扱い、並びに資源リサイクルに繋がる取組みの推進。 繊維由来の再生ポリエステル「RENU」等、サステナブル素材の普及促進、及び繊維製品を再資源化する仕組みの構築。
  • RENUプロジェクトによる再生ポリエステル取扱いの環境インパクトは以下の通り(2024年度見込み)。原材料として投入した廃棄物 Tシャツ換算 6.2百万枚、CO2削減量 1,906トン、水の削減量 6,416キロリットル。
  • 不要となった衣料品の回収サービス「Wear to Fashion」における回収拠点約4,300か所(2025年3月現在)。
  • 繊維と化学品の共同案件である「ARChemiaプロジェクト」により、使用済み衣料品を環境付加価値の高い化学製品に生まれ変わらせるプロジェクトを運用中。これまで10社を超える法人で当プロジェクトの採用が決定し、引続き取組みの拡大を推進。
金属カンパニー
  • 人権の尊重・配慮
  • 安定的な調達・供給
  • 鉱山
  • 電力・鉱山・油ガス田
労働安全・衛生・環境リスクに配慮した、また地域社会へ貢献する持続可能な鉱山開発 鉱山事業
  • 環境・衛生・労働安全(EHS)や地域住民との共生に十分配慮し、持続可能な鉱山事業を推進します。
  • 地域社会への医療、教育等に貢献します。
  • EHSガイドラインの運用並びに社員教育を徹底。
  • 地域社会への医療・教育寄付、地域インフラ整備等の貢献。
  • 毎年EHS社内講習会を開催しEHSガイドラインを周知徹底。
    • EHS講習会受講率100%。
    • 操業中・継続保有方針の既存鉱山事業及び新規鉱山事業に対するEHSチェック実行率100%。
  • 地域社会への医療・教育寄付、地域インフラ整備の実施。
    • 操業中・継続保有方針の全プロジェクトでのCSR活動の実施(100%)。
  • 主管者や事業投資に従事する課に属する従業員を中心に、EHSガイドラインに関する社内講習会を実施。対象者の受講率は100%。
  • 鉱山事業では、新規1案件、既存9案件、その他資源関連事業1案件に対して、チェックシートを用いた確認作業を実施。
  • 出資する各プロジェクトにおいて、地域社会への貢献活動を実施。
食料カンパニー
気候変動への取組み(脱炭素社会への寄与)
GHG排出量 気候変動への取組み 生鮮食品分野 気候変動対策に資する施策を検討・推進します。 Dole事業におけるクリーンエネルギーの活用。
  • Dole Philippines.のバイオガスプラントへの残渣投入量。
  • クリーンエネルギー利用によるGHG削減量。

2024年度実績

  • バイオガスプラント残渣投入実績:128,984t
    パイン生産数量減少に伴い前年比減。
  • Dole事業内クリーンエネルギー利用によるGHG削減量:126,786t CO2e
    バイオマス※1活用により前年比増。
  1. ボイラー燃料として軽油に代替するもみ殻を使用
  • 人権の尊重・配慮
  • 安定的な調達・供給
サプライチェーン 人権・環境に配慮したサプライチェーンの確立 食糧分野 第三者機関の認証や取引先独自の行動規範に準拠した調達体制の整備を行います。
  • コーヒー豆、カカオ豆産地国において、取引先独自の行動規範に準拠した調達の推進。
  • パーム油の第三者認証団体であるRSPOの認証油の取扱強化。
  • 生産国の認証油システムの利用を促すため、国内業界団体と協力し、MSPO/ISPOの国内におけるプロモーションや流通制度の確立を支援。
  • コーヒー豆:当社調達方針に基づき、取引先独自の行動規範に準拠した商品もしくは認証品の調達を推進。
  • カカオ豆:当社調達方針に基づき、取引先独自の行動規範に準拠した商品(サステナブル品)の調達を推進。
  • パーム油:当社調達方針に基づく調達を行い、設定したKPI項目・サプライヤー情報等の開示を推進。

2030年

  • コーヒー豆:サステナブルコーヒー豆への切替50%を目指す。
  • カカオ豆:サステナブルカカオ豆への切替100%を目指す。
  • 持続可能なパーム油への切替100%を目指す。
  • コーヒー豆:2024年度 取扱比率 32%
    コーヒー相場が史上最高値を更新する中、顧客各社がコスト削減で認証原料使用比率を引き下げ。取扱比率は前年比で減少したが、目標値(30%以上)は達成。
  • カカオ豆(トレーサブル品):2024年度 取扱比率 65%
    (総量7,728MTのうち、トレーサブル豆4,984MT)
  • パーム油:2024年度 取扱比率(RSPO認証品)
    • パーム油 36%
    • オレオケミカル製品 69%
    サプライヤーへの定期的なアンケート調査等を通じて調達方針の確認を実施。並行して認証品の取扱比率や搾油工場までのトレーサブル比率等の開示継続。

各産地国への支援実績(定性)

  • コーヒー豆:次世代育成支援/エチオピア
    エチオピアのコーヒー豆産地における衛生環境及び教育水準向上に貢献するため、学校へのトイレ建設及びコーヒー生産の歴史・文化を継承していくための教材等を提供。
  • 人権の尊重・配慮
  • 安定的な調達・供給
サプライチェーン 責任ある水産資源調達 生鮮食品分野 第三者機関の認証や取引先または当社の独自の行動規範に準拠した調達体制の整備を行います。 水産物(鰹鮪類)産地国において、取引先独自の行動規範に準拠した調達の推進。 MSC認証原料の取扱数量。
  • 2025年2月に既存のMSC漁業認証団体に1隻追加、合計26隻体制。
  • 2024年度の取扱数量は12,500t(全体の約6%)。
    (参考)
    2022年7月に6隻、2023年6月に19隻のMSC漁業認証取得済み。
住生活カンパニー
  • 気候変動への取組み(脱炭素社会への寄与)
  • 安定的な調達・供給
森林 持続可能な森林資源の利用
  • パルプ
  • チップ
  • 木材
環境への影響を軽減し温室効果ガスの増加を防ぐため、持続可能な森林資源を取扱います。 認証材または高度な管理が確認できる材を取扱う。 取扱う材における、認証材または高度な管理が確認できる材の比率を100%とする。 2024年度に取扱う材における、認証材または高度な管理が確認できる材の取扱比率は、パルプ・チップ・木材とも100%。
  • 人権の尊重・配慮
  • 安定的な調達・供給
  • 森林
  • サプライチェーン
天然ゴムの持続可能な供給の実現 天然ゴム
  • 保護地域、泥炭地域の開発、及び先住民からの土地強奪等に関わるサプライヤーの特定に取組み、当該サプライヤーからの調達を防止します。
  • 特に小規模生産者を中心とする天然ゴム生産者に対し、現代奴隷問題を含めたリスクアセスメント、生産量と品質を改善するための研修の実施、または支援します。
  • 原料収穫地が不透明な原料調達サプライチェーンを透明化すべく、トレーサビリティシステムを構築する。
  • 独自取組み「PROJECT TREE別ウインドウで開きます」のサステナビリティ活動を通じて、生産性向上のための研修を実施する。
  • 天然ゴム加工事業でトレーサビリティ、サステナビリティが確保された原料調達を目指す(2025年天然ゴム原料のトレーサビリティ100%)。
  • サステナビリティ教育活動実施農家数を増やし、業界のサステナビリティ実現に貢献する。
  • サプライヤーの自己申告によってトレーサビリティが確保された原料調達比率は100%。
  • 伊藤忠の開発したシステムによって小規模農家までのトレーサビリティが確保された原料比率は月間購買数量の24%に到達。
  • サステナビリティ教育活動実施農家数は11,991人/年
  • 2024年1月~2024年12月実績ベース

外部との協働

イニシアティブへの参画(財界・業界団体を通じた活動)

経団連生物多様性イニシアチブのロゴマーク

当社は、一般社団法人日本経済団体連合会に参加しており、ブラジルのリオデジャネイロで国連環境開発会議(地球サミット)が開催された1992年設立の経団連自然保護協議会を通じて、アジア太平洋地域を主とする開発途上地域や国内の自然保護プロジェクトを支援すると共に、NGO等との交流、セミナーやシンポジウムの開催、「経団連自然保護宣言」や「経団連生物多様性宣言」とその行動指針の公表(2018年10月改定)等、経済界が自然保護に取組む環境づくりに努めています。また、2020年6月11日に発表された「経団連生物多様性宣言イニシアチブ」にも賛同を表明しています。更に、TNFDの議論を加速させるために2021年9月に設立されたTNFDフォーラムにも参画しています。2024年10月にはTNFD提言に基づく情報開示への意思を宣言するTNFD Adoptersにも登録しました。

外部機関との協働

森林コモディティ(食料、木材、天然ゴム、パーム油等)等、自然資本への依存度が高い事業については、持続可能な事業活動の実現に向けて、業態全体での取組みが特に重要です。

伊藤忠商事は、2006年に持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)に参加し、2030年までにRSPO認証ないしはそれに準ずるパーム油100%取扱いを目標に掲げ、他メンバー企業との連携・協業等を通じて、持続可能なパーム油の調達・供給に取組んでいます。また、Zoological Society of London(ZSL)によるプロジェクトで、大手パーム油関連企業について50以上の指標を公開データに基づき評価を行っているSPOTT(Sustainable Palm Oil Transparency Toolkit 持続可能なパーム油の透明性ツールキット)にも参加し、双方向のコミュニケーションを通じてパーム油産業に関連するステークホルダーに情報開示を行っています。

この他にも、天然ゴムについては、GPSNRに設立メンバーとして参画し、同プラットフォームが規定する12原則に合意の上で、当該Policy Componentに準拠しています。

森林コモディティに関する取組みについては、グローバルな企業・組織の情報開示システムであるCDPの質問書に回答する形でも公開しています。

また、鰹鮪類事業においては、2012年に鮪資源の持続的利用を目的として設立された「責任あるまぐろ漁業推進機構」(OPRT)に加盟し、自主管理規定に則った取組みを推進しています。

当社は、上述のような外部機関との協働を通じ、「指標と目標」で掲げている目標達成を目指しています。